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無神論者のエクソシスト  作者: 糖麻
第二章:石に眠る宿怨の具現者
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30話:探索魔術の使い方




「どうぞ…、一応3日前の状態のままにしてあります。」


エルゲマの言う通り、がらりと調度品の類が何も無い部屋の中には、天井面が綺麗にないショーケースの台だけが置かれていた。割られた、というより切り取ったという表現の方が正しいと思われるそれは、まるでよく切れる剣でショーケースの上半分を切ってしまったかのような状態だ。周りには飛散したガラス片などもない。


「これ…どうやって…?」


一体どのようにしてショーケースを破壊したのだろうか。キュオンのような剣士が本当に切り取ってしまったとでも言うのだろうか。


「…転送魔術の応用だろうな。」

「魔術なんですか…!?」

「あぁ、僅かだがマナの痕跡がある。」


エレアスには分からなかったが、キュオンにはそれが見えているらしい。確かに、魔術を使ったと言うならばこの不自然な割られ方にも納得がいく。


「犯人は…魔術師なんですね。」


後ろで聞いていたエルゲマが、割られたショーケースをじっと見つめて呟いた。魔術師の犯行だとするなら、誰にも気付かれないように宝石を盗み出すことは可能そうだ。しかし、同時に魔術師であるなら少し犯人が絞り込めそうだ。


「魔術師の使用人は居たか?」

「いえ…、うちの使用人はウォリアーホーン種の人間ばかりで…魔術は…。」


確かに、先程見た使用人女性もウォリアーホーン種の人間であった。ウォリアーホーン種で魔術が使える人間はほとんど居ない。そう言うエルゲマ自身もヒューマン種だが魔術は使えない様子だ。


「あの、使われた魔術は…転送魔術というものだけなのでしょうか?」


魔術の痕跡が見えるのであろうキュオンに、エルゲマは恐る恐る聞く。それに対して改めてキュオンもショーケースを見る。


「見る限りじゃあそうだな。…何かあんのか?」

「思い出したのですが…確か、あの宝石には位置座標の魔術と盗難防止の魔術がかかっていた筈なんです…!それは効いていなかったのでしょうか?」


と、ここでエルゲマから新たな重要情報が出た。

宝石自体にも二つの魔術がかかっていたというのだ。言われてみれば、これ程貴重な宝石の割にはあまりにもセキュリティが甘い気がしたが、やはりそのくらいの魔術はかけられていたようだ。確かに、一般人がこの危険な宝石を盗むとは考えにくいが、魔術師の中にはこの力を使おうとする人間がいたとしてもおかしくはない。


「転送魔術くらい派手な魔術が作動したなら分かるだろうが…、どういう魔術なんだ?」

「いえ、宝石を預かる際に当主からそう聞きいたものですから…。」


話を聞く限り、リティアート当主はこの宝石に固執していた。危険な宝石を自らの手が届く1番遠い場所で管理しているくらいだ、エルゲマ自身の管理能力に期待はせずとも、より確実な魔術を持ってして保管していたのだろう。

しかし、実際には魔術師によって宝石は盗まれてしまっている。肝心の盗難防止魔術というものは発動していないようだが、それは犯人の魔術師によって防がれてしまったのだろうか。

そしてもう1つ、宝石にかけられているという位置座標魔術だが、これが使えれば行方の分からない宝石を探せそうだ。


「今までその魔術が発動したことはあるか?」

「ない…と思います。すみません、私含め…この屋敷に魔術が使える人間は居なかったもので、具体的にどのような魔術かも…分からず…。」


やはり魔術には詳しくないようで、盗難防止魔術がどんなものなのか、位置座標魔術をどうすれば使えるのかは知らないらしい。しかし宝石探す上では、なんとかしてこの位置座標魔術は利用したいところだ。何か方法はないのか。


「キュオンさん、せめて位置座標の魔術だけでも…何とかして当主に聞いてみるのはどうでしょう?」


素直に宝石を無くしたから位置座標の魔術を使って探したい。教えてくれ。と言うのは、エルゲマが罪に問われてしまうので出来ないが、当主や当主周辺の魔術師に、位置座標魔術を他の物にかけるとして、そのかけ方を聞く分には問題なさそうだ。かけ方を教えてくれるなら、当然その使い方も教えてくれる筈だ。

エレアスが聞くも、キュオンはその提案には乗らなかった。


「いや、いい。」


そうしてキュオンは、宝石が置かれていた筈の台座へと手を(かざ)した。また魔術の痕跡がないか調べるのだろうか。


「マナを注げば分かる。」


───キィィィ…ン…


キュオンの掌から光が溢れ出る。エレアスでも分かる程のマナの量だ。こんなにマナを放出して、どんな魔術を使うのか。エレアスはその様子を固唾を飲んで見守った。


するとマナを注ぎ始めて数秒後、キュオンの背中側からエレアスが立っていた位置までがキラキラと輝き始めた。それはまるで粉雪に太陽の光が当たった時のような、もしくは光沢のある砂粒が舞い上がった時のような光景だった。

びっくりして辺りを見回すと、さらにエレアスの後ろ側、エルゲマのいる位置を通り過ぎ、先程の鍵の壊れた扉の方へとキラキラとした光が続いていた。


「凄い…!!道標(みちしるべ)みたいになってる…!」

「これが、位置座標の魔術というものですか…!?」


エルゲマにも見えているのか、ショーケースのある場所から扉の方へと続く光を目で追っていた。

位置座標の魔術というのはエレアス自身は初めて聞いたが、キュオンのような高位の魔術師には当たり前の魔術なのだろうか。


「当主が言う魔術のやり方は知らねぇが、それ用の魔術が宝石にかかってんなら、位置くらい追えるようになってんだろ。」


しかしどうやらそういう訳でも無いらしい。


「えっ…!?仕組みが分かっていないのに、マナを注ぐだけで発動させたんですか…!?信じられない…!」


魔術は奇跡の力とは違う物だ。

体内のマナを放出するエネルギーに変換した後に、そのエネルギーを目の前の物体や空間にそれぞれに合った形で作用させる必要がある。そして狙った結果を生むにはある程度エネルギーの使い方と作用のさせ方をイメージして操作しなくてはならない。この魔術仕様の流れや仕組みは術式と呼ばれ、よく使用されるような魔術は、基本術式として分かりやすく簡単な術式になっている。

つまり、魔術で望んだ結果を出すには術式を知っている必要があり、逆に言えば誰かが掛けた知らない魔術は、どれだけマナを流そうがこちらは使うことができないのだ。


「…たまたま上手くいったみたいだなぁ。」

「いや、マナがあるからって...魔術にはそれぞれ正確な術式がある筈です…!一体どうなってるんですか!?」


魔術のルールを(くつがえ)すような、とんでもないことをサラリとやってのけたキュオン。魔術に詳しくないエルゲマは意味が分からないといった表情だが、エレアスからしてみれば有り得ない事象だ。当の本人は(とぼ)けているが、一体何をどうしたというのか。


「いや、術式自体には介入してねぇよ…。」

「それじゃあどうやって…!」


エレアスの詰め寄りに、説明するのを面倒くさがっていたキュオンも渋々といった様子で種明かしをする。


「要は…、位置座標を記録する魔術なら、その通り道にその魔術が作用してる筈だろ?そこに目視できる光が出るマナを注ぎこめば見えるようになる…ってだけだ。」

「そんな力任せな…!」


キュオンが言うには、正確な術式を作動させるのではなく、あくまでも術式の回路があるだろう場所にマナを流しただけ。作動出来ずともマナを流すことくらいは出来るという抜け道を使ったなんとも強引な手法だ。


「ほら、行くぞ。」

「えっ、ぁ、ちょっと!」


これ以上はもう説明しないと言わんばかりに、光を追って部屋を出ていくキュオン。頭では理解出来たが、納得はできていないエレアスは急いでその背中を追う。


(これがエクソシスト...。ノフィアス教団によって選び抜かれた最高峰の魔術師...、そして[唯一神]に愛され[御使い]という力を与えられたという、”選ばれた存在”...。)


まるで見ている世界が違うようだった。

そんな背中を、自分は追いかけ続けることはできるのだろうか。


「って、キュオンさん!また石が反応してます!」


部屋から出て光を追いながら歩いていると、またしてもキュオンのロザリオに嵌め込まれた[魔晶石]が光った。恐らくは先程の反応と同一の[魔のもの]によるものであろう。宝石の保管部屋では反応がなかったが、やはり屋敷内のどこかに潜んでいるのか、移動していると反応が出た。

もしかすると、この光が導く先に何かがいるというのだろうか。慎重に、屋敷の中を進む。


「おや?光が...、」


屋敷の廊下をずっと歩いていると、やがて光が消えた。エルゲマが心配そうな顔でキュオンを見る。


「問題ない。さっき注いだマナがここまでしか届いてなかっただけだ。また注げばいい。」

「ああ、成程。」


そうしてまたキュオンがマナを込めると、光はさらに廊下の奥先へと進んだ。

この光にどれだけのマナを注いでいるのかは分からないが、この宝石探索はキュオンが居なくては出来なかっただろう。

しかし、もし宝石が屋敷内ではなく、どこか遠くに行ってしまっていたら、どれだけマナがあっても足りやしない。それこそ、マナが尽きた時に[悪魔]が出てきてしまったら。オーリとティオが居たとしても、苦戦を強いることになるだろう。

どんな[悪魔]と対峙することになるのか。また、エレアスの持つ道具が効く相手ならいいのだが。

いつ遭遇しても良いように、細心の注意を払う。しかし、キュオンのロザリオを見ると予想外にもその反応は無くなっていた。


「ん?あれ、石が...」

「反応しなくなったか?」


長い廊下をずっと進んで、エレアス達は屋敷の端から端へと歩いてきたようだ。しかし、いつからだろうか[魔晶石]の反応は無くなっていた。保管部屋前に行く前に反応を示した階段は、ここから見て廊下の反対側だ。つまり、反応していたのは屋敷の中央かそれより向こう側。


「いや、でもそれだとこの反応は...。」


エレアス達が居るのは長い廊下の端。そして、位置座標の魔術に込めた光のマナは、目の前にある階段を下っている。

どこへ続くのかは分からないが、少なくとも宝石の後を追っている筈なのに、[魔晶石]の反応が途絶えたということは、この反応は宝石に取り憑いた[悪魔]を指し示している訳ではなかったということ。


「この屋敷に、別の[魔]がいるということ、ですか...?」


恐ろしくも辿り着いてしまったその事実に、エレアスはキュオンの回答を(あお)ぐ。


「この光がこのまま屋敷の外に続いてたら...、そういうことだな。」


確かに、光はあくまでも最短距離での宝石の在処(ありか)を示すものではなく、宝石の辿った道筋を示しているに過ぎない。そのため、屋敷内をぐるりと回って先程石の反応のあった場所に辿り着く可能性もある。

今のところ[魔のもの]による屋敷内での被害はない。別の[魔のもの]が屋敷内に潜んでいたとしてもエルゲマ達へ害がないのなら、今優先すべきは依頼の元である宝石の所在だ。

まずは、この光が向かっている先を確かめること。エレアス達は光を追って階段を下った。



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