表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無神論者のエクソシスト  作者: 糖麻
第二章:石に眠る宿怨の具現者
29/48

28話:兄の研究と科学技術




「兄さんは...魔術が使えない人間でも、魔術と同じようなことが出来るように、と...。それで、同じような(こころざ)しを持つ人を集めて、研究をしてました...。」


この世に産まれた人間には、マナという特別なエネルギーを有した人間が誕生する。しかし、それは全ての人間が等しく得られる力ではなく、一部の人間だけが持っていた。マナを有して産まれる人間はある程度決まっており、それは人種であったり家系的なものであったりと、遺伝的な要因が大きかった。

とはいえ、マナを持たない夫婦からマナを持つ子供が産まれることもあり、逆もまた然り。兄弟で有無が違うこともあった。その場合は家系図を辿ればマナ持ちとそうでない者が入り交じっていたりするもの。しかしながら、代々マナ持ちの家系にも突然変異を起こしてマナを持たない子供が産まれることは、非常に稀な例ではあるが存在した。

マナを持って産まれる人間は、10人いたら3〜4人程といった所か。(もっと)もある程度身体が成長してからでないとマナは表出されないため、産まれた子供がマナを持つのか直ぐに判別することは出来ないため、正確な割合や詳しい遺伝メカニズムは解明されていない。


そして例のごとく、エレアスはマナを持って産まれたものの、兄はそうではなかった。


「...まあ、珍しい話でもないな。」


似たような例を知っているのか、キュオンは少しだけ目を伏せるようにして静かに言った。


幸いにも、現在は[魔晶石]という奇跡を起こせる存在が流通している。そのお陰で、マナを持たずに魔術が使えない人間が生きていく上で困ることはなくなったが、それはあくまでエクソシスト達が[魔のもの]を積極的に祓って[魔晶石]を獲得し、それを人々に配給しているからだ。時代、場所、環境によっては[魔晶石]はそうそう手に入るようなものではない。

だからこそ[魔晶石]が得られない時代や環境では、魔術が使えない人間は魔術師を頼って生活した。しかし魔術師が全員、非魔術師の見方という訳ではないようで、その能力を出しに不当な搾取をする者も歴史上多くいた。


そうした現状を変えるために、マナを持たない者は魔術師を頼らずに豊かな生活を手に入れようと、自分達でも使える技術を得ようとした。目の前にある物質や事象、自然についてのあらゆる理解を深めて、それらを人間が利用できるように考え、応用して新たな技術を生み出す。それが彼らにできる最善策だった。


「"科学"という学問自体は、古くからあった考えと技術でした。ただ...この国、いやこの世界ではそれが普及しなかっただけなんです。」


"魔術の使えない弱者"が(すが)る学問と技術は、時の為政者達には無意味で詰まらないものであった。魔術師は都市や王都でその能力を活かした仕事と特権を与えられ、非魔術師は彼らの言いなりになって下働きをするか、為政者達が見放した土地で暮らした。

非魔術師である科学の研究者達は、満足な研究費用も資材も得られず、追いやられた辺境で細々とその研究を続けた。


今でこそ、マナを持たない者への不当な扱いが見直され、ここ数百年程はその権利が守られてきてはいるが、やはり魔術が全てとされるこの世界では、良くて魔術と同等、基本的には魔術より劣る科学技術は、一部の非魔術師の人間が(つつ)ましく研究するだけの物で、今日(こんにち)まで日の目を浴びてこなかった。


「兄さんは優秀な科学者でした。

そして科学技術を世に広めるため、魔術に並ぶ技術...いや、それより優れたものにしようと、長年の研究者達の成果の積み重ねから、さらなる研究をしていました。」


非魔術師が、魔術師と肩を並べて暮らすことができる未来を、兄は望んだ。誰だって平等に、同じようなことが出来るように。


「僕は魔術師ですが...防御魔術しか使うことが出来ない落ちこぼれで、実質非魔術師みたいなものです。僕も科学者になるべく兄から様々なことを教わりました。」


大好きで尊敬する兄。兄と全ての非魔術師が願った世界の実現のために、エレアスはその背中を追った。兄と同じように研究したいだなんていう、歳の離れた幼い弟の我儘みたいな思い。それを優しく受け入れて、幼いエレアスでも理解できる部分から教えてくれた。

いつか兄と同じだけの知識を身に付けて、兄と一緒に研究したい。そんなことを夢見て、エレアスは勉学に励んだ。


しかし、その夢は叶わなかった。


「......。」


既にエレアス本人から、彼の家族が[悪魔]によって殺されたことを聞いていたキュオンは、兄との夢を語ったエレアスの悔しそうな表情を、黙って見守った。


「家族が殺されてからは、知り合いの博物学者の先生の元で、博物学と科学を教わりながら育ちました。」


幼くして天涯孤独となってしまったエレアスは、その後生きていくために大人を頼ることにした。


そんなエレアスに手を差し伸べてくれたのは、博物学によく精通している人物だった。

あらゆる動植物や鉱石、自然現象や物事について知り尽くしていたその人は、当然ながら科学技術についても造詣が深く、エレアスにとっての良き先生となった。


兄から学んだことと、科学への基礎的な考え方、それから先生に教えてもらったあらゆる物質についての知識。これらが今のエレアスを形作った要素であり、そして兄が果たせなかった夢を叶えるべく得た武器でもあった。


「そんなら...、今お前がやるべきことは[魔]祓いじゃあねぇんじゃねーか?」


マナを持たない人々に、科学技術を広めて魔術師と同じだけの市民権を得ることが目的だというのなら、魔術師が主体となったエクソシストとして活動するより、非魔術師向けに研究や講義を(おこな)った方が、よほど効率的であるとキュオンは言いたいのだろう。

しかしエレアスの兄は、それ故に亡くなってしまったと言っても過言ではない。


「実は......、家族が殺された時、他にも同じ[悪魔]や他の[悪魔]に殺された人物達が複数いました。」


あの日、家族の身に起こったこと。その後に知った、兄と同じ道を目指していた者達の末路。


「兄の研究仲間だった、...科学者だった人達です。」


兄の夢を実現させる上で、大きな障害となっているものがある。それは、科学技術が広まることに、異を唱える者の存在だ。


「もし、科学技術を良く思わない[悪魔]が居るとしたら...、あるいは...」

「...その[悪魔]を使役している科学嫌いの魔術師が居るって訳か...。」


科学が広まり、その技術がより良く研究されることで、得をするのはマナを持たない非魔術師達だ。反対に、非魔術師から搾取をすることで利益を得ている魔術師にとっては、科学技術なんて言う物は広まって欲しくないのだ。

彼らを殺した実行犯は[悪魔]だ。だが、その事態の主犯が[悪魔]なのか人間なのかは分からない。ただ、科学者ばかりを狙った犯行に目的があるとするならば、それは"科学の粛清"だろう。


「僕がすべきは、まずそいつらを消すことです。」


強い光の宿った瞳が、ぐっと握られたその(こぶし)を見た。


正直、[悪魔]が独自に"科学の粛清"を行おうとしたとは考えづらい。しかし、魔術師はどうか。魔術師には、先述した通り粛清を行うメリットがある。それに、上位の魔術師であれば[悪魔]の使役は容易(たやす)いものだろう。

だから、エレアスは家族を殺された復讐のために、そして兄の夢を叶えるために、科学を否定し家族を殺した[悪魔]を、[悪魔]を使役し非魔術師を虐げる魔術師を倒さなければならない。

いつの間にか肩から降りてきたティオを、エレアスは静かに力強く抱き寄せた。


「魔術師の力は、本来力を持たない者を助けるための力です。だから、僕はエクソシストとして人を助けたい。」


母から聞いた言葉を思い出す。

マナを持った人間が生まれるようになったのは、"神様"が人々同士で助け合うように、そのお力を人間に分け与えて下さったからだと。

エレアスがまだ"神様"という存在を信じていた時に母が言っていたことだ。

今考えれば、本当に"神様"が存在するならその力を人間全員に平等に与えるべきだと思うし、こうして争いや搾取へと発展するならマナなんてそもそも与えるべきではないと思う。実際、それらの所為で不幸になってしまう人間もいるし、死んでしまう人間もいる。救われるべき人間が救われない世界。そんな世界には最初から慈悲深い"神様"など存在しないのだ。


「そしていつかは、科学で人を助けたい。」


救ってくれる"神様"が居ないのなら、人間への救いとなるのは他の人間による救いだ。

人々が方を並べあって、お互いに助け合いながら生きる。これが、他ならぬ兄が目指した世界の在り方なのだろう。


「...そうか。

なら、まずはこの依頼者を救ってみることだな。」


目の前にあることから始めていく。

大きな目標の前では、始めから目標に向かって進むより、すぐに出来る小さな目標からこなして行く方が、より早くに本来の目的に近付くことが出来る。


「はい、もう準備は出来ています。」


その答えに、キュオンが頷く。

エレアスの(ふところ)から飛び出したティオも、やる気満々でいるのか、元気に床を飛び跳ねた。


「とはいえ今回は調査がメインだ。まずは依頼人の屋敷で宝石の周囲の調査。そんで鑑定。その時点で[魔のもの(やつら)]が出てくればいいが...、」


そうでなかった場合が面倒だ。

周囲への影響が本当に宝石によるものなのか、部屋の荒らしや身に付けた際の事故などの発生原因を調べなくてはならない。また、宝石に関する資料や文献、そして場合によってはリティアート当主にも話を聞きに行く必要が出てくる。


キュオンとエレアスそしてティオは、早速依頼者のエルゲマ・ピス・リティアートの住む、マクリアグロスの辺境にある屋敷へと向かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ