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無神論者のエクソシスト  作者: 糖麻
第二章:石に眠る宿怨の具現者
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24話:緊急依頼




「どうやらその家でも宝石の影響か、事故があったようで…、私の分かる範囲で経緯をお伝えいたします。」


その宝石についての最も古い伝承は、今から700年程も昔のこと。ある高名な貴族が危機に瀕した際に手に入れたのがこの宝石だった。無事に生還した貴族は、この宝石のお陰で自分は助かったのだと考え、御守りとして指輪に加工し、肌身離さず身に付けることにした。やがてその貴族が寿命にて亡くなった後、指輪は子孫に継承されていった。そのため、その家では指輪は家宝として扱われていったのだが、その後国を揺るがす程の大事件が起き、その家は滅んでしまったのだという。


「国を揺るがす…、それは500年前に起きたっつう"アレ"か?」

「そうです。複数の[悪魔]の暴走による大量虐殺事件…。」

「……!」


リモストロ王国にいる人間なら知らない者はいないだろう、その事件。リモストロ王国を存続の危機にへと追いやった、[悪魔]によって人間が次々と殺されていった事件だ。

[悪魔]の目的は判らず終いだったが、その後は急激に沈静化していった。別の[悪魔]による小規模な事件は各地にて度々起こることではあったが、大量虐殺事件はそれ以降起きてはいない。主犯の[悪魔]を討伐したという話もないため、人々は再びそれが起きないかと[悪魔]に(おび)えながら、少しずつ国を立て直していった。そしてそのまま時は流れ、今現在に至ったのだ。


「事件後…、宝石は行方不明となりました。その家の生き残った関係者が捜したようですが、見つからず…。時が経ち…眠ったお宝として伝承だけが残りました。」


王族や貴族の埋葬品、古い時代の遺跡、宝物(ほうもつ)というのは、往々にして学者や盗賊、コレクターの標的になることがある。高名な貴族が愛したこの宝石も、例に漏れず様々な人間が捜し求めたことだろう。


「しかし、つい30年程前にそれが発見されたのです。伝承と古い書物、魔術師による鑑定によって、その指輪が本物だという事が分かりました。」


約500年の間、どこかで眠っていたとされる宝石だ。今更見つかったと言ってもそれが伝承と同じ物であるとは限らない。しかし、鑑定により分かったということは、伝承のどこまでが史実によるものかは不明だが、少なくとも最初に手にした高名な貴族の所有品であったことは判明したのだろうか。

エルゲマは暫くずっと俯いていたその顔を上げた。


「そして様々な場所を経由し、最終的にそれを手にしたのが、リティアート家を懇意にしていた貴族だったのです。先程お伝えした通り、今はもう没落しておりますが…。」

「つまり、その宝石のことを知ってんのは現当主とあんただけってことだな。」


キュオンの大雑把な要約に、エルゲマは黙って頷く。


「なら、まずはその宝石の保管場所の調査だ。そして石の再鑑定をする。石に[魔物]が取り憑いていりゃ一番簡単だ。そいつを祓うだけだからな。」

「……。」

「だが、そうでなけりゃ石についての文献や、本家と当主についても調べる必要がある。」

「そうですね...、分かりました。」


エクソシストへの[魔]祓い依頼というのは、単純に[御使い様]のお力を借りて[魔のもの]を祓うというだけでは済まないこともあるようだ。そう簡単には正体を現さない[悪魔]や[魔物]だっているのだ、そいつらが尻尾を出すまで、追い詰めていかねばならない。


「で、モノはどこにある?」

「現在も私の屋敷で厳重に保管しております。」


教会内が宝石の持ち込みを原則禁止としているのもあるとは思うが、屋敷から出すことも出来ない程に凶悪な呪いや[悪魔]が宿っている可能性もある。様々な場所を渡り歩いてきた宝石であればその可能性は低いが、それでも宝石の場所まではエクソシストが直接行った方が良さそうだ。


その後話は進んでいき、3日後にエルゲマの屋敷を訪問することが決まった。少しだけ安堵したような表情を見せた彼は、キュオンに深々と頭を下げて帰っていった。


「さっそくエクソシストとして活動させてもらえるんですね。」

「早ぇとこ独り立ちさせねぇとな。」

「あはは……。」


エルゲマが帰って暫くした後、初めて依頼というものを受けたエレアスは、念願の夢の[魔]祓いができることに気持ちが奮い立った。

しかし、今まで見てきた小型の[魔物]や知能の低い[魔物]であれば良いが、力の強い[悪魔]と対峙することとなれば、今の状態では不安は残る。もちろん、その為にベテランエクソシストであるキュオンと行くのであるが、キュオンの言う通り何時までも二人で行動する訳にはいかない。

なるべく早く、様々な[魔物]や[悪魔]に立ち向かえるようにならなくては。それには知識や経験値が重要となってくるが、今のエレアスにはそれが不足している。今回の依頼についても、どんな[魔]が出てくるかまだ分からない。


「宝石に取り憑く奴もいるんですね。」


[魔のもの]といえば、凶暴な姿を持ってして人を襲っているイメージがあったのだが、宝石に取り憑いて周囲に悪さをするものもあるようだ。

それに関心を寄せていると、キュオンが相槌を打つようにして口を開いた───


「そうだな…。宝石以外にも」


──その時だった。


「っ緊急依頼が来ました!!」

「「!?」」


バタンッ!!と勢い良く開けられた扉。息切れしながらそう叫んで部屋へと入ってきたのは、教会職員のようだ。


「キュオン様っ、北部の村で[魔物]が暴れているとのことです!!怪我人多数です!!」

「...!!直ぐに行く!!」


キュオンを呼んだ職員は、冷静かつ口早に報告をする。それを聞いたキュオンは、剣を携えるなり直ぐに動き出した。それを見たエレアスも急いで立ち上がり、キュオンの後を追う。

行先はあの術式円部屋だ。北部の村の付近まで転移魔術で行くのだろう。駆け足で部屋へと向かうと、部屋の前にはファルコが立っている。何か他にあったのだろうかと思えば、ファルコは金色をした何かの道具を持っている。そして部屋前に到着した二人に合流した。


「私も行きます。」

「怪我人は頼んだ。」

「ええ。」


短いやり取りではあったが、キュオンもファルコも何をするかはお互い分かっているようだった。

そのまま三人で北部の村へと向かった。






********






ファルコの先導により、報告のあった村へ急いだ。

到着してみれば、キュオンとファルコを見た村人が二人に縋るように声をかけてきた。


「ああ、教会の方!あっちです!!」


そう指さされた場所は民家の集まる方角だ。村人に案内を頼み、直ぐにその現場へと向かう。

向かっている途中、体のあちこちに傷や打撲跡を負っている人間と数多くすれ違った。

そして、現場の方向からこちらへ向かってくる人間もまた同じように傷を作っていたため、その村人に状況を聞いた。


「人形です!人形が急に暴れだして...!!」

「人形が?」


にわかには信じがたい話であった。しかし、すぐ側で大怪我を負って介抱されている男が、ガタガタと震えながら、人形が...人形が...と譫言(うわごと)のように呟いている。おそらく、人形にその[魔物]が取り憑いているのだろう。

するとその怪我人の元へ歩み寄ったファルコが、怪我の状態を確認しつつキュオンに声をかける。


「私はここで怪我人を治療します。二人は現場に向かってください。」

「分かった。」


そう返事をしたキュオンは、振り返ることなく既に駆け出していた。慌てて追いかけるエレアス。チラリと後ろを振り向くと、ファルコが先程手に持っていた道具が空中へと舞っていた。


「あそこです!!」


村人が告げたその場所は、納屋のような建物の前だった。複数の傷だらけの村人が、一箇所に集まって何かを囲んでいる。そして魔術師と思われる老人が二人、少し離れたところで魔術を維持しようと、人が集まっている方へと手を翳しながらマナを込めていた。


「教会の方が来てくれた!」

「あれがその人形です!」


村人達はキュオンの姿を見ると、一斉に道を開けるようにして()けていった。人集りが出来ていた場所には、数人の人間が地面に人形を押さえつけていた。

よく見れば、人形は布製だった。身体は綿入りの布、髪は毛糸で出来ており、子供が持っていそうな見た目の可愛らしいものだった。

しかし、その人形の腹部と首の部分を、それぞれ大きめの術式が書かれた布が覆っており、地面に縫い留めるようにして抑え込んでいた。さらに、その四肢は村人の手によって拘束されている。とても異様な光景だった。


「あいつが急に動き出したそうで、最初に狙われた奴は腕を切られ、首を絞められました。その後も、止めに来た者から関係ない者まで切り付けられて...。」


人集りを作っていた内の一人の村人が、被害について報告してきた。地面を見れば複数の血痕があり、人形の近くには割れた陶器の破片が血塗れになって転がっていた。


「数人がかりでなんとか押さえ込みましたが...、魔術ももう限界です...。」


ちらりとキュオンのロザリオを見るエレアス。[魔晶石]は点滅するように輝いている。間違いない、あれは[魔のもの]だ。村人だけで押さえられたことを考えると[魔物]に相当するものだろう。

しかし、魔術師でない人間からすれば[魔物]も立派な脅威だ。この村には魔術師が居たようだが、一般の魔術師...それも村の高齢魔術師には拘束魔術を二人がかりで行ってやっとのようだ。


「少年、やれそうか?」

「えっ、ぁ、はい!!」


異様な光景と光る[魔晶石]を前に立ち尽くしていたエレアスに、キュオンは言った。一瞬困惑したものの、見習いとはいえエクソシストなのだ、このくらいの事で動揺してはいけない。村人達が押さえているため、この[魔物]を消滅させるのは簡単だ。見習いエクソシストと[御使い](仮)としては丁度良い。


「ティオ!あの[魔物]を倒すよ!」


肩にいるティオに声をかけ、人形の目の前にエレアスは向かった。押さえられている[魔物]は顔や見た目こそ普通のぬいぐるみ人形であったが、拘束を抜け出そうともがいている。そしてその腕は村人達の血で染まっていた。押さえている村人の腕も、もう切り傷だらけだった。


「この前みたいに、やるんだよ。」


ティオを人形の目の前に置く。その際、ティオの両手を少し手で引っ張ってやると、ティオはそのまま腕を伸ばした。


「おお...、」


村人達から声が上がる。

ティオはそのまま両腕を伸ばして触手にし、人形の両腕を縛り上げた。

拘束の必要がなくなった村人は、ティオの邪魔をしないように後ろへと下がった。そのまま縛った人形を空中へと持ち上げると、人形は血に染った足をバタつかせて抵抗した。それを見て、村人達は恐怖に(おのの)き固唾を呑んで見守った。


「いいよ。そのまま......引き裂いて。」


ティオに動きが分かるよう、自らの握り拳を前に出し、それを左右に勢い良く引き離して見せた。それを見たティオは暴れる人形を他所(よそ)に、エレアスの動きを真似るようにして、縛り上げた人形の両腕をそれぞれ勢い良く引っ張った。


───ブチッ!ビリ、ビリリリ……、


その瞬間人形の足は動きを止め、引き裂かれて出て来た綿の部分から徐々にサラサラとした灰になっていった。



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