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無神論者のエクソシスト  作者: 糖麻
第二章:石に眠る宿怨の具現者
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22話:新しい友達




「こりゃあ派手に割れたな。」


拠点に着いたアロスは、早速案内されたガラス窓へと向い、その惨状を観察した。格子(こうし)のない、枠状の支柱に支えられた一枚の大きめの窓ガラスだったため、人ひとりが簡単に通り抜けられる程に割れてしまっていた。

これは枠ごと新しい窓を嵌め込まないと直らなさそうだ。


「しっかし…、凄い家だな…ここに住んでんのか。」

「まぁ、そうですね。家というか、研究拠点というか…。ちょっと今は荒らされたままなんですけど…。」


割れた窓ガラスはエレアスの自室兼研究用の部屋の窓だ。部屋には実験に使う道具や素材、実験に失敗した産物などが置かれている。一見すれば、とても家の中とは思えない様相だ。さらには、先日の一件で部屋の中は物が落ちていたり、ベッドもぐちゃぐちゃで壊れているものもあった。もはや人が住んでいるとも思えない。


「はあ〜、研究。それでこんなに色々あんのか。」


関心したような顔で、並んだ瓶やら本やらを眺めている。一般人には何の物体なのか、何に使うものなのかなどさっぱり分からないだろう。

部屋の中が荒れていたのに触れないのは、(あらかじ)め事の顛末について説明していたからか。あるいはそういう部分は気にならなかったのか。


「その年で学者様みてぇなことしんてんのか。流石は恩人様...、俺達とは頭の作りから違うみてぇだ。」


アロスは部屋の様相にそれ以上興味を示すことなく、別世界の話だと(かぶり)を振って、それよりも、と割れた窓ガラスの方へと向き直り、持ってきた道具の中から物差しを出して、窓枠の大きさを測っている。職人は仕事にしか興味ないようだ。


「おし、だいたい分かったから後は任せな。明日の夕方までには持ってきてやるよ。」

「明日!?早いですね!?」

「そうか?こんくれぇ大したことねぇさ。」


そう言ってアロスは道具を仕舞うと、驚くエレアスを他所にそのまま部屋を出ていく。流石は職人だ、窓ガラスを作るのは朝飯前らしい。明日の日没までには設置してくれることになった。そして約束を取り付けたアロスは、日が落ちる前にと帰って行った。


残されたエレアスとティオ。

とりあえず荒れたままの部屋を片付けねば、と落ちて割れた瓶から片付けていくことにする。アロスは気にしていない様子だったが、窓ガラス同様流石にこのままにしておく訳にもいかない。明日またアロスが来る時までには綺麗にしておこうと、エレアスは部屋の掃除をすることにした。ティオの方は、割れた瓶の欠片を拾うエレアスの横で大人しくそれを見ていた。

荒らされた日にも確認したが、窓や瓶は割れて[魔晶石]もなくなっていたが、それ以外の物は盗まれたりはしていないようだった。ここにあるものは研究用の大事なものばかりであり、中には兄から託された研究資料もあった。そんな形見のようなものもあるのだ、それらが無事で本当に良かったと思う。

そう思いながら部屋を片付けていると、ふと目に入ったティオが、棚の隅に置かれた空き瓶に無理矢理体を滑り込ませようとしていた。


「えっ!?何、どうしたの!?」


ティオの体は流動体のようなものだ。入口の狭い瓶に向かってそのまん丸な体の形を変えて入ろうとしていた。中に何かある訳でもない空き瓶に、一体どうしたのだろうか。


「入りたいの…?」


生憎、瓶はティオに比べると小さく、どんなにティオが形を変えて入ろうとしても、そもそも体積的に無理であった。どういった理由があるのかは知らないが、ティオが入るのであればもっと大きな瓶が必要そうだ。

見かねたエレアスは、物置に置いてあった大きめの空き瓶を取ってきた。


「…こっちなら入るんじゃない?」


隣にそっと置いて、恐る恐る声を掛けてみる。

すると、ティオはきゅぽんっと小さな瓶から押し込んでいた体を出して、エレアスが差し出した瓶の方へと這い寄った。

瓶はティオより大きく、口も十分に広い。それを確認したのか、ティオは大きな瓶に向かって勢いよく入っていった。


───たぷんっ!


水が揺れた時のような音を立てて、瓶の中がティオで満たされる。元々丸かった体は、瓶の形に合わせて液体のように下の方に纏まっていた。

まるで、バスケットで昼寝をする猫のようだ。力を抜いてだらけているようにも見える。


「ふふっ、そこで寝るの?」


その様子が面白くて、エレアスはくすくすと笑った。

ティオはたぷたぷとゆっくり揺れている。リラックスしているのだろうか。


「ずっと動きっぱなしだったから、疲れたよね。」


ティオの様子を見ていたエレアスもなんだか少し眠くなる。今日は最低限の片付けだけ済まして、あとはゆっくりと休もうか。

少しだけ整えたベッドに腰掛けたエレアスは、そのまま瓶の中で休むティオを眺めながら静かな夜を過ごした。






********






「にいちゃーん!いるー!?」


翌日、部屋の整理をしながら、アロスが修理に来てくれるの拠点で待っていたエレアスの元に、元気で明るい大きな声が響いた。

時刻は昼前、そしてこの声はゼールのようだ。夕方頃の来客予定しか把握していなかったエレアスは、思わぬ客人に扉を開けるのが遅くなった。


「ぜール!イオにヴィオ、モネとフィロも…!どうしたの?」


扉を開けた先には近くの農村の子供達。エレアスが文字や算数、科学を教えているので所謂教え子なのだが、今日は全員揃って来ていた。


「どうしたもなにも、今日はじゅぎょうの日でしょう?」


しっかり者のモネが言う。

エレアスが子供達に授業を開くのは3日に一度だ。子供達の家の手伝いと、エレアスの研究などの都合により、毎日は出来なくとも3日に一度は行うようにしていた。

確かに、[魔物]に襲われた日から3日が経つので、今日はモネの言う通り授業をする日である。


「あっ、そうだったね。ごめんごめん。今から授業やろうか!」


慌てて取り繕う。昼過ぎにはアロスが窓ガラスの修理に来るだろうから、子供達の相手が出来るのはそれまでだ。しかしすぐに授業をすると言っても、油断していたため、今日は特に準備している物がない。

どうしようかエレアスが考えていると、ゼールがエレアスを問い詰めるように言った。


「にいちゃんってば、昨日あそびに来たらいなくって!それなのに、まども割れててびっくりしたんだよ…!」


心配そうな瞳は、エレアスの姿を捉えて揺れていた。

確かに、この丸2日間程拠点を空けていた上に、荒らされた状態のまま出てきてしまっていた。そんな折に拠点に遊びに来ていたのだとしたら、心配するのは当たり前だ。何か事件に巻き込まれたんじゃないかと、誰だってそう思うだろう。

ゼールの言葉に、イオとヴィオも続く。


「あの黒いのに追いかけられた後だったから…、」

「にいちゃん、大丈夫かなって…。」


震える声でそういうのは、[魔物]に襲われた時のことを思い出しているからか。イオとヴィオは、あの黒い獣に追いかけられた上に、目の前でエレアスが怪我をしたのを見ている。

それもあったため、余計に心配を掛けてしまったことだろう。


「そうだね…驚かせちゃったね。…僕は大丈夫だよ!」


子供達に元気な姿を見せる。少しは安堵してくれたようだったが、余程あの事件がトラウマになったのか、いつもより子供達の元気はないような気がする。

しかしエクソシストとして活動することになったエレアスは、これから似たような事件に巻き込まれることが増える。実際、[悪魔]にだって既に遭遇している。子供達にそれを言うとさらに心配を掛けてしまうだろう。だから、この2日間であった良い出来事の方を伝えてみることにした。


「そうだ!あの後ね、僕に新しい友達が出来たんだ。紹介するよ!」


そうして、エレアスの後ろで棚の影から覗き込むようにして子供達を見ていたティオを、両手で抱え上げる。

人見知りを発動しているようだったが、きっと子供達とならうまく馴染めるだろうと、そのまま子供達の目の前にティオを出してみた。[魔晶石]が目の前になければ案外大人しいティオは、されるがままに子供達の前に披露される。

急に見たことの無い生き物を見せられた子供達は、少し驚くとその後すぐに好奇心に目を輝かせた。


「黄色いおもちだ!」

「なにこれ!まんまる!」

「かわいい!」


エレアスの両手に乗ったティオを見て、子供達は興奮気味にきゃあきゃあと騒ぎ出す。丸いフォルムに、もちもちでふかふかそうな見た目が気に入られたようだ。喜んで貰えたようでなによりだ。


「にいちゃん、この子なぁに?初めて見たわ!」

「にいちゃんのペット?」

「ペットというか…友達かな…。ティオって言うんだ。言葉は話せないけど、とってもいい子なんだよ。」


不思議な生き物に興味を示す子供達。その中でもモネは少し冷静に、ティオがどんな生き物なのかを観察している。ゼール、イオ、ヴィオは、ティオを360度見ようとして、エレアスの周りをキョロキョロと動き回った。

そんな中、モネの後ろに隠れていたフィロが、おずおずと前に出てきてエレアスに小さな声で言う。


「かわいい…。さわってもおこらない?」


普段引っ込み思案で誰かの後ろに隠れてばかりのフィロが、自ら勇気を持って一歩を踏み出した貴重な瞬間だ。それ程までに、ティオが魅力的に映ったのだろう。


「大丈夫だよ。ティオは賢いから、手を出したらきっと握手してくれるよ。」

「ほんと?」


そう言って恐る恐る手を伸ばしたフィロ。ゆっくりゆっくりと近付くその手に、ティオも意図を理解したのか、フィロの真似をするようにその手を伸ばした。フィロの小さな(てのひら)に重ねるように、長く伸ばした触手をそっと置く。


「!…わわっ!」

「よかったね。みんなとも友達になってくれるみたい!」


触ってみて、ぷにっとするような、ふわっとするような、そんな独特の不思議な感覚がしたのだろう。嬉しそうにティオの手を握ってみるフィロ。それを見た他の子供達も、自分も触ると言って順番待ちをしだした。そっと手を離したフィロは、ほっこりとした優しい笑顔で、またモネの後ろへと戻っていく。

子供達はどうやら、先程まで心配事は忘れて新しい友達に夢中になっているようだった。


「さて、じゃあ予定通り授業をしようか。」


一通り触れ合い終わったところで、ごほんと咳払いをしつつ当初の目的を思い出させる。

ちょうどエレアスにも授業のアイデアが湧いてきたところだ。


「…算数はある程度できるようになってきたから…、今日は本を読むのに挑戦してみるのはどうかな?」


確か、子供達が好きそうな動物の図鑑が部屋にあったのを思い出した。ふわふわの動物達が載っていたはずだ。動物の生態と共に、文字を読むのは良い勉強になりそうだと、エレアスは部屋の奥へと本を探しに向かった。



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