表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無神論者のエクソシスト  作者: 糖麻
第一章:幾星霜の密謀の果ての萌芽と嚆矢
20/48

19話:見習いエクソシスト




「では本日付で、エレアスくん...君をエクソシスト見習いとして、このノフィアス教マクリアグロス支部教会で迎えよう。」

「よろしくお願いします...!」


実際の扱いとしてはノフィアス教の教徒ではなく、外部の協力者ということだが、エクソシストとして活動していくにあたっては、表面上だけでもマクリアグロス教会所属の見習いエクソシストという方が都合がいいのだろう。

司祭やキュオン、ナテマの服装を見る限りでは、濃紺の服に金の装飾という制服のようなものがあったり、教団のシンボルマークのようなものや、[魔晶石]を身につけていたりとそう言ったルールがありそうだが、教団のルールや[唯一神]への信仰はエレアスには強要されない。あくまで、単純に[魔物]と[悪魔]の排除に協力するのみだ。


(しばら)くは今日と同じく、キュオンと共に[魔のもの]の討伐に協力して貰おう。今日のように突然の討伐となることもあるが...、主には依頼や司教様からのご指示で動くことになる。」

「わ、わかりました...。」

「ま、最初のうちはそうそう面倒な指示はねぇから安心しろよ。」


今日の[悪魔]との対峙は、キュオンとオーリ、それから成長したあの不思議な生き物のお陰でなんとかなったようなものだ。エレアス一人、あるいは生き物と一緒に居ても、いきなりあのような[悪魔]がでてきてはエレアスに勝ち目はない。それに、今日見た[悪魔]はおそらく昔エレアスの家族を襲った[悪魔]と比べれば限りなく[魔物]に近いレベルの強さと知能だろう。本物の[悪魔]は、もっと残忍で恐ろしく強い。しかしいずれは、あの[悪魔]にも対抗できるだけの力を付けなければ。


「あの、依頼や指示というと具体的にどんな感じなんですか?」

「依頼は、一般市民や一部周辺地域に[魔物]による被害の訴えがあれば、調査し討伐する。司教からの指示だと、地方レベルで大きな被害を出している[魔物]や[悪魔]、あるいは[悪魔信者]による邪教団の制圧だ。」


エレアスの質問にキュオンがさらり答えるが、思ったよりも壮絶なようだ。[魔物]の駆除だけでなく、[悪魔信者]達を制圧することもしているとは。

分かってはいたが、かなり命懸けな役割であると言えよう。


「もちろん仕事だからな。働きに応じて報酬も出る。」


[魔物]や[悪魔]を倒すことが目的であるエレアスとしては、エクソシストとして活動することが出来るだけでも有難い。たとえノフィアス教の教徒だと思われたとしても、そちらの方が色々と動きやすく、また他のエクソシスト達の協力も得られるのなら、それに越したことはない。しかしそれに加えて報酬も出して貰えるらしい。単純に収入源が増えることは良い事だ。もちろんエレアスは頷く。


「ありがとうございます。頑張ります。」

「あと、できれば...週に1度は私の元へ来て欲しい。

その子の様子を見たい。」


司祭が生き物の方を見る。

確かに、昼にここで見た時は丸いフォルムをしていた生き物が、帰ってきた時には左右に手のようなものが生えて帰ってきたのだ。[御使い]とも言えない未知の生物を把握しておきたいのは当たり前だろう。むしろ週に1度で良いだなんて、その程度の監視で大丈夫かと問いたい程だ。しかし司祭はエレアスとこの生き物を教会に縛り付けるつもりは無いのだろう。あくまで協力者であり、自由を奪うことはしないという、優しく粋な計らいだ。


「もちろんです。この子に変化がありましたら報告しますね。」


司祭の誠意ある対応に、エレアスも誠意を持って対応することにする。そっと抱き上げた体。左右についた小さな手は、嬉しいのか興奮しているのか、ぴこぴこと動いている。


それを見いていたキュオンが、少しの沈黙の後に言う。


「...なぁ、せっかく仮にも[御使い]の扱いになるんだ、そいつにも名前つけてやったらどうだ?」


そいつ、と言うのはこの生き物のことだ。

確かに、この子やあの子、この生き物と指示語を使っていたが、これから一緒に行動する分名前がないと不便なことも多くなるだろう。それに、キュオンと契約している[御使い様]にはオーリという名前があった。あれは彼が付けたのだろうか。

一応、コリィがもちもちちゃんという愛称を付けてはいたが、あれは彼女が勝手に呼び始めたのであって、正式な命名ではない。

見たところ種族名などはなさそうだし、自ら名を名乗ることも出来ない。エレアスに対してだけではあるが、人懐っこいためエレアスに出会う前に名前を貰っている可能性もあるが、それは今のエレアス達には知る(よし)もない。


「名前...確かに、考えてみます。」


一緒に行動することになるエレアスが所謂"飼い主"ということになるのだから、名前はエレアスが決めることになる。

でも、どうせだったらこの子も気に入る名前にしなけば。その場で考え込もうとするエレアスだったが、司祭は窓の外を見て言った。


「さて、今日はもうすぐ日が傾く。色々あったことだし、今夜はここに泊まっていってはどうかね?」


言われるがままに外を確認してみれば、既に太陽がオレンジ色に染まり初めていた。

この教会からエレアスの家までの距離はかなりある。コリィの村から2時間程度かかったことを考えると、今ここを出て拠点にしている小屋まで帰ると、道中で日が沈んでしまうだろう。暗くなっては[魔物]が活発になって危険だ。

昨日も[魔物]退治に泥棒捕獲と色々あってコリィの家に泊まることとなったが、今日もまた色々な出来事があった。あまりにも色濃い2日間に、エレアスもさすがに疲れていたため、素直に司祭の厚意に甘えさせてもらうことにする。


「ありがとうございます。」

「よいよい。部屋はナテマに案内させよう。この教会のことは私より詳しいからな。」


そうして、鏡を通じてナテマを呼んだ司祭。そして数分後に現れたナテマは、生き物に手が生えたことを気付いて可愛いと大はしゃぎした。また、エレアスがエクソシスト見習いになったと聞いてそれにも大はしゃぎだった。

エレアスと生き物は、ナテマに今日のことを質問攻めにされながら司祭の部屋を後にした。






********






「[魔晶石]を食べ、成長する生き物...。」


エレアスとあの生き物が出ていった後。キュオンと二人になった司祭は窓から見える夕日を見つめ、また髭を撫でながら神妙な面持ちでそう呟いた。


「それと、[魔晶石]を集める[悪魔信者]たち...。」


司祭の首にかかっているロザリオの[魔晶石]が夕日を反射して、キラキラと輝いた。それは、近くにいる[魔物]と共鳴した時の光よりもずっと美しく煌めいていた。


「お前さんはどう思う?」


その言葉はキュオンに投げかけられる。

同時に浮上してきたこの問題は、マクリアグロス教会にとっては到底見過ごせないものだった。[悪魔信者]に関してはこの地域だけではなく、隣接するいくつかの地域にも関わってくるものかもしれない。

そして、[魔晶石]を食べて成長する[御使い様]のような生き物の発見。これは教会にとっては朗報のようだが、今後の在り方次第では大きな問題となってくるかもしれない。そしてそれは、このマクリアグロス教会だけでなく、ノフィアス教団全体...あるいは国中を巻き込んだものになる恐れすらもある。


「...知るかよ。俺は[悪魔]を倒すだけだ。有用なら歓迎する。」


キュオンはそれだけ言うと、席を立つ。

部屋を出ようとするキュオンに、司祭は引き止めるように声をかける。


「エレアスくんは自身はどうだったかな?」

「...マナは少ねぇし危なっかしいが、頭はいい。魔術がまともに使えねぇ分道具使ってなんとかしてる。」


すんなり答えたキュオンは、意外にもエレアスのことを評価した。


「さっきの悪魔も、半分はあいつの功績だ...。確かに魔術師としては弱いが、あいつは使える。」


それを聞いた司祭はほっと胸を撫で下ろすと、少しだけ目を伏せながら、今度は溜息を付くように言った。


「あれの観察のために彼にエクソシストを提案したが...、あの年頃の子を巻き込んで、これでよかったのか...。」


まだ親元を離れていないコリィとそう変わらないであろう、小さな背丈の少年。ずいぶんとしっかりはしているようであったが、やはり笑った顔は年相応であった。

本人が承諾したとはいえ、そんな彼を常に危険と隣り合わせのエクソシストにするなどと、人の良い司祭には心苦しい選択だった。

一方で扉の目の前に立つキュオンは、背中で司祭の言葉を聞いていたが、心配だったのか言葉尻が小さくなる司祭に、ぶはっと吹き出すと、そのまま肩を震わせてくつくつと笑った。


「問題ない。あいつは俺と同じだ。」


きっぱりとそう断言したキュオンに、司祭は言葉を詰まらせる。その一言に全てを察した司祭は、それ以上を彼に聞くでもなく、静かに頷いた。


「そうか...、全ての人々たちが笑って暮らせる世にしたいものだ...。」


窓越しに見る夕日に照らされた麓の街は、いつもと変わらない賑やかさで溢れていた。

この街を、人を、世を守るために、[悪魔]は排除しなくてはならない。奴らのせいで大切なものを奪われた人間は数え切れない程多くいる。


「大聖堂と司教にはこちらから報告しておく。エレアスくんのことは頼んだぞ。」

「人手が増えるのはいいが、面倒事は嫌いだ。エレフにさせろ。」


一貫して断るキュオンだったが、そこは長い間彼のことを見てきた司祭だ、そういう反応になるのは分かっているがそれでもキュオンに言っているのは、そこに確かな信頼があればこそ。


「帰ってきたら考えよう。まぁ、お前さんはなんだかんだ世話焼きだから大丈夫だな。」

「何言ってんだ。」


吐き捨てるように言って部屋を出て行ってしまったキュオン。

最初から面倒だなんだと言いながらも、結局はエレアスとあの生き物のことは最後までみていた。無意識かどうかは分からないし、単なる照れ隠しなのかもしれないが、それを見抜いている司祭は安心してキュオンにエレアスと生き物を預けるのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ