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無神論者のエクソシスト  作者: 糖麻
第一章:幾星霜の密謀の果ての萌芽と嚆矢
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17話:"敵"の存在




思い返せば、転移術式円を使おうとして小屋に入る前、泥棒は俺は悪くないといい始めた。確かにその時、巻き込まれただけだと、言われてやったと話していた。それに、教会(おまえたち)の敵は背の高い泥棒の方だけだと。


「じゃ、じゃあ…、あれが"教会の敵"…ですか?」

「かもな。最初に奴が[魔物]に狙われたことを考えると、あの[魔物]の群れ自体…、」


キュオンが背の低い泥棒を見て言う。

確かに、この男が告発をしようとした瞬間に[魔物]が襲ってきた。


「……!ってことは、誰かが[魔物]達を使役している…!?」

「断言はできねぇが…。とりあえず、教会に戻る。報告しに行くぞ。」


雰囲気を察知したのか、生き物はエレアスの肩へ飛び乗った。キュオンに急かされるままに小屋に入り、再び転移術式で教会へと戻る。転移が完了したと同時に足早に部屋を出て、司祭がいるはずの建物へと向かう。


キュオンの考察が正しければ、"教会の敵"とやらが[魔物]を使役して泥棒二人の口封じを行ったことになる。それならば、通常は穏やかであるはずの森から、急に複数体の[魔物]が現れたのも納得はできる。

しかし、人間が[魔物]を使役するなど聞いたことがない。それに、[悪魔]と言っても差し支えない程の強い存在すらもいた。あれらが人間の言う事を聞くとは到底思えない。


考えている間に、司祭の部屋に着く。キュオンはノックもそこそこに、入るぞと声を掛けるなりすぐに扉を開けた。


「おお、キュオン。戻ったか。」

「爺さん、話がある。」

「随分と急ぎみたいだな。何かあったのかね?」


キュオンの様子に、司祭もただならぬ雰囲気を感じ取ったようだ。


「泥棒共が殺された。恐らく…"[悪魔信者]"の仕業だ。」

「なに…?」

「南側の村の転移円のすぐ傍だ。死体も調べた方がいい。」

「分かった。すぐに回収させよう。」


そう言って司祭はすぐに壁にかけてある鏡に向かった。鏡は普通に司祭を映しているが、司祭が鏡に手を翳すと、額縁に掘られた術式が淡く光り、別の部屋の様子が映った。

司祭が声をかけると、どこからが人がやってきて鏡の向こう側に現れた。司祭が死体の回収を命じると、相手は慣れた様子ですぐに了承して、鏡は普通の鏡に戻った。


「それで、奴らが関わっている、と…?」

「ああ。思ったよりでけぇことに首を突っ込んじまったかもしれねぇ。」

「……。聞こうか。」


奴ら、というのは恐らく先程話に出てきた"[悪魔信者]"と呼ばれた存在のことだろうか。聞きなれない言葉だ。言葉の通りなら、[悪魔]を信仰する人間がいるということだ。


キュオンは、村で泥棒を引き取った辺りから、転移術式円のある小屋前で[魔物]が現れた時のことを話した。そして、一際強い[悪魔]に近い存在が現れたことと、泥棒が放った言葉についても。


「泥棒に[魔晶石]を盗んでくるように言ったのは奴らだろう。何の為にかは分からねぇが、詳しく言わないよう口封じしたと見える。」

「ふむ…、そして泥棒の内の1人は、奴らに洗脳されておったと…。」


一連の話から、背の高い泥棒は[悪魔信者]によって洗脳されていたらしいこと、背の低い泥棒はそいつらに言われてやったのだろうということが分かった。

しかし、肝心の[魔晶石]を盗ませた理由と、[悪魔信者]の正体については分からず。


「実際に見たのは1人だったが、真っ先に[魔物]が泥棒を襲ったのを見るに…[悪魔信者]か、その仲間が仕組んだことだろう。」

「確かに…[魔物]は村の近く森から出てきているようでしたが、村では被害は出てませんでした…。相当数の[魔物]が居ましたが、僕達のいた場所だけに向かって来ていたようです。」


キュオンの推測に、エレアスもそれを裏付けるような情報を出す。

泥棒を引き取るためにコリィと村へ行った際は、道中の小屋や森の近くで[魔物]の被害はなく、それどころか気配すら無かった。あれだけの[魔物]が森に住み着いていたのなら、今頃あの辺りは危険地帯として認識されているだろう。そうではなく、急に現れたとあっては、[魔物]を率いている誰かがいると考えてもおかしくはない。


「奴らはしくじった泥棒を殺ろうとしたが、俺たちがその邪魔をした。なんなら(けしか)けた[魔物]を(ことごと)く消され……、エクソシストだと気付いたのだろう。」

「…敵であるエクソシストごと殲滅するために、[悪魔]を呼び出した、か……。」


司祭が納得するように深く頷いた。

眉根を寄せて、少し遠くを見ている。


「つまり、[悪魔]を使役するようなとんでもねぇ奴らが、この辺りにいやがるってことだ。」

「……。」


[悪魔]を使役する人間。それを聞いて、エレアスはごくりと唾を飲む。

[悪魔]は全ての人間にとって害でしかないと思っていたが、それを崇め、信仰し、そして使役するような人間がいるだなんて。[悪魔信者]という存在。それはエレアスの思い描く理想に、陰りを差すものであった。


「そして…、問題なのは奴らが[魔晶石]を集めている、ということか。近隣住民のための石を奪いまでして…。」


司祭の部屋の机には、数刻前にエレアスから返された[魔晶石]の入った袋。それを見つめた司祭は苦々しい顔をすると共に、蓄えられた白い髭を数度撫で付けた。


「何故集めているのか、どういった組織が集めているのか、そこについてはまだ調査が必要だが……、同じような犯行や[魔晶石]の流通に怪しい流れがあれば、そこを追うしかない。」

「うむ、同じように石を配っておるフリソヒオの教会にも注意を呼びかけよう。今は向こうにエレフも居ることだしな。」


キュオンの考えに司祭も賛同する。

司祭の話からすると、隣町のフリソヒオにも同じくノフィアス教の教会があるようだ。これから、各地の教会で[魔晶石]の流れを追っていくこととなるだろう。

そして、[神の御使い様]の契約者の1人として名前が上がっていたエレフという人物は、今はそのフリソヒオにいるようだ。同じように[悪魔信者]が[魔物]を使役して襲ってくる可能性もあるため、現地調査などはエクソシストが対応した方が良さそうだ。

[悪魔信者]達がどこを拠点にし、どのように活動をしているかは不明だが、その解明はこれからの調査次第というとこだろうか。


「そしてもう1つ、重要報告がある。」


[悪魔信者]についての報告がひと段落した所で、キュオンが同じトーンで話を続ける。


「今度は何だ?」


また何か問題が起きたのかと、司祭も訝しげにキュオンを見た。

そしてキュオンは、(おもむろ)にエレアスの方を見た。いや、正確にはエレアスの肩に乗っている生き物の方を見た。その視線に合わせるように、司祭も生き物の方を見やった。


「少年と一緒にいる生物だが…、やはり[御使い]と同類の可能性がある。」

「なに?」


その言葉に、司祭は目を丸くした。

司祭が驚くのも無理はない。エレアスとキュオンも自分たちの目を疑ったのだから。


「襲ってきた[魔物]のうち、弱ってはいたが2匹を消滅させやがった。」

「ほう…、では本当に…、」


元々、[神の御使い様]のようだと聞いて、そんなまさかと思いつつ、この教会に正体を探りに来ていた訳なのだが、実際その[御使い]と同じ能力を持っている分かると、やはり信じ難いものだ。

まだオーリという[御使い]しか見ていないが、その存在はまさに"神の御使い"という雰囲気で、神聖かつ恐ろしくも美しい存在感を持っていた。

それと同類……と言われても、いまいちピンとは来ない。


「そういえば、最初に見た時より少し様子が変わったかね?」


エレアスの肩で大人しくしている生き物をじっと見つめる司祭。その視線は、生き物の左右に生えた突起を捉えていた。


「…はい。先程の[悪魔]との戦闘の後、手のようなものが生えました。」

「突然?」

「それは、なんというか、色々ありまして……、」


正確には、[悪魔]から出てきた[魔晶石]と謎の木片を食べた後ではあるのだが、それを誤解のないように説明するにはどうしたらいいかと、エレアスは言葉を濁らせる。


「[魔晶石]を食った後…、だったな。それと[悪魔]から出てきた古い木。」

「[悪魔]の石を、食べた……?それで、手が…?」


しかしキュオンが、それはもうストレートに報告したものだから、なにやら[悪魔]の悪い力が生き物に宿ってしまったかのようになってしまった。

実際には、石は[悪魔]のものだけでなく[魔物]のものも食べるし、食べたからと言って今までは何も起こらなかった。


「ああ、いや!石を食べるのは昨日からそうでした!…でも、変化があったのは先程が初めてです…。」

「つまり、この子にとっては石が食事なのか…?」


再び髭を撫で付けた司祭は、テーブルにあった先程の泥棒から回収した[魔晶石]を手に取った。それを、生き物の前に差し出す。しかし生き物は警戒しているのか、遠慮しているのか、[魔晶石]を前にしているのに動かない。


「ところ構わず食いつく訳ではなさそうだ。…では、エレアスくんからなら食べるだろうか?」


そうして司祭はエレアスにその石を渡す。エレアスも戸惑うが、司祭がにっこり笑って頷いたのを見て、同じように生き物の前にそれを見せた。


「食べてもいいってさ。いらない?」


エレアスが聞くと、生き物は少しの間じっと止まっていたが、とうとう片方の突起を長く伸ばして触腕のようにした。エレアスの手にある[魔晶石]にその腕でちょんっと触れると、恐る恐る石に先を巻き付ける。そのまま石を包み込むようにして持つと、腕の先が少し膨らんで、石を取り込んだのが分かった。



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