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無神論者のエクソシスト  作者: 糖麻
第一章:幾星霜の密謀の果ての萌芽と嚆矢
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11話:司祭の提案




「いいんですか!?」


[御使い様]とその契約者に会ってみてはという司祭の提案に、エレアスは喜んだ。

ちょうどその時、お茶を汲みに行っていたナテマが戻ってきて、聞こえたのであろう契約者の話に混ざった。


「キュオンとエレフのことねぇ。エレフはしばらく不在にしてるけど、キュオンならその辺にいるはずよ。後で会わせてあげるわ。」

「ありがとうございます。」


スっと差し出された紅茶のお礼と被りつつも、契約者との会合に協力してくれるというナテマに礼を言う。

このマクリアグロス教会には契約者が2人いるらしい。その内の1人とはすぐに会えることができるようだ。


神が人間に使わした、聖なる[御使い様]。司祭の説明によるとそういう存在であるらしい。


エレアスは黙ってそれを聞いていたが、正直半信半疑であった。

村人がその存在を目撃し、知っているくらいなので不思議な生き物として存在はしているのだろうが、”神が使わした”という点においてはどうにも信じることはできなかった。前提としてその神が実在するという事実はあるのか、あるいは神が使いを送ってきた場面を、実際に目撃している者はいるというのか。


「それで…、[魔晶石]の泥棒を捕まえたのだったね?」

「あ、はい。そしてその泥棒達から回収した石がこちらにあります。」


もう1つの本題を忘れるところだった。司祭の言葉にそれを思い出したエレアスは、鞄の中から[魔晶石]の入った袋を取り出した。

じゃらり、と大量の小さな石が入った袋に、司祭は少しばかり驚いた様子でエレアスを見た。


エレアスはその視線に、子供が泥棒を捕まえたので信じて貰えていないのではと思い、事の経緯をコリィと一緒に司祭に話した。しかし司祭が驚いたのは別の理由だったようで、エレアスとコリィの話をすんなり受け入れると、[魔晶石]の入った袋を見て言った。


「わざわざ返しに来てくれたのか。律儀な子だ。これは教会が配っている物だから、君が貰っても良かったのだぞ?」


確かに、泥棒達が盗んだ[魔晶石]が、大きくてエネルギーの強い希少なものであれば、教会に預けるのも分かるのだろうが、袋に入っていたのはどれも価値の低い小さな石ばかりだった。教会が村人達に配っているものがそのまま返ってきたので、司祭も驚いたのだろう。


「いえ、僕には必要ないので。」

「ほう?もしかして魔術が使えるのかね?」


そう答えると、司祭は興味深そうにさらにエレアスに問いかけた。[魔晶石]を必要としない人間…(すなわ)ち、魔術が使える人間ということだからだ。

しかし、エレアスはその期待に満ちた眼差しが気まずくなって、少し視線を逸らした。


「使えますが…防御魔術だけです。」


苦々しく答えたエレアスだったが、それを聞いたナテマは好意的な反応を示した。


「あら、それでも魔術が使えるのは羨ましいわぁ。」


この田舎街において魔術を使える人間はほとんどいないが、都心などではそれが逆転する。世界の総人口から言えばおよそ3〜4割程の人間が魔術を使うことができる魔術師であるうえ、魔術師ならば一通りの基本魔術は出来て当たり前だ。魔術が使えない人間は魔術師を羨むが、魔術師なのに一部の魔術しか使えない人間は他の魔術師から見下されるだけなのだ。

魔術が使えるかどうかは、例外はあれど基本的には種族と血筋で決まる。ナテマ自身もそうだが、ウォリアーホーン種では魔術を使える人間は(ほとん)どいない。だから防御魔術しか使えないとしてもエレアスのことは羨ましいのだろう。


「ふむ、君がよければこの石はこちらで引き取り、また各地域への配布に使わせてもらおう。」

「…ぜひ、お願いします。」


防御魔術しか使えないエレアスが、自分に[魔晶石]は必要ないと断るのは(いささ)か変な話ではあるが、司祭はとくに深掘りするでもなく、エレアスがよいならと[魔晶石]を預かった。

司祭がちらりと袋の中身を見れば、やはり小さな結晶ばかりで一つ一つの輝きも然程(さほど)大きくない。これだけ沢山の石が集まったとしても、そこまで大規模な奇跡を起こすことはできない。精々、都心に住む一般の魔術師が容易く扱うことのできる魔術程度のエネルギーしかないようだ。


「しかしなんでまた、こんな小さな石ばかり盗んだのか…」


泥棒達の余罪を調べれば、もっと沢山の石を所持していてもおかしくない。しかし、民家からわざわざ盗み出す程の価値があるとも思えない石ばかりで、泥棒達が一体何の目的盗んでいたのか、司祭も頭を抱えていた。


────コンコン、


と、そこへドアをノックする音が響いた。

司祭の代わりにナテマがはぁいと返事をすると、扉がゆっくりと開かれ、背の高い男が現れた。


「…失礼します。ん、ぁ?来客中だったか…。」


エレアスとコリィの存在に気が付いたのか、そう言ってすぐに扉を閉めようとする男だったが、それより先に司祭が彼を引き止めた。


「ああキュオン、丁度いいところに。」

「噂をすれば何とやら、ねぇ。」


ナテマが揶揄したように、ちょうど話していた(くだん)の人物が、向こうから来てくれたのは都合がよかった。


司祭に手招きされた男が部屋へと入ってくる。

焦げ茶の髪色に深い紺のジャケットを羽織った男。携えられた黒い鞘に収められた黒い剣は、あの鮮烈な体験を思い出させる。エレアスは思わず椅子から立ち上がった。


「あ、貴方は…!」


見覚えというには、記憶があまりにも新しい。そう、だって彼には昨日助けられたばかりなのだ。


「ん?その顔どこかで……」

「なぁに?知り合い?」


エレアスをまじまじと見るキュオンと呼ばれた男に、二人をを交互に見やるナテマ。キュオンは記憶があやふやなのか、首を捻って考えている。


「昨日の朝、[魔物]に襲われていたところを助けて貰ったんです。」

「!……あぁ、あの時の魔術師のガキか。」


その言葉にキュオンは昨日の出来事を思い出したようだが、他の三人がポカンと口を開けているのを見て、エレアスは昨日のことについて軽く話すことにした。椅子に座り直して、一口紅茶を飲み、口を開いて一連の流れを語った。


泥棒事件のことしかしらないコリィには、一日に2度も危ない目に遭っていたのかと心配されたが、どちらで負った怪我も今は綺麗に治っているので問題はない。

それよりも、通りすがりに名前も言わずに助けてくれた人物が、まさか教会の人間だったなんて。


「あらぁ、あんたそんな格好付けたことしたのぉ?」

「別に、俺はただ…エクソシストとして[魔物]を倒したまでさ。」


事の経緯を聞いたナテマは、ニヤニヤとキュオンに詰め寄ったが、対するキュオンは冷静にそれをあしらった。その辺にあった椅子に横向きで座り、右肘を背もたれにかける。確かに、そのまま座るには左腰に提げている剣が邪魔そうだ。

しかしここで聞きなれない単語が飛び出てきたことにより、コリィとエレアスの興味はそちらへと向いた。


「えくそしすと?」


発音しにくいのか、コリィがたどたどしく聞き返す。全く分かっていないコリィとエレアスの様子に、司祭が簡単に説明を添える。


「さっき言った、[神の御使い様]と契約を結んだ者達のことだ。[神の御使い様]のお力を借りて、[魔のもの]を討伐しておるのよ。」


それを聞いてエレアスは納得した。普通は倒すことのできない[魔物]を、キュオンがいとも簡単に斬ってしまったあの時のことを。

[魔物]を倒すには、[御使い様]の力が必要というのか。だとすれば、エレアスにとってその力は必須のものとなる。


「あのっ、僕その[御使い様]に会ってみたいんですが…」


あらためて契約者たるキュオンに確認を取る。しかしキュオンは少しだけ苦笑いをして見せた。


「俺は構わねぇが…、オーリの気分次第ってとこだな。」

「オーリ?」

「俺と契約している[御使い]の名前だが、正式な名前じゃあねぇよ。…俺が勝手に付けたあだ名みてぇなもんだ。」


気楽に[御使い様]と呼ばれる存在を呼び捨てにするキュオンに驚きつつも、それだけ[御使い様]との信頼関係があるのかとエレアスは感心する。

それで微妙な顔になったエレアスだったが、それを[御使い]に会えなくて残念がっている、と勘違いしたキュオンは、後頭部をボリボリと掻きむしりながら、探るような声色でエレアスにフォローを入れた。


「まぁとりあえず…、しばらく俺と一緒に行動でもしてりゃあ…そのうち見れるんじゃあねぇか?」


その提案にエレアスは目を見開き、ぱちぱちと瞬きを繰り返した。

キュオンと行動を共にする、ということはエクソシストと…そして教会の関係者としばらく一緒にいるということだ。正直、ちょーっと[御使い様]を見て話を聞くだけで、特別深入りをするつもりはなかったエレアス。どうしようかと視線を彷徨わせていると、今まで大人しく膝に乗っていたあの生き物が動き出した。

エレアスの膝をぴょんっと飛び降りた生き物は、そのままコリィの足元を通ると、キュオンの足元へと近付いた。


「は…っ?」


急に見た事のない生き物が動き出したと思ったキュオンは、一瞬びくりと体を後退させたが、エレアスや司祭達がそれを見守っているのに気付くと、大人しく動くのを止めた。


「もちもちちゃん、どうしたの?」

「え、そんな可愛い名前してたのぉ?」

「私が付けたのよ!」


コリィの呼びかけに、またニヤニヤするナテマ。

彼女たちが不思議な生き物に友好的である様を見て、キュオンはそれを(うかが)っていた。

生き物は興味深げにキュオンの周りをうろうろとする。


「ほう、キュオンに興味があるようだな。それとも…[御使い様]に、…かな?」


にこりと微笑んだ司祭に、キュオンは『説明を求む』という顔をしたが敢え無く無視され、そして司祭は言葉を続けた。


「それならちょうど良い。この子達の捕まえた泥棒達の引き取りを…、…キュオンに任せようじゃないか。」

「はぁ?」


司祭の発言に、キュオンは心底面倒くさそうな表情をして見せた。



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