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プロローグ:過去の夢






「兄さんっ!ねぇ、今度はいったいどんな発明をしたんですか?」


勢い良く開いた書斎のドア。開けるなり僕は、部屋の主へ大きな声で呼びかける。僕と同じ、亜麻色の髪とアメジストの瞳をした端正な顔が、こちらを向いて微笑んだ。


「ふふ…エレアスってば、耳が早いなぁ」


「当たり前です!だって兄さんの研究は、僕が一番楽しみにしていることなんですから!」


ふんすっと鼻息を荒くした僕。嬉しそうに目を細めた兄さんは、読んでいた本を棚に戻して僕の方へと来てくれた。


「ありがとう。さあ、教えてあげるから、庭に行こうじゃないか。母様がタルトを焼いてくれたそうだよ。」


「わぁっ!それも楽しみです!」


大好きな母の焼いたタルトを食べながら、大好きな兄の研究と発明について聞く。なんて心躍る時間なのだろうか。

差し出された兄さんの手を迷いなくぎゅっと握って、僕は足早に庭を目指す。引っ張られている兄さんは、「タルトは逃げないから大丈夫だよ〜」なんて呑気なことを言いながら、楽しそうに笑った。


そんな幸せな時間───。






********






───「行って…!行くんだっエレアス…!!」


燃え盛る炎の中、兄は自らの怪我を(いと)わずに僕を庇った。肉の焦げる酷い匂いと遠のく意識。既に母は"奴ら"の餌食になってしまった。


「そんなっ…でも兄さん……!!」


一緒に逃げようと掴んだ腕は呪いを受けたようで、燃え尽きた炭のようにボロボロと崩れ落ちた。そんな兄の後ろに見えたのは、禍々しく笑う[悪魔]の姿。


「お前だけでも…逃げ、て……」


掠れゆく兄の声。耳には届いていたが、それよりもこちらを振り向いた[悪魔]から目が離せない。ゆらりと炎を背にして近付いてくる黒い気配に、僕は思わず後退る。

──逃げなきゃ。でも。


どう足掻いても勝てない相手。このままでは確実に2人とも死ぬ。しかし兄を置いて逃げる訳にはいかない。

だって、兄は、兄さんはこの世界にとって必要な───


ゴオオオオッ!!


燃えた柱が僕と兄の間に崩れ落ちた。まるでそれは生と死を分けたように。黒いモヤが、段々と兄の身体を蝕んでいく。もう助からない。そう悟った兄は、とても優しい眼差しで僕を見た。


──生きて。


音を紡げなくなった兄の口は、確かにそう動いた。






********






「───ッ、…はぁっ、はぁっ…」


草木も眠る、そんな時間。カッと眼を覚ました僕は、忘れていた呼吸を思い出したかのように、必死に肩を揺らした。じとり、と嫌な汗が伝う。

決して綺麗とは言えないベッドの上で、現実をやっと理解した頭で、ただただ呆然とした。


また、昔の夢を見た。

僕のこの夢は、きっとあの[悪魔]を倒すまで続くのだろう。それは呪いのように、ずっとずっと付き纏って、僕の精神を消耗させていくのだ。


「ぅ……」


投げ出していた脚を抱え込むように丸くなって、僕は小さく呻いた。あの、幸せだった日々はもう戻ってこないのだ。

全て[悪魔]に奪われたのだから。


「神なんて……いないんだ。」


救いはなかった。

悪魔は今も蔓延っているし、何をしたって兄さんは戻らなかった。何も、悪いことなんてしていなかったのに。兄さんは、誰にだって優しかったし、常に皆を幸せにしようと頑張っていたのに。

……どうして、兄さんだったのか。どうして、僕の家族だったのか。どうして、僕だけ生き残ってしまったのか。

本当に神様がいるのなら、こんな惨いことを許すはずが無い。だから、この世に神様なんていない。こんな世界、生きていたって──、


そして、僕の中に鮮明な映像と共にあの言葉が蘇る。


『生きて。』


兄の言葉もまた、僕にとっては呪いとなった。

そうだ、あの[悪魔]を、僕の家族を奪った奴らに復讐するまで、僕は絶対に死ねない。兄の分まで生きて…兄のやろうとした方法で、僕はこの狂った世界を正してみせるんだ。

神なんていないこのクソみたいな世界で、僕は──……。



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