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回帰保険お支払いしますっ  作者: バッド
2章 無能だと追放されし者
18/31

18話 魅人と契約のお話だよ

 『契約コンタクト』とはなにか?


 魅人と『契約コンタクト』は切っても切れない関係。魅人の始まりは『契約コンタクト』から始まっていると言っても過言ではない。


 そして魅人とはどんな種族か? それは前提条件を説明せねばなるまい。


 この世界における人類とはどんな種族がいるのかというとだ。


 まず、最強たる竜人族である『ドラゴニュート』。彼らは一人で一軍を滅することのできる超越者である。ただしその数は少なく、ほとんどはエンシェントドラゴンと共に、山奥や森の奥地に住んでおり、見たことがない魅人がほとんどだろう。


 次に魔力において、他の種族の追随を許さない『エルフ』。見目麗しく顔立ちは美しい。魔法に長けており、その神秘の術は竜をも倒すと言われている。やはり数は少なく、魔法の力を使い森林に街を作って暮らしている。


 筋力と器用さに長けているのが『ドワーフ』。ビール樽のような低い背丈であるが、オーガと殴りあえる筋力と、尽きぬ体力と頑丈さ、そして繊細な物作りをする一族だ。数はそこそこ多く主に鉱山に住んでいる。


 旅する『ハーフリング』は、小さな子供のような背丈だが、瞬発力は獲物を狙う虎よりも速く、魔法耐性が極めて高い。数はあまり多くなく、その性格は気まぐれで小さな国はあるが、ほとんどは旅を楽しんでいる。

 

 以上、終わり。


 終わりなのである。人類の説明終わり。


 そう、人類とされていたのは以上なのである。彼らの共通する点は耳が尖っていることだ。そして長命だ。平均で200年から300年はある。ドラゴニュートやエルフにいたっては千年以上生きている者もいる。


 その共通点が彼らを人類と足らしめていた。


 そう、魅人は人類とは考えられていなかった。


 では対して魅人とはなにか?


 彼らはたった千年前までは人類とは思われていなかった。


 魅人は誰とでも繁殖し、年がら年中発情する。その結果多産であり、一匹見たら十匹はいると言われていた。


 その能力は極めて低く特化した所もない。すぐに増えてしまうため食糧は足りなくなり、栄養不足で痩せ衰え小柄であった。


 そんな環境なので知力も高くなく、子供レベル。ボロ切れを纏い盗んだ武器を手にして、群れをなして畑から作物を盗み、家畜を襲う。


 何より丸い耳と短命ですぐに死ぬところから、嫌われ者の魔物と言われていた。


 今は魅人とは呼ばれているが、それは一年中発情して増える弱き者との差別用語なのである。


「トゥスせんせー、それじゃあ、なんで俺たちは今は街を作って、こんなふうに暮らしているんですか〜?」


 屋敷の居間にて、トゥスがおさげをブンブンと振って説明をしていた。質問したのはイータである。


 壁に紙を貼って、カキカキと説明した内容を書いていたトゥスはエヘンと胸を反らす。


「むふーっ、それが『契約コンタクト』!」


 ある時、魅人の一匹がたまたま魔物の魔石を口にした。魔石とは魔物の体内に稀に入っているものである。魔石は毒であり、食べた者は体調を崩す。少なくとも人類には共通して毒との認識で、食べる者はいなかった。


 それは魅人にとっても同じであり、食べる者はいなかったが、餓死しそうなほどに空腹であったため口にした。


 その結果は驚くものであった。魔物の力を身に着けることができたのだ。力は強くなり、狩りを可能とし、魅人を餌とする敵を撃退できるようになった。


 魅人は魔石の力を吸収できる能力があったのだ。 


 全ての魅人がこの能力を持っているわけではなく、1割といったところだろう。だが、元々多産であった魅人にとっては1割でも充分な数だった。


 魔石を吸収した魅人は、その後仲間と共に小さな小さな村を作った。人類の真似をして柵を備えて家を建てて田畑を作った。それは村とも言え無い粗末なものであったが、それでも初めて安全に魅人が住める場所だった。


 それが始まりだった。魔石を食べると能力が身につくとの話は他の魅人にたちどころに広まり、魔石を食べる者が増えていき、各地に村ができた。


 魔石の能力は遺伝はしないが、魅人の知性は実は人類とあまり変わらなかった。環境が良くなれば、まともな知性を手にすることができた。


 安全な村で他の人類の技術を盗み、通貨を使い始めて、文字を覚えてみるみるうちに高い知性を手に入れた魅人は街を築き、生活基盤を作り上げる。


 その期間はたったの500年。森に住んでいた害獣は、他の人類から見ると恐ろしいほどの短期間で、新たなる知性体としての地位を得たのだ。


 しかし、依然として他の人類からは害獣と思われていた。なぜならば弱いからだ。魔石を食べて力を手にしても、その力は千差万別で数も少ない。


 時折、エルフやドワーフたちと領土を争うことがあったが、圧倒的な身体能力の違いにより惨敗。


 なにせ魔石の力を吸収できても、それはたった一回。しかも運に天を任せているので能力も千差万別。雑魚の能力も数が多い。


 魔石の力を手にした兵士100人がたった一人のドワーフに殲滅されて、軍勢がエルフの魔法使いに駆逐される。


 もちろん魔石を吸収していない兵士は戦いにおいて、まったく話にならない。


 魅人は依然として弱者であり、他の人類からは鼻で笑わられる魔物だった。


 そこで魅人は考えた。他の人類に対抗できるように自分たちの能力を伸ばせないかと。

 

 魔力においてエルフには敵わない。


 闘気においてドワーフには敵わない。


 魔物の身体能力を使って、対抗するしかない。


 それが300年前に発明された技術『契約コンタクト』なのである。


 吸収ではなく、魂の接続を行うことにより、吸収よりも成功確率を大幅に上げることと、強力な魔石や精霊と『契約コンタクト』をする。


 それにより強力な能力を持つ、『契約者』による軍勢が作れるようになり、他の人類に対抗できる力を手にしたのだ。


 総合力においては、他の人類にはまだまだ負けるが、とにかく数の多い魅人は継戦能力だけは他の人類よりも勝る。


 何度かの戦争を経て、他の人類たちも痛い目に遭うことが多くなり、渋々同じ人類と認めるようになったのが200年前。


 魅人はようやく人類としての地位を手にしたのだった。


「未だに魅人を人類としては認めていない人類は多い。なにせ、ギャッギャッと畑を荒らす害獣だった頃を知っている人類も未だに生きてるから」


「でも、これで『契約コンタクト』の重要性はわかってもらえたと思う。どうかな?」


 トゥスの話に補足をしておく。例外は『闘気使い』か『魔法使い』ぐらいだ。


 それでも体力ではドワーフに負けるし、マナ量ではエルフに負ける。腕前の違いで勝てる可能性はもちろんあるが、手っ取り早く強くなるには『契約コンタクト』が一番早く、そして魅人の歴史から敬われていた。


「むふーっ、説明はおしまい! これから魔石屋行く? ついでにケーキも買う!」


 ガシッと抱きついてくるので、トゥスのサラサラな髪を撫でながら、皆へと告げる。


「これから魔石屋に行って『契約コンタクト』をしよう。まぁ、失敗しても解約すれば良いし、なにかと『契約コンタクト』すれば、少なからず素の身体能力が上がるし、耐性もつくからね」


 別に戦闘用でなくても良いのだ。魔物の魔石はマイナスはないから。子犬とかでも良いよ。


「それじゃあ、出発しよう!」


「お〜っ!」


 ギタンたちが期待でワクワクしながら手をあげるのであった。


           ◇


 王都の市場とは違い、少しだけ人が少ない道路を全員で歩く。


 皆は半年が経過して、ようやくオドオドした様子はなくなり、怖じ気づくことがなくなっていた。良きかな、良きかな。


 それでも警戒心はまだまだ高いようで、違和感を覚えたギタンが俺を見てくる。


「なぁ、ここらへんを歩くのは初めてだけど、あまり人がいないな」


「ここは上流区画だからね。身なりも良い人が多いだろ?」


 歩行者にちらりと目線を向ける。彼らは他の地区とは違い、身なりが良い人が多い。裕福な証に護衛を連れている人がチラホラと目に入る。


「魔道具に魔石、魔法のスクロール店、宝石店や服屋など高めの品物を扱う店が多いから、自然に裕福な者たちの区画に開くんだよ」


「裏通りにある怪し気なお店もあるけキャウッ」


「うん、トゥスの言うとおりたまーに他の区画にもお店はあるね。土地代とか高いし」


 ドスっと脇腹に人差し指を突いてニコニコと微笑む。余計なことを口にせんでよろしい。


「そっか〜、俺達の服装は大丈夫かな」


「魔石屋とかは冒険者も買いに行くから大丈夫」


 ガノンが着ている服を手にして心配そうにしているけど、安心して欲しい。


 ……子供たちの集団に対する視線はあるし、本当は魔石を買うような冒険者は稼いでいるから、もう少し身なりは良いんだけど、余計なことを口にする必要はないだろう。


「『契約コンタクト』は失敗したら魔石は砕けちゃうんだろ? ……お金は大丈夫?」


「まだまだあるから大丈夫だよ」


 あと5年は遊んで暮らせる金はあるから安心して欲しい。少なくとも2年は訓練などに費やしたいから、保険の支払い以外は払うつもりはない。


 その後はなにかで稼がないといけないけど。まぁ、稼ぐ方法なんていくらでもある。


 さて、昔からあったはずだから、ここらへんのはず………。あ、あった。


 高価な魔鉄で作られた魔石屋の看板が掲げられている店に気づく。店構えからして、扉も大きく壁も黒色の煉瓦で作られている。


「あ、あそこに入るのか?」


 そして扉前には武装したガードマンが立っているので、ギタンたちは怯んだ。


「むふーっ、大丈夫。堂々としていれば怪しまれない。金貨を見せつければ大丈夫!」


「金貨は見せなくてよろしい。それじゃあ中に入りましょう」


 ぽかりとトゥスの頭を叩くと、扉へと近づく。ガードマンが俺たちを見て眉をひそめる。が、呼び止めることはなかったので、すんなりと入店できた。


「おぉ〜、すげー」


「ね、こんなの初めて見た」


 ギタンやイータがキョロキョロと周りを見渡して、瞳を輝かせる。


 たしかに毛足の長い絨毯が敷かれており、壁に金の縁取りがされている柱時計。ガラスケースの中に並べられている色とりどりの魔石。店員は俺たちを見ても笑顔を崩さない。


 そして


「うぉぉぉ! もう一個、もう一個『契約コンタクト』の儀式をしてくれー!」


「お客様、困ります! もう、諦めてください」


 奥の『契約コンタクト』用魔法陣に寝っ転がる熊。いや男か? いい歳をした男が手足を振り回して駄々を捏ねる姿は極めて見苦しい。


「えっと………何を見て、皆は瞳を輝かせているのかな?」


 あの熊男を見て、瞳を輝かせたんじゃないよね?

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― 新着の感想 ―
[一言] ゴブリンが知性持ったとしてもその記憶がある人たちは認められないですよね。
[一言] ポジション的にゴブリンみたいなものか
[良い点]  (´⊙ω⊙`)ほえ〜、何故によくあるファンタジーみたいな“普人”ではなく“魅人”だったのか、金具素屯が軽く思ってた以上にハイファンタジーの土台を構築して物語に取り組んでるバッド先生にマジ…
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