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9.髪の毛を統べるモノ

 突然、光の中から現れた少女はニヤリと笑って言い放つ。


「まことに見事じゃ、人間。そなたの力の全てである髪の毛を失いながらも、誰がために命を賭けるとは。さぁ、契約の時ぞ」


 少女は、可愛らしい見た目とは裏腹に、やけに古風で高貴な話し方だ。


 状況についていけず固まっているハツカに、少女は近寄ってくる。


「クラスアップの条件を達成する人間が現れるとは思わなんだが、そのくらいでなければ妾が契約するに相応しくないしの」


 少女は、ハツカの顔を見定めるように、下から覗き込んできた。


「それにしてもまぁ、見事にハゲたものよのう。頭も丸コゲじゃ」


 カラカラと笑いながら、ハツカの頭をグッと引き寄せる。


「【適性】を超える真なる【適性】の力、授けるぞ」


 呆気にとられているハツカの首に、するりと手を回すと、そのまま唇を合わせてきた。


⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘


絶エズ研鑽ヲ重ネシモノ


研鑽ノ全テヲ失イシモノ


ソレデモ誰ガタメニ抗イシモノ


汝ノ名ハ【髪ノ毛ヲ統ベルモノ】


⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘


「んーーーーーーっ?!」


 ハツカは、慌てて少女を引き離す。


(この子いきなり何を! き、ききききキス!?)


 この状況でわけが分からない。


 しかも、なんかよく分からない言葉の羅列まで頭に流れ込んできた。


 ハツカは完全に混乱していた。


「なんじゃ、口づけごときで騒々しい。主殿はどうやらかなりウブなようじゃな」


「な、なななななな何で! キス! 何で!」


「力を授けると言ったじゃろう。クラスアップは我ら精霊と契約することで行われる。さっきの口づけは契約の証じゃ」


(契約? 精霊? クラスアップ?)


 もう何が何やら分からない。


 さっきまで死にかけていたのに、ファーストキスを見知らぬ少女(めっちゃ可愛い)に奪われるとか、もっと意味が分からない。


 思っていたより乙女なことを気にする自分にハツカは驚いたが、今はひとまず頭を切り替える。


 目の前に十数体のグールがいるのだ。


 この少女が何なのかはさっぱり分からないが、魔物に襲われたらひとたまりもないだろう。


「ここは危ない。僕がグールを食い止める間に君は逃げて」


「妾に逃げろとな? 主殿が守ってくれれば良かろうよ」


「無理だよ! あの魔物は僕が敵うようなレベルの魔物じゃないんだ。時間だけは稼ぐ。火を避けてリールカームの方角へ逃げて欲しい」


「ふむ、まだ気付かんのも無理は無いかの。じゃが、嫌でも気付くことになる。【髪の毛を統べるモノ】の力に」


 手にかかる裾で口を隠しながら上品に、それでいて悪戯っぽく少女が笑う。


「なにその、髪の毛……を統べるも--危ない!」


『グガァー! コロスー!』


 いつの間に動き出したのか、大柄なグールが少女目がけて拳を叩き付けてくる。


 間一髪のところで少女を庇い、空を切った拳は地面を叩き割る。


「クソっ! 動き出した。にしても何てパワーだよ」


 そもそもどうしてさっきまでグールの動きが止まっていたのかも分からないのだが、少女を逃がす機を失ってしまった。


『人間、フエタ。ゴハン、フエタ』


『食ベル。オレ、女ノホウ、食ベル』


『ズルイ、オレ、モ、女食ベタイ』


 他の十数体のグール達も動き始める。


 無事な方の手で少女を抱えて、再び燃え盛り始めた炎の中をグール達を避けながら駆け回る。


 しかし、攻撃手段が無い以上いつまでもこうしてるわけにもいかない。


 先ほどまでは、シルルを逃がす時間だけ稼げれば良かったが、今はこの少女も何とか助けなくてはいけない。


(どうすればこの状況を打破できる……?)


 答えは腕の中の少女から飛んできた。


「倒せば良かろうよ」


 少女は事もなく言ってのける。


 その顔には魔物に対する怯えなど一つもない。


 ハツカが目の前の魔物を倒せると、分かっているかのようだ。


 その姿を見ると、不思議と頭が冷静になるのを感じた。


「君は、いったい……?」


「幸いグールには髪の毛が生えておる。あれを使えばよい」


 質問に答えることはなく、少女はグールの頭上を指差した。


 グールは、元は人間だったと言われる魔物だ。


 個体差はあるものの、もちろん十数体全てに髪の毛が生えている。


「使うって言っても、【髪の毛使い】は自分の髪の毛しか操れないよ」


「だから言っておろう、主殿はもう【髪の毛使い】ではなく【髪の毛を統べるモノ】じゃ。試しにあの魔物の髪に意識を集中してみよ」


 普段なら見知らぬ少女の戯言なんか信じないハツカだが、妙な説得力に促され、グール達の髪の毛を見る。


「ーーっ!」


 そして理解する。


「見ただけで分かったじゃろう。あれはもう主殿の理の中。どうするにおいても主殿の思いのままじゃ」


 少女の言う通り、ハツカには分かってしまった。


 あのグール達の髪の毛は、自分の意のままに操れるのだと。


 しかも、今までハツカ自身の髪の毛を操っていたより遥か上のレベルで。


 自分はもう先ほどまでの【髪の毛使い】とは違うナニカになったのだと。


 ハツカはそれを頭ではなく、感覚で理解した。


 これが、【髪の毛を統べるモノ】の力ーー。


「思いのまま……か」


 ハツカは自分の中に芽生えた新しい感覚を確かめるように、自分を取り囲むグール達を見回した。

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