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7.冒険者だから

 森の前方、隣村の方向に広がる黒い霧、そこからグール達がぞろぞろと姿を現す。


『ニ、人間、ウマソウ、ウマソウ』


『タベル、ゴハン、タベル』


 目の前の視界を埋めるほどのグール達の数は、二十は下らないだろう。


 グールは人型の魔物で知性もある。


 それぞれ違う服を着ているが、皆一様に顔が爛れており、唇がなく歯が剥き出しだ。


 動きは遅いがパワーが凄まじい。


 一度掴まれたら決して振り解くことはできず、あの強靭な歯で人間を捕食する魔物だ。


 しかもグールの魔物ランクはCランク。


 先ほど二人がかりで苦戦したブラッドウルフより上位の魔物なのだ。


 一体なら、今のボロボロのハツカとシルルでも逃げられたかもしれないが、ニ十数体の知性ある魔物から逃げることは不可能だろう。


「嘘だ……」


 この森は昨日までスライムとたまに出会う程度の比較的穏やかな森だったはずだ。


「そんな……こんなこと、ありえません」


 ブラッドバッドとブラッドウルフの出現だけでも有り得ないのに、その上Cランク魔物のグールまで出てくるなんて異常どころの話ではない。


「ギルドには……グールが出るなんて情報、どこにも……」


 シルルは、更に顔を青ざめ、その場にへたり込む。


 ギルドには冒険者達から、周辺の魔物の情報がひっきりなしに寄せられる。


 受付嬢は冒険者達に依頼を紹介するために、その全てを把握している。


 そのシルルがこの異常事態を知らなかったということは、この異常はここ数日で発生したものなのだろう。


 ハツカも先程と比較にならない絶望に打ちのめされそうになるが、先ほどシルルを庇うと固めた決意で自らを叱咤する。


 ハゲて【髪の毛使い】のスキルも使えないからといって諦めるつもりは無い。


「シルルさん、立って。逃げるよ」


「逃げるって……無理ですよ。こんな……こんな……」


 呆然としているシルルの肩をガッと掴む。


「シルル!」


「は、はひぃ!」


「大丈夫、僕に考えがある。ちょっと無理して貰うことになるけど、力を貸して欲しい」


「ハツカさん……。はい! 私はどうしたらいいですか?」


 シルルの目に少し力が戻る。


 これなら、まだ生き残るチャンスはある。


 今まで魔物と相対することが無かったので、使うことのなかった知識を目一杯使って生き延びる術を考える。


「シルルさんは、残りの魔力で撃てるだけ、グール達の周りの木を燃やして欲しい。アイツらはアンデットで火が苦手だから、できるだけ僕達との間に壁を作るように」


 ただでさえ動きの遅いグールの足を炎で鈍らせることができればそれでいい。


 グール達もブラッドウルフ達も、隣村の方角に出ている妙な黒い霧の中からしか現れていない。


 おそらくこの異常事態の原因は隣村とあの黒い霧が関係している。


 という事はリールカーム側は安全である可能性が高い。


 炎の壁で時間を稼げばその間に反対側へ逃げられるはずだ。


「さん付けに戻るんですね……って、いえいえ! 分かりました! 残りの力全部森を燃やすのに使います。あとで色んな人に怒られちゃいそうですが」


「生きて帰れなきゃ、怒られることすらできなくなる。魔法を撃ったら、全力でリールカームの方角に走ろう」


「はい! 精霊様、私達二人にどうか御加護を」


 この世の理を司る精霊に簡易の祈りを捧げ、シルルは魔法杖を構える。


「プチファイア!」


 シルルが魔法でグールの足元を燃やすと、彼らの足が止まる。


「プチファイア! プチファイア!」


 続けて魔法を放ち、グールの群れとハツカ達の間は炎の壁で隔てられた。


 ハツカとシルルはグール達が足止めされているのを確認して駆け出す。


 これでこちらを諦めてくれれば、一番だったが、さすがにそう簡単ではなかった。


『火、イヤ。火、コワイ』


『ケド、オレ、人間、食ベタイ』


『火、ヨケル。追ウ。食ウ!』


 グール達はすぐさま火を迂回し、こちらを追ってくる。


 しかし、それでも時間は稼げた。


「プチファイア!」


 シルルが、駄目押しの一発を迂回路に撃ち込む。


 これでグール達は、さらに迂回しないとこちらを追って来られない。


「シルルさん、魔法は今ので!?」


「はい、今ので最後です!」


「これだけ距離が開けば逃げきれるはずだよ。あとは走ろう!」


 傷ついた自分達でも何とか逃げ切れそうだ。


 少し安心して駆け出した瞬間だった。


『オマエ、先、イケ』


『オ、押スナ。ア、ア、アツイ! アツイ!』


『ヤメロ! 燃エル! オレ、ガ、燃エル!』


 一際大きいグールが、仲間のグールを草木が焼ける地面に倒して押し付け、それを踏み台に無理矢理前進してくる。


「そんな……!」


「くそっ! 魔物ってやつはこうも無茶苦茶なのかよ!」


 仲間を平気で捨て駒にする魔物に恐怖を覚えるが、こちらも必死だ。


『逃ゲルナ! 人間! 食ウゾ! 人間!』


『マテ! マテ!』


 徐々にグール達との距離が縮まる。


(このままじゃ、二人共いずれ捕まる。ならーー)


 ハツカが立ち止まる。


 燃えている木を何本か拾い、シルルとの間にバラまく。


 それに気付かずしばらく走っていたシルルだったが、振り返った時にはもう遅い。


「ハツカさん!?」


 ハツカとシルルの間には、先程グールとの間に作ったような炎の壁が出来ていた。


 おそらく、シルルの方からはもうハツカの影くらいしか見えないだろう。


「僕はグールを足止めする。シルルさんは先にリールカームに戻って、ギルドで助けを呼んで欲しい」


「何言ってるんですか! 早く逃げましょう!」


「もう無理だよ。僕はそっちには行けない」


「なんで……! なんでそんなことするんですか! 私……、わたしは!」


「僕は、冒険者だから」


 グール達が現れた時から、こうなる事は覚悟していた。


 二人で逃げ切る方法が無いなら、シルルに逃げて欲しい。


 皆んなが草むしりとハツカをバカにするなか、シルルだけがハツカを一人の冒険者として接してくれた。


 彼女といる時だけ、ハツカは冒険者になる夢に近づけた。


 だから。


「シルル、生きて」


「ハツカさーんっ!!!」


 二人を隔てるように、炎の壁は勢いを増して燃え上がった。




⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘


● 絶エズ研鑽ヲ重ネシモノ


● 研鑽ノ全テヲ失イシモノ


◯ ソレデモ誰ガタメニ抗イシモノ


⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘

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