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38.冒険者ローレンはその日、神を見たと証言した(前編)

リールカームのモブ冒険者、ローレン視点の話になります。

◯◆◯◆◯◆◯◆◯◆◯◆◯◆◯◆◯◆




 迫り来るグールの牙がぼんやり視界に映るのを眺めながら、冒険者ローレンは死を覚悟した。


 思い返せば、至って普通の特に何も無い人生だった。


 カドレリア大陸の西部にある中規模街リールカームで宿屋を営む両親の次男として生まれ、裕福ではないが特に不自由なく育ててもらった。


 宿屋に泊まりにくる冒険者達の自由な振る舞いに憧れた部分もあるが、家業の宿は兄が継ぐだろうし、たまたまクラスが【槍使い】という戦闘系のものだったこともあり、なし崩し的に冒険者になったのが十五歳の頃だ。


 同じ時期に駆け出し冒険者だった【盾使い】のガロムと【水魔法使い】のリナーナと冒険者ギルドを通じてパーティを組んだ。


 最初は初対面同士でぎこちなかったが、いくつか依頼をこなすうちに、二人とは自然と打ち解けていった。


 ガロムは口数が少ないが、ノリの良いやつで意外と馬が合った。


 リナーナはお節介焼きで、まともに自炊の出来ない俺とガロムによく弁当を作ってくれた。


 冒険者としての三人の連携も悪くなく、ガロムが魔物を引きつけている間に俺が槍で牽制、リナーナが後方から魔法でトドメをさすのが俺達の基本的な立ち回りだった。


 かといって三人とも特に大きな目標があるわけじゃなく、生活のために冒険者をやっていただけなので、受ける依頼といえば街と街を行き来する商人の護衛や、街の周りに現れる魔物の討伐程度の簡単なものだけだ。


 だから冒険者になって五年経つ今になっても三人ともランクはDだ。


 別にDランクが悪いわけじゃない。


 こんな田舎の中規模街にいる冒険者なんて、九割がDランク以下だ。


 Cランク以上の危険な魔物が現れることなんて稀だし、Bランクの魔物がきたら近くの大規模都市から凄腕の冒険者が助っ人にくる。


 中規模街にいるDランク冒険者なんていうのは、少々治安維持に貢献できる便利屋でしかない。


 だが、そんな立場も悪くはなかった。


 ガロムとリナーナという気の置けない仲間がいたし、適度にスリルのある低ランク魔物との戦いは退屈な田舎暮らしを誤魔化してくれる。


 依頼をこなせば街の人から感謝もされるし、依頼後に酒場で自分より低ランクの無能冒険者を嗤っていれば劣等感を薄れさすこともできた。


 このままの日々が続いて、リナーナ……かどうかは分からないけど、誰かと結婚して子供を育てて普通に死んでいくんだろうと思っていた。


 だから、ガロムとリナーナが突然冒険者を引退すると言い出した時は、激しく狼狽えた。


「えと……リナーナに子供ができて……な。結婚して安全な職に転職しようと思う」


「ごめんね、ガロムと付き合ってること隠してたわけじゃないんだけど、なんとなく言い出し辛くて……」


 ただそれを表に出すと何かに負けた気がして、「い、いいじゃねえか! めでたい事なのにそんな申し訳なさそうな面してんじゃねえよ。仲間じゃねえか」と精一杯虚勢を張った。


 笑顔で手を繋いで帰って行く二人にモヤモヤした感情を抱きながら、それを誤魔化すように冒険者ギルドの酒場で昼間から酒を浴びるほど飲んでいた時だ。


「うべし!!!!」


 リールカーム最強の冒険者と呼ばれているゴルデオが、見知らぬ小さなオッさんに負けていた。


 あのCランク冒険者のゴルデオが顔面から冒険者ギルドの床にめり込み、不様を晒している。


 冒険者のランクは同ランクの魔物とどのくらい戦えるかや、ギルドや地域への貢献度と普段の素行によって冒険者ギルドに決められる。


 ゴルデオは素行さえ悪くなければ即Bランクになってもおかしく無いと言われている冒険者だ。


 この冒険者という稼業、Cランクまでは努力で何とかなると言われているが、Bランク以上はそうではない。


 クラスも含めた才能が無ければ決して届かない領域と言われている。


 こと魔物と戦う才能に関しては、このゴルデオという男は群を抜いていた。


 しかもこのゴルデオ、この中規模街リールカームの街長の娘婿ーー義息子である。


 元々誰も敵わないせいで街で傲慢に好き勝手振る舞っていたが、街長の義息子となってからは更に増長していたので、正直やられるところが見れてスカっとした。


 冒険者としての才能も、結婚して地位も、両方持っているなんて、本当にムカムカする。


 こっちは産まれた時から家の物は兄の物、冒険者としての才能も並、唯一救いだった仲間も俺に黙ってくっ付いていやがった。


 ゴルデオがやられて少々スカっとしたと思っていたが、まだムカムカは収まらない。


 その後、何だかギルドがバタバタしていたようだが、飲みすぎたのか気付けば飲みながら寝ていた。


「おい、ローレン! いつまで寝てやがる。早く起きろ!」


「っ痛え。なんだよ、うるせえな」


「スタンピードだ! 街に魔物の大群が押し寄せてくる!」


「はあ? んなわけあるか。ここはリールカームだぞ」


 スタンピードは、大量の魔物がダンジョンから溢れて暴走し、近隣の都市を襲う災害のことだ。


 数百から数千の魔物がいっせいに攻めてくるため、その地域の冒険者は強制的にスタンピードから都市を守ることになる。


 だが、この中規模街リールカームの近くにダンジョンは存在しないので、スタンピードなんておこるわけがない。


「それでも事実起きてるんだから仕方ないだろう! ほら、とっとと支度して街壁の外にいきやがれ!」


「まじかよ。くそっ、わかったからそうせっつくんじゃねえよ」


 なんだかよく分からないが、丁度いい。


 こんなダンジョンもない辺鄙なところで起きる例外的なスタンピードなど、FランクやEランクの雑魚魔物がせいぜいだろう。


 八つ当たりだが、憂さ晴らしにちょうど良い。


 そう簡単に思っていた。

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