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30.炎使い

【炎魔法使い】と【炎使い】は違う。


 魔法として何も無いところから炎を生み出す【炎魔法使い】と違って、【炎使い】は既に存在している火を利用しなければいけないが、火力という点において、【炎使い】の方に圧倒的に分がある。


 それは【炎使い】の方が火を生み出す工程が不要なため、火力に力を多く振り分けられるというのが王都の学者の見解だ。


 リールカーム冒険者ギルドマスター【炎使い】フオーコは、凄まじい火力、その一点において他の追随を許さずAランク冒険者となり、引退までそのランクを保ち続けた。


 苦手であるはずの水属性魔物を蒸発させた、山ほどもあるAランク魔物を一人で焼き殺した、など冒険者界隈では彼は生ける伝説である。


 引退したとしても、その火力だけは衰えずと言われた彼の炎。


「なぜ……!」


 その炎を受け、全身を焼かれながら、吸血鬼は嗤っていた。


「なぜワシの炎が効かん!」


「単純にぬるい。それ以外の理由が必要か?」


 吸血鬼が腕を一振りすると、彼を包んでいた巨大な火の玉は一瞬で消え失せた。


「そん……な……まさか」


 自らの放った炎を破られ、フオーコが慄き、跪く。


「安心しろ。貴様には最初から期待などしていない」


 吸血鬼はもう既にギルドマスターは眼中に無いようで、ハツカ達に目を向ける。


「さて。ここからが本番だ、超越者よ。森で示した力、我にも見せるがいい」


「くっ……」


 もうこの場で吸血鬼と戦えるのは自分しかいないとハツカは理解していたが、オッさんは他の冒険者達と同じように眠っていて、助けてもらうわけにはいかない。


 それ以前に元Aランク冒険者のギルドマスターの攻撃が効かないほどの魔物を相手に自分がどれほど戦えるのかという不安に加え、何か嫌な予感もする。


 そんなハツカの心情を見透かしたのか、吸血鬼が楽しそうに目を細める。


「そういえば、自己紹介がまだだったな。我が名はダズヒル。混沌より産まれし吸血鬼君主だ」


「なっ!」


「なんと……」


「ちっ、やはりか」


 吸血鬼君主とは、吸血鬼の王たる魔物。


 記録はないが、吸血鬼の圧倒的上位種として伝説に残っており、もし存在するとすれば確実にAランクを超えるSランクの魔物だろうと言われている。


「くっくっく。そこの老いぼれは、我をただの吸血鬼と勘違いしておったようだがな。自信を持って挑んでくるその姿、実に滑稽で愉快だったぞ」


「くそっ、ワシとしたことが敵の力を見誤っておったというのか……」


 フオーコが臍を噛み、拳を地面に叩きつける。


「そんな……吸血鬼君主なんて伝説や、お伽噺のなかの存在じゃ……」


「残念ながら、貴様の目の前の出来事が全て現実だ。我は絶対的な夜の王。いくら超越者であろうと人間が勝てる存在ではない。せいぜい足掻くところを見せてくれ」


 確かに、ダズヒルからは今まで感じたことの無いほどの力の波動を感じる。


 ハツカは、底が見えない力の闇に気圧されていた。


「こないのか。なら、我からいくぞ」


 ダズヒルの姿が[透明化]によって、ふっと消える。


「主殿、後ろじゃ!」


「……っ!」


 メデュラの声に反応して、とっさに前に転がる。


 先ほどまでハツカがいた場所を吸血鬼の爪と牙が襲う。


「ぼさっとするでない!」


「ごめん、けどあの[透明化]で消えられたらどうしようも……」


「本当に主殿はアホじゃのう。自分が何者なのか、思い出してみるがよい」


「自分が何者かって……Fランク冒険者で、髪の毛を……。ん? もしかして」


「気づいたようじゃな。ほれ、ちゃちゃっと済ましてくるのじゃ」


「何をごちゃごちゃ言っている。どんな策であっても我を捉えられんことには意味をなさんぞ」


 そう言ってダズヒルは再び姿を消す。


 ハツカは、きょろきょろと辺りを見回すと、


「あ、この辺かな?」


 右前方の何もない空間に、パンチを繰り出す。


ボグシャア!


「ぐはぁ!」


 空を切るだけに見えたハツカの拳は、正確にダズヒルの頬を打ち据える。


 予期せぬダメージを受けたダズヒルの[透明化]は解け、衝撃そのままに床に転がる。


「あ。当たった」


「な、何故だ……。何故我の位置が分かった! いや、分かるはずがない。いくら超越者といえ、[透明化]した我を見つけられるわけがない」


 よろよろと立ち上がり、ダズヒルは再び[透明化]で姿を消す。


「たぶんここ……かな?」


ボグスッ!


「かっ……はぁ!!」


 ハツカのボディブローがめり込み、ダズヒルが体をくの字に折った状態で姿を現す。


 崩れそうになる体をガクガクと震える足で必死に支えている。


 相当効いているようだ。


「ふ、ふふふ。偶然が二度も続くとは、超越者は運も良いらしいな。だが、三度目はないぞ!」


 ダズヒルが姿を消した瞬間、ハツカが振り返り蹴りを放つ。


キーン


「はうっあ!」


 ハツカの足は、ダズヒルの股間を蹴り上げていた。


「おうっ。はっ、たま。おう、おうおう!」


 ダズヒルはよく分からない声を上げながら、自らの恥部を抑え、床をのたうち回っている。


「カーッカッカ! おぬしら吸血鬼は、多彩なスキルを持つが、身体能力がそこまで高いわけでは無いからのう。主殿なら素手でじゅうぶんじゃ! どうせさっきの炎も、なにか小狡いスキルで凌いどったはずじゃ」


「そうなの?」


「さすがにあそこまでの炎を防ぐには、吸血鬼君主とはいえ、何かしら策が必要なはずじゃ。まあ何かあったところで、主殿には敵うべくもないがの! カーッカッカ!」


「そ、そこまでは自信はないけど、[透明化]はもう怖くないかな」


「ぐ、ぐぐぐ……、貴様、なぜ我の場所が分かる?」


 ダズヒルは、恨みのこもった目でハツカとメデュラを見上げてくる。


 自分のスキルに絶対の自信を持っていたのだろう、さっきまでの余裕は消え、顔には血管すら浮かんでいる。


「なんでって……、髪の毛は消えないようにしたから」


「は? 髪の毛?」


「うん、髪の毛。[透明化]で消えようとした時、僕の[髪の毛操作]で髪の毛に透明にならないよう命令させてもらった」


「そ、そんな馬鹿な!?」


 ダズヒルは確かめるように[透明化]する。


 すると、頭より下は全て綺麗に透けているが、その上にある金色の髪の毛だけはしっかり視認できる状態になった。


「んなぁ!?」


「だから、髪の毛から体の位置は予想できるんだ。こんなふうに」


 そう言うやいなや、ハツカはダズヒルの髪の毛の下ーーおそらく顔があるであろう場所目がけて、勢いよく拳を叩きつける。


ボグッシャア!!!


「ぐえしゅ!」


 そのまま床と挟まれる程の勢いで、頬を打ち据えられたダズヒルは、二回ほどバウンドした後、動かなくなった。

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