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28.正体

 魔物がこの世に生まれる方法はニ種類ある。


 一つは、人や動物と同じように親から産まれる方法。


 もう一つは、既に存在している人や動物が何らかの要因で魔物に変わってしまう方法。


 グールの生まれ方は後者であり、彼らは元は人間だったのだ。


 そして、一度魔物に変化した者は決して人間に戻ることはできない。


「安らかに精霊様の身元に還れ。キースよ」


 祈りの所作の後、ギルドマスターである老人ーーフオーコは、グールを包む炎の柱の火力を上げ、彼を燃やし尽くした。


 グールが立っていた場所には灰すら残っていないほどの炎だったにも関わらず、床には焦げ一つ付いていない。


(あれだけの炎を使って、周りが全く燃えていないということは、炎を完璧に制御しているということ……これが元Aランク冒険者【炎使い】の実力なのか)


 目の前で一瞬の内に行われたギルドマスターの能力の行使に、ハツカは冷や汗をかく。


 周りの冒険者達も滅多に見ることの無いギルドマスターの力を目の当たりにし、押し黙っている。


 そもそも彼らは何が起こったか分かっていない風でもある。


 そんな中、キースを連れ帰ってきた男性冒険者が声をあげる。


「酷いじゃないですか! なんでキースを殺したんですか……あいつは、あいつは……」


 悔しそうに地面を叩き、涙を流す。


「フォッフォッフォッ、なんて異なことを言う。冒険者なら、グールになった者が二度と戻れんことなど知っているだろう」


「それでも! あんな風に骨すら残さず焼くなんて! うぅっ……」


「ふむ……、そもそもキースは何故あのようなことになった?」


「そんなの決まっているでしょう! 森に調査に行ったらグールに襲われたんですよ! 俺とキースは命からがら逃げてきたんです!」


「キースがグール相手に逃げるとな?」


 キースはCランク冒険者である。


 冒険者の基準として、同じランクの魔物は問題なく倒せることがある。


 Eランクであれば、Eランクの魔物なら問題なく倒せる。


 Dランクであれば、Dランクの魔物なら問題なく倒せる。


 なので、Cランク冒険者のキースからすればCランク魔物のグールは問題なく倒せるはずなのだ。


「……っ! 数が! 数が多かったんですよ! 多分その時に受けた傷が元でキースはグールに!」


「グールのような低級に人を魔物化させることなど、できんがのう」


「なっ! じゃあ俺が嘘ついてるとでも言うんですか!?」


「嘘のう。そもそもなんじゃが……」


 ここまで穏やかに会話していたはずのギルドマスターの空気が変わり、辺りが張り詰める。


「お前さん、うちのギルドの冒険者じゃないだろう」


 そう言うと同時にギルドマスターが手にしていた火打ち石を片手で打ち、火花を散らす。


 その炎は瞬く間に膨張し、キースを連れ帰ってきた男性冒険者を包み込む。


 しかし、彼はその炎からスッと抜け出すと、ハツカやギルドマスターを飛び越えて受付カウンターの上に降り立った。


 冒険者だとしても、あり得ない跳躍力だ。


 彼はそのまま、カウンターに腰を下ろすと、堪えきれないように笑い始める。


「くくくく……ハーッハッハッハ! 慣れない演技なんかするものじゃないな。ここまであっさりバレるとは」


 どこからともなく現れた黒い霧が彼を包むと、その姿を変化させた。


 肌は青白く、長い黄金の髪は綺麗に整えられており、口元には鋭い牙が覗き、漆黒のマントを身に纏っている。


 声からして性別は男なのだろうが、女性と見間違えるほどの美貌。


 その姿は、さながら古の伝承にある吸血鬼。


 いや、彼の放つ異常に膨大な力の波動は、彼が実際に伝説の吸血鬼であるという証明に他ならなかった。


 人の血を食料とし、超常の力を持つ不死の王。


 それは人にとって、天敵と呼ぶべき存在だった。


「フォッフォッフォッ、人を魔物に変える術を持つ魔物はそう多くないが……まさか吸血鬼とは。ここまでの大物だとは思ってなかったぞ」


「まだ自己紹介も済んでいないのに、我の正体をバラすとは無粋なやつめ」


 そう言いながら、吸血鬼は高らかに笑い続けている。


「現役を退いたとはいえ、Aランク魔物を見間違えるほど耄碌はしてないつもりだ」


「ほら、他の人間共がもう怯えてしまってるじゃないか。少しずつ恐怖を増していくのが面白いというのに」


「ヴァ、吸血鬼だって!?」

「吸血鬼ってAランク魔物の!? そんなもんこんな所にいるわけ……」

「だって現にギルドマスターが吸血鬼だって言ってるじゃねえか!」


 ギルドマスターと吸血鬼の問答に、冒険者達がザワめく。


 その様子を眺めていた吸血鬼の姿がすっと消える。


 吸血鬼のスキル[透明化]だ。


「消えた!」

「え、じゃあ本当に吸血鬼!?」

「ど、どこに行った!?」


 慌てふためく冒険者達。


 そのうち一人の女冒険者の後ろに、吸血鬼が[透明化]を解いて姿を現す。


「ふむ。こいつでいいか」


「え?」


 吸血鬼はその女冒険者をガバっと後ろから抱きしめると、その首筋に自らの牙を突き立てた。


「あ、あ……ああああああああああ!!!!」


 女冒険者は吸血鬼に血を吸われ、苦痛とも恍惚ともとれる叫び声をあげた後、ガクンとその場に崩れ落ちた。


「なかなか美味だったぞ。我に血を吸われたこと、感謝しろ」


 吸血鬼がハンカチを取り出し、口元を拭い終わる頃には、血を吸われた女冒険者はその姿をグールに転じさせていた。


グルァ!


女冒険者だったグールは、先ほどまで仲間だったはずの冒険者達を襲い始める。


「血を吸われたらグールになっちまった!」

「ってことは、あいつは本物の吸血鬼!?」

「Aランクの魔物だぞ! こ、殺される!」

「逃げろ! おい、押すんじゃねえ!」


 吸血鬼への恐怖と、襲いくるグールに冒険者達は我先にと、出口に押しかける。


 彼らはゴルデオの時よりも必死に逃げようとしている。


 彼らはほとんどDランク以下の冒険者なのだから、Aランクの吸血鬼とCランクのグールを前にして、当然の反応といえる。


 だが、


「開かねえ! ドアが開かねえよ!」

「何言ってやがる! 変われ! え、ドアがビクともしねえ」

「なんだって!? 閉じ込められた?」


「くっくっく、当たり前だろう。逆に問うぞ、なぜ我から逃げられると思った?」

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