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21.暴走

「おー、改めて見ると見違えたのう、主殿」


「え、そうかな? あはは、馬子にも衣装ってやつかな」


 レンタルオッさんリールカーム店で、オッさんの同行を得たハツカとメデュラは、改めて街の外の平原に来ていた。


 店長であるレインに貰ったアーマージロの革鎧を身に付けたところ、今までの防具とも呼べないボロボロの服を身に付けていた時より、グッと冒険者らしくなったとハツカ自身感じている。


 オッさんも「似合っている!」と言っているように、ハツカの周りを駆けてはしゃいでいた。


「こらこら、オッさん。まだ魔物は見えないけど、ここは一応街の外だからあんまり僕から離れると危ないよ」


 人口2万人に満たない中規模街とはいえ、リールカームは一応、魔物対策として堅牢な壁で囲われている。


 壁は結界系のスキルでも守られているため、街の中に魔物が入ってくることは、ほぼ無い。


 しかし、壁の外は別である。


 まだ街の近くなため、遭遇するとしてもせいぜいFランク魔物のスライムくらいのものだろうが、ここから少し離れた薬草採取に向かう場所はビッグボアのようなDランクくらいの魔物が出てもおかしくはない。


「何があっても、オッさんのことは僕が守るけど、本当にいいの? 冒険者の依頼に付いて来るのは危険だよ」


 店では事情を説明することなく、なし崩し的にオッさんをレンタルしてしまったため、街を出るまでの道中で街の外の危険性と、髪の毛を借りたいということを説明はしたのだが、オッさんがどこまで理解しているか、ハツカには分かりかねていた。


 なので、念を入れてもう一度確認しておく。


「オッさんは、基本的に僕達に付いてくるだけでいいけど、薬草を探して採取する時と、魔物と戦う時は、オッさんの髪の毛を借りてもいいかな?」


 いいよ、と言わんばかりに「きゅー!」と、勢いよくオッさんが手を挙げる。


「主殿は心配性よのう。ここに来るまでに何度も確認したであろうに」


「それでもオッさんはやっぱり一般人だから。ちゃんと納得したうえで付いて来て欲しいんだ」


「ほれ、オッさんも心配するなと言うておる」


 メデュラの言葉に同意するようにオッさんが胸を張って、うんうんと頷いている。


(メデュラのオッさんに対する翻訳力の高さはなんなんだ!?)


 精霊は他者への理解力が高いとかそういうのがあるのだろうか。


 考えても仕方ないので、ハツカはハツカでオッさんへの理解を深めるよう努めることにする。


「よし、じゃあ出発しようか!」




------------------




 あまり街の近くで【髪の毛を統べるモノ】の力を使うことは避けたかったので、三人は街が見えなくなる程度の距離まで離れることにした。


 程よく離れた所で立ち止まり、そこで薬草採取のために探査スキルを使うことにする。


「よし、じゃあいくよ。オッさん、用意はいい?」


 ハツカはオッさんに自分の前に立って貰い、構える。


 用意と言っても、オッさんはハツカに髪を貸すだけなので、特に気負うこともなく「きゅー!」と返事をする。


 ハツカは、目をつぶり集中する。


 今まで幾度となく使ってきたスキル[髪の毛探査]だが、他人の髪の毛を使うのは初めてなので、少し緊張する。


「主殿よ、そう気負うでない。別に他人を傷つけるようなスキルではないのじゃから、もう少し気楽にやればよい」


 メデュラはそう言うが、万が一があってはいけないので、気を引き締める。


(イメージするんだ……、オッさんの髪の毛を使って薬草を探すイメージ……)


「ん? 主殿、ちょっとま……」


「スキル[髪の毛探査]!」


 ハツカがスキルを使おうとした瞬間、何かに気付いたメデュラが止めようとしたが、間に合わなかった。


 ハツカがオッさんの髪に力を込め、スキルを使う。


 一瞬凪いだ風が、オッさんを中心にふっと吹いたかと思うと、直後ブワー! と間欠泉が噴き出るようにオッさんの髪の毛が伸び上がった。


 空を仰ぐ程に増えて伸びたオッさんの髪の毛は、地面に落下してくると同時にうねりながら四方八方へと広がり始める。


 その様子は、まるで黒い髪の毛の海が平原を飲み込むようだった。


 現に視界が届く範囲はオッさんの髪に覆われてしまって、地面が見える場所など一分も残っていない。


 そしてその中心にいるオッさんは、髪の毛を吹き出させながら、驚き過ぎて「ぴぎゃー!」と泣き叫んでいる。


「え、え、なにこれ?」


 あまりにとんでもない光景に、ハツカは呆然とするしかなかった。


「主殿! スキルを止めよ!」


「スキル!? これ僕のスキルなの!?」


「当たり前じゃ! それより早く[髪の毛探査]を止めるのじゃ! 早くしないと……」


「早くしないとって言われてもーーあ痛っ!」


 ハツカの頭に痛みが走る。


 それが耐えきれない激痛へと変わると同時に、ハツカの脳みそに直接膨大な情報が送り込まれてきた。


「あ、がっ、痛い! ああ゛ぁあーーーー!!!」


 平原に存在する薬草。


 その場所、数、体積、長さ、色、生えている場所の土の状態、空気、周辺に存在する物、動物、魔物、虫、その種類、動きーー


 この広い平原に存在する薬草に関わる情報を、要不要関わらず広がった髪の毛が集めてくる。


 しかし、その情報量はとうてい人間が処理しきれるものではないので、頭の激痛という形でハツカの体が拒否反応を示しているのだ。


「ええいっ、仕方ない!」


 メデュラは頭痛に悶えるハツカの額に手を当てると、何かを呟く。


 すると小さく何かが弾けるような音がして、ハツカは気を失い、その場に倒れて伏せた。


 ハツカが気を失うと、平原中に広がっていた髪の毛も凄い勢いでするするーっとオッさんの元に戻ってきた。


 オッさんは元に戻った自分の髪の毛を確認するように頭をポンポンと叩いている。


 そんなオッさんの横には、髪の毛が運んできたのだろう、山のように大量の薬草が積まれていた。


「あー、不覚じゃ。不覚じゃ。力を御しきれぬだけかと思っておったが……こんなもの、竜種共でも扱いかねるわ」


 気を失ったハツカを自らの膝に寝かせながら、メデュラはその頭を撫でた。


「どうやらこのクラスアップ、妾も知らぬ何かが有りそうじゃ。まったく、我が主殿は何を背負わされたのやら……」

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