番外編1.シルルの気持ち
冒険者ギルドの受付嬢、シルル視点の番外編になります。
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はじめは何の印象もなかった。
彼は私の勤め先である冒険者ギルドに依頼を受けにくる大勢の中の一人だった。
それがいつからだろう、彼ーーハツカさんが受付カウンターに来てくれるのが楽しみになったのは。
あれは多分3年前、私が冒険者ギルドに就職して、リールカームに配属されたばかりの頃ーー
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私の【魔法杖使い】はよく言えば器用貧乏、悪く言えば伸びしろが無いクラスだ。
魔法の杖を媒介とすることで、複数の属性の魔法を使えるが、[プチファイア]や[プチヒール]などの初級魔法より上位の魔法は使えない。
私の力はすぐに頭打ちになるーーだから、
父のような冒険者になりたいと言った時、父は「シルル、冒険者はやめとけ。そんな甘いもんじゃない」と言った。
私は私で「それもそうか」とあっさり冒険者を諦めて、冒険者ギルドの受付嬢をすることにしたのだ。
冒険者ギルドの職員になるにはEランク以上の冒険者資格も、幸い初級魔法が使える私は難なく取得した。
だが、受付嬢を始めてみると不思議な人と出会った。
聞くところによると彼は、【髪の毛使い】という不遇なクラスで、魔物一匹倒せないからEランクにも上がれず、最低のFランクのまま何年も冒険者を続けているという。
魔物も倒せないのに、冒険者として何をしているのかと思ったが「薬草採取」の依頼ばかりこなしているそうだ。
「薬草採取」は需要の割に採取が手間なうえ、単価も他の依頼に比べて悪いので、誰も受けたがらない依頼なのだ。
ギルド職員の立場としては、そんな依頼を進んで受けてくれる彼は有難い存在なのだが、なぜそんなことを続けてまで冒険者でいるのか、私は疑問で仕方なかったので、思い切って聞いてみることにした。
すると彼は、その長い髪の隙間から覗く頬を赤く染め「黄金鎧の勇者に憧れてて、彼みたいな冒険者になりたいんだ……っていい年して何言ってるんだろうね! ごめん、忘れて!」と言ってそそくさと立ち去ってしまった。
私は驚いた。
誰から見ても無茶な夢なのに、毎日のように他の冒険者達にバカにされているのに、彼は自分の夢を諦めていないのだ。
私が父の一言であっさり諦めた夢を、私より望みのない人が諦めずにいる。
それが私にとってはあまりにも衝撃的で、それから毎日彼が依頼を受けにくる度、少し話をするようになった。
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自分が諦めた夢を追う彼を純粋に応援したくなったのか、自分の過去の夢の押し付けだったのか今となってはもう分からない。
3年ほどの間、彼の生真面目さや、優しさ、そういったものに触れていくうちに……気づけば惚れてしまっていたのだろう。
ただ、その恋心をハッキリと自覚したのはつい昨日のこと。
グールの群れから私を庇って死んだと思っていた彼が帰って来てくれた時、生きていてくれて良かったと思うと同時に、この人が好きだと心の底から感じた。
だから、同時に彼を連れてきたメデュラという女の子のことが気になった。
私の知る限り、彼に彼女は……いないはず。
しかし、あの二人の間に感じた妙な距離感の近さが気になる。
私は出勤前に、彼の家に向かうことにした。
いやいやいやいやいやいやいや、違う違う違う違う。
念のため言っておくが、あの女の子のことを問い詰めるためでも、まして下心があるわけではない。
頭部や腕にあれだけの怪我を負っていた彼が、本当に病院でしっかり治療を受けたのかギルド職員として確認するためだ。
そう、彼の家に向かうのはあくまでギルド職員としての職務なのだ。
だから冒険者ギルドに登録された名簿から、彼の住所を調べたのも、職権濫用でも個人情報保護違反でもない。
あくまで職務のうちなのだ!
というわけで、私は満を辞して彼の部屋のドアをノックした。
ガチャ、という音と共にドアが開く。
「おはようございますっ、ハツカさん。昨日は大丈夫でしたか? 怪我の具合はどうでしたか? 私、気になって気にな……って……え?」
「んみゅう……誰じゃ? こんな朝早くから」
ドアを開けて出てきたのはハツカではなく、件のメデュラという女の子だった。
しかも、なんか妙に服が乱れている。
「えっ? ここハツカさんの部屋じゃ? え? えっ?」
慌てて手元にあるメモを確認するが、ここがハツカの住むアパートの部屋に間違いない。
「……主殿か? 主殿なら中で寝ておる……ふあ~ぁ、起こすか?」
「イエ、ケッコウデス」
「そうか」
パタン、とドアが閉まる音がした。
「ハ、ハハハ。ソンナマサカ。今ノハ幻覚。気ノセイ。気ノセイデスヨ……シッカリスルノヨ、シルル。アナタハ強イ子ジャナイデスカ」
私はそう虚に呟きながら、フラフラとおぼつかない足取りで職場に向かうのだった。
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