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君と見た世界をもう一度  作者: ツキミモチ
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2話 第一村人発見


気がつくと森の中にいた。少し辺りを見回してみると日本では見たことも無い色や形の果物や植物が生えていた。どうやら本当に異世界に来たらしい。

「到着先がよく分からん森の中っておかしいだろ……」

 普通こういった異世界転生は赤ん坊から始まったり、駆け出しの街からスタートするのがお約束じゃないのか、と女神に文句のひとつでも言ってやりたかった。

「そういや女神で思い出したがこれ……どうするか」

 別れ際に女神に貰った青のペンダントが首にかけられていた。この銃で撃てばいいものが出ると言っていたが怪しさ満点であまり撃ちたくなかった。

「まあ、いいものと言っていたし、やばくなったら撃ってみるか」

 ともあれ、まずは情報収集が先だろう。ここがどこか分からないし、食料や水もない、近くに村や街があるといいのだが、周りは木しか見えない。この世界はほとんど魔王によって支配されているらしいから魔物がその辺にいる可能性だってある。いくら銃があるとはいえ、ここに来る前に試し打ちしたあの威力では元の世界の銃と大して変わらないだろう。あの程度では小動物なら倒せるだろうが魔王なぞ夢のまた夢でしかない。そう考えると武器の新調も考えなくてはならない。つまるところ最初からかなり追い込まれてると考えた方がいいらしい。というか思い出してみたらあの女神の説明は中身がスッカスカだった。こっちの質問に答えているようで何も答えになっていなかった気がする。

「あのくそ女神、次会ったら絶対ドロップキックかましてやる」

 と、ぶつぶつ言いながら森の中を歩いていると前方から複数の声が聞こえてきた。ようやく第一村人発見かと思い、木の陰から覗いてみると

「いいか!!!貴様らぁぁ!!!今日こそはこの森に隠れている村を探し出し、あの白い髪の女を俺の前に連れ出してこい!!!」

 と、明らかに人間ではない連中が元気よく群れをなしていた。



「いやー、第一村人発見かと思ったらまさかあんな化け物を見つけてしまうとは」

 俺はあの連中を見つけたあと一目散に逃げ出していた。遠くの木の陰から様子見をしていたのが功を奏したのかあっちにも気づかれる事無く逃げる事が出来た。あの群れはゴブリンらしき連中がパッと見て100体ほどいた。群れのリーダーは先頭で叫んでいたオーガみたいなやつだろうか。筋肉もりもりに頭に2本の角が生えていた。本当に気づかれなくて良かった。ゴブリン程度ならこの銃で何とかなりそうだが、あのオーガだけは絶対に無理。見た目は脳筋にしか見えないがいまの戦闘力だと命が幾らあっても足りない。あの無駄にでかい棍棒でぺっちゃんこになる未来しか見えない。

「そういえば隠れてる村があるって言ってたな。あいつらが近くにいるってことはこの辺にあるのか?」

 嫌な考えを振り払うように別のことを考える。あいつらより先に見つけられれば、あの群れの事も伝えられるし、この森の抜け方も知っているかもしれない。

「そうと決まれば頑張って探すか」

 とりあえず行くあてがない今はこれが最前だろう。そう思い、重たい腰を上げ再び森の中を歩き出した。


 そうしてどれくらい歩いただろうか。この森に来てから数時間は歩いているが村なんぞ全く見つからないし人にすら出会っていない。まあ森の中で人に出くわすなんてそうそうないだろうが。飲まず食わずで歩きっぱなしでいたので体力もそろそろ限界に近い。

「こうなったらこいつを撃つか……」

 あのクソ女神にもらったペンダントを撃とうと思い、銃口を向けたとき

「きゃぁぁぁ!!」

 と、女の子の叫び声が聞こえてきた。


「へっへっへっ、ようやくあの村の住人を見つけたぜ。これでボスにどやされなくて済むぜ」

 そう言いながら10体近くのゴブリン達が少女を取り囲んでいた。

「お嬢ちゃん、ちょーっと村まで案内してくれれば良いからね」

「そうそう俺らを村まで連れてってくれや」

「いやぁぁぁ!来ないで!」

 ゴブリン達が少女に手を伸ばそうとしたその時、

「正義の味方登場っと」

 ゴブリンの頭を撃ち抜いて、悪辣な笑顔をしながらシンが立っていた。


「な、なんだ貴様は!」

 ゴブリン達が狼狽えながら叫んでくるがシンは容赦なくゴブリン達を撃ち続けた。

「黙れゴミ共」

 シンとしてもようやく巡り会えた村への手がかりで、この期を逃すと本当に生命に関わってくるのでシンとしても必死にゴブリン達を撃ち続けた。初めての戦闘にしては恐怖など感じずただただ己の為だけにゴブリン達を殺し続けた。そして、数分足らずでゴブリン達を全滅させるとシンはへたりこんでいた少女の元へ歩いて行き

「はじめまして、お嬢さん」

 と、丁寧に声をかけると

「ひっ」

 と、怯えられた。

 それもそのはず、シンの見た目はゴブリンの返り血がところどころかかっており、最初に見せた獲物を狩るような攻撃的な笑顔が少女の脳裏に張り付いており、命を救われたとはいえ恐怖を抱くには十分だった。

「あー、その、怪我とかはないか?」

「う、うん」

「それなら良かった」

 まだ少し怯えながらも少女が返答してくれた。シンは内心ホッとしながら少女に何を聞こうか考えていると少女の方から話しかけて来た。

「お、おにーさんは何しに来たの?」

「俺はこの森で迷っていてな。森の出口は知らないか?それか君の住んでいる村に案内して欲しいんだが」

「おにーさんは悪い人じゃない?」

「とりあえず君の村に危害を加えるつもりはないよ。ただお腹がかなり空いているから食べ物を恵んでくれるとありがたいかな」

 少女は少し迷うような素振りをしていたが

「いいよ!村に案内してあげる!」

 と承諾してくれた。

「じゃあ早速行こうか」

 へたりこんだままの少女に手を伸ばし、その手を少女が掴もうとしたその時

「あべふっ!?」

 横から強い衝撃に襲われ、シンはろくすっぽに受け身も取れず数メートル転がって行った。

「お、おにーさん!?大丈夫?」

 シンのもとに少女が駆け寄ってくるが指ひとつ動かせなかった。新手の敵が現れたと思い、シンは少女に

「に、にげ……ろ」

 と言い残し、意識を失った。




 目覚めというのはシンにとってあまり良くないものであり、日本にいたときも朝起きるのはしんどい以外の何物でもなかった。そしてこの世界で最初の目覚めは意外と良く、目を開けると

「知らない天井だ」

 木で出来た天井にランタンのようなものが部屋全体を照らしていた。そして体を起こそうとしたとき

「――っ!」

 全身に激痛が走り体をよじろうとしたがそれも叶わなかった。

「な…んだよこれ」

 体全体がロープによって拘束されていた。しかもご丁寧にベットごとぐるぐる巻きになっていた。何とか首を動かして周りを見てみるがどこかの家の部屋の中にいるということしか分からなかった。ただ生活感があることからあの魔族ではなく人間の居住地であると思うのだが、

「だとすると最後に受けた攻撃とこの拘束の説明が付かねぇな」

 意識を失う前に横から衝撃があったのは覚えているが誰にやられたのかがさっぱり分からない。

「あの女の子は逃げれたかな……」

 俺を吹っ飛ばしたのが魔族でなければ大丈夫だと思うが……いや、そもそも魔族だったらこんなとこに連れてくるか?人間だとしても何の為に?

「もう、わけわかんねぇよ……」

 よく見ると銃どころかペンダントも無くなっている。

「さっさと撃っとけばよかったな」

 あのくそ女神が怪しすぎるせいでいいものが出ると言われても撃つのを躊躇ってしまう。しかし、あのペンダントから食料や地図とコンパスが出てきてさっさと森を抜けられたかもしれない。まあ色々考えても仕方ない。とりあえずはここに連れて来たやつが帰って来るのを待つしかないと思っていると扉が開く音が聞こえて誰かがこちらに近づいてきた。シンは動けないながらも最大限の警戒をしながら待っていたのだが

「あら、もう起きていたのね」

 その警戒はすぐ解いてしまった。何故なら自分をここに連れて来たのは吹っ飛ばされたことから魔族か男だろうとだろうと思っていたのにそこに立っていたのは絹の様に美しい白い髪を腰まで伸ばした翠眼の美少女が立っていたのだから。

「ちょー可愛い」

「はへっ!?」

 うっかり声に出してしまった。目の前の美少女が頬を赤らめてこっちを睨んでいる。

「あ、あなたいきなりどういうつもり!?」

 そう言いながら少女は大剣を突きつけて来た。シンは慌てながら

「ちょっ、ちょっと待ってくれ。自己紹介から始めよう、俺の名前はシン。君の名前は?」

 少女は仕方なしとばかりに大剣を収めて

「私の名前はアリシア。この村の村長の娘よ。それであなたは何者?どこから来たの?」

 シンはどこから話したものかと悩みながら

「俺は日本というところに住んでいて気が付いたらこの森に迷い込んでたんだ。それで女の子が襲われてたから助けたら誰かに吹っ飛ばされて気が付いたらここに縛り付けられてた。」 

 自分で言ってて不運過ぎる内容だった。嘘は言っていないが信じて貰えないだろうなと思いながらアリシアの方を見ると

「そ、そうなんだ」

 とあまり疑ってはいないようだった。

「ここに連れて来たのは君か?」

「そ、そうよ。森で倒れてたあなたを運んで来たの」

「そうだったのか。だったらお礼を言わないとな、助けてくれてありがとう。」

 するとアリシアはいいえと首を振り

「それはこっちのセリフでもあるわ。イリーナを助けてくれたと聞いているわ。お礼を言うのはこっちの方よ。」

 と笑顔で言ってくれた。

「それはそうと俺は何で縛られてるのか聞いても?」

 そう聞くとアリシアは慌てたように

「そ、そうだったわね!この村は魔王軍から狙われているの。だからあなたがこの村に危害を加える存在かもしれなかったから念の為に拘束させて貰っていたの。ごめんね」

 と言いながら縄を解き始めてくれた。

「そういえばあの女の子は無事だったんだよな?」

「ええ、そうよ」

「俺、女の子助けた後に誰かに吹っ飛ばされたんだけど誰にやられたのか見てない?」

 するとアリシアはビクッと体を震わせて

「さ、さあ?私は見てないわよ?」

 と何故か目を泳がせながら答えはじめた。

「……何か知ってんだろ」

「……知らない」

 絶対嘘だろ。怪しすぎる。どうやって喋らそうか考えているとバンッと勢いよく扉が開き

「おにーさんがいるところってここ?」

 森で助けた女の子、イリーナがやってきた。


「げ」

 アリシアが何でここにいるのという顔でイリーナを見ていた。まるで自分に都合が悪いことを知っているような人を見るような目をして。

「な、何でここに?」

「そんちょーがおにーさんを呼んできて欲しいって。怪我をしてるだろうから治してあげるって」

 さすが異世界、見てあげるじゃなくて治してあげるって断定的なのが凄いな。

「ええとイリーナだっけ?あの後よく無事だったな。上手く逃げ切ったのか?」

 イリーナはよく分からないという風に首を傾げ

「……どういうこと?」

「いや、だから俺が吹っ飛ばされたのは誰かに襲撃されたんじゃないのか?」

 そこでようやく合点がついたのか

「ああ!そういう事ね、大丈夫だったよ!だっておにーさんを蹴り飛ばしたのはおねー…ハグっ!?」

「ななな、何を言ってるのかしら!?」

 アリシアがイリーナの口を塞いで言わせまいとしているがもう遅い。アリシアのこの慌てようから何となく察しがついた。

「お前が蹴り飛ばしたのか……」

「ち、違うの!これには訳があって……!」

「訳とは?」

「…………えーと」

「なんも考えてねぇじゃねぇか」

 人の命の恩人に対してなんたる仕打ち。ジト目で見ていると

「そ、そんなことより師匠が呼んでいるのよね。早く行きましょうか!」

 その目線に耐えられなくなったのかあからさまにこの場から逃げ出そうとするが

「行く前にこの縄早く解いてくれる?」

 ガチガチに結ばれた縄はなかなか解けることなくようやく起き上がれるようになるのにそこから数十分かかるのであった。

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