待ち姿
(4月15日の続き)
入学早々、自分は参竜に嫌気が差してきた。中退しよかな。
厨二じゃないけど、悪霊に取り憑かれてんのか?と本気で思った。
しかも、合宿の説明会で自分達に怒鳴った&職員室で説教(と、言うよりタダのリンチ)してきた藤沢ってヤツは、イカついオッサンのクセに自分と鈴木【※筆者注:「寺内モドキ」の男子の本名と思われる。】を心友()か、それ以上の何かと妄想してるみたいだ。だって、説教の最後の方で、
「オマエら合宿中にまたアホなことしたら、承知せんぞ!途中でも追い出したる。その時は二人きりで歩いて帰れ!!」
思い出しただけで吐きそうだ。なんだよ「きり」って!
元はと言えば先にちょっかい出してきたアイツの方が悪いんだ。アイツだけ怒られればよかったのに!
解放された後、カバンを取りにスタスタ教室を目ざした。もう皆下校した後だった。職員室を出てすぐに鈴木が何か話し掛けて来たように見えたが無視。一刻も早く学校を出たかった。
だけど、教室へ向かおうとしたは良いがまだ校内の間取りが全く分からん。一年の教室に行ったつもりが三年の教室に来てしまい、数人の男の先輩からひやかされ、階段を使ってようやくと思いきや被服教室、調理室などの教室しかないフロアに来てしまった。
状況が状況なだけに、泣きたくなった。いったいどこに行けば一年の教室に戻れるんだ?
廊下の奥の階段を上り、二階と三階の間の渡り廊下を歩いて職員室に戻ろうとしたら…後ろから肩をトントンされた。
鈴木だった。手には奴の、彼色にデコったカバン。もう片方の肩には自分のカバンを引っ提げていた。そして顔は……講堂でも見せられた満面のドヤ顔。
「お帰り〜♩ はいコレ〜♬」奴は歌うようにして自分のカバンを差し出した。まるで貸し借りは済んだとでも言うように。
すげーーーーーーーームカつく!!!!
「返せ!!」
自分はカバンを奴からひったくって建物を飛び出した。
おやつは持ってなかったから腹ペコだった。
なのに走って走って、学校の最寄りの改札に定期を押し込んだ。
券を出し入れしたり、機械に通す僅かな時間でさえイライラするくらい頭がどうかなりそうだった。
電車に駆け込みして、車内アナウンスが何か言う前にイヤホンを両耳に突っ込んだ。車掌の言った事は大体わかる。何せ周りの乗客は自分を怪訝な目で見てたから。
そんな針のような鋭い視線を受けながら、30分間ふて寝のポーズ。
駅に降りて西山線に乗り換え、始発の駅を出発した時も同じ調子だった。
二つ目の駅に着くまでは。
そこではホームのベンチに「あの人」が座っていた!!
何と言う偶然!こっちに背を向けていたけど、時折左右を見る横顔ですぐに分かったぞ!
その人はいつものジーンズと革靴、そして黒いジャケットを羽織り、上半身を丸めて、脚を少し広げて肘と膝をくっつけて両手を組んでいた。疲れているのか、ソフトに両サイドに分けた長い前髪が数本垂れていた。それすらも色気を感じたのだけど。
その頃夕方四時。大人が仕事から帰るのはまだ早いはず。
あの人はなぜあそこにいたんだろう?
一人の高校生をイライラから解放した事も知らずに。
自分も降りればよかった。