その日の出来事②
単刀直入に言うと、あの時寺内はよい子が見ちゃいけない「ドギツい画像や動画」を漁ってたのだ。膝の上にマフラーを置いていたのは、誰かに悟られないようにカモフラしてたってこと。
自分以上に担任の話を聞いてなかった寺内は、あみだくじ(スピーチをする卒業生代表を決めるものだった)の存在なんて知ってる訳もなく、いきなり自分に肩を叩かれてバレたと思って咄嗟に自分の顔面めがけて肘をぶつけやがったんだ。
幸い、鼻骨は折れなかったもののそんな逆ギレ噛まされて超絶ムカついたのは言うまでもない。
しかし、それ以上に腹が立つと言うより絶望したのは保健室から教室へ戻った時だった。
無論、寺内は担任に連行されて教室にはいなかった。だけど皆が自分を見る目が異様だった。中にはこっち見ながら眉をひそめて誰かとヒソヒソ話をするヤツもいた。その目を向ける相手を間違えてんじゃないの。さすがに泣いて憐れんで欲しいとは思わないけど、誰か一人「ドンマイ」の一言くらいかけてくれてもいいのに。自分は教室の皆との変な距離感が気色わるかった。寺内と外見が入れ替わってしまったのかとマジで思った。
「ねぇ、ミト。」クラスメートのうちの一人が汚物を見るような表情で自分に話しかけてきた。
「なに?」こっちも訝しげな顔で応える。
「ミトが保健室に行った後、テラが叫んでたんだけど…アレってマジ?」
「ミトってそーゆー趣味だったんだ。サイテー。」
「結局お前らグルだったんだな。原田が後で職員室へ来いってさ。」
「あーあ。卒業式のスピーチ決め直さなきゃだよ。テラが暴れて破いちゃったもん。」
(皆なに訳わかんねー事言ってんだよ!こっちは被害者だってゆーのに。鼻にエルボー喰らって打ち所が悪ければあやうく嗅覚失うとこだったんだ!何で自分も呼びだされるんだ?|寺内とグルって何?できることならアイツは視界に入れるのもカンベンしたいのに! 一体何て叫んだんだ⁉ 何がサイテーなんだ!そんなのこっちのセリフだろ!スピーチ?そんなもんどーだっていい。そっちで勝手にやれ!)
こう言い返したかったけど、実際のところ「担任に呼び出し喰らう」にビビッてボー然と突っ立ったままだった。
キーン コーン カーン…
自分にとって、死刑執行の合図が鳴った。バックれたかったけど後々めんどくさいから自分はそのまま職員室へ行った。
「そうか。アレは寺内のウソなんだな。わかった。ところで美藤、鼻は大丈夫か?骨折れてなかったか?」
「…はい。大丈夫です。」
「そんならよかった。あまり触るなよ。寺内には厳しく言っといた。ったくもうすぐ卒業だってのに、おとなしく出来ないもんかねぇアイツは。」
自分と寺内のどっちの味方なのかわからん言い方だったが、思ったより事は穏やかに済んだ。けど自分は早くこの場から解放されたかった。原田が言うには、あの時寺内は思いっきり「俺じゃねーって!!美藤からいっぽー的に(刺激的な画像が)送られてきたんだ!!」と全くのデタラメを叫んでいたそうだ。すぐバレるウソをつくなんて救えないヤツだ。こっちはケータイ自体まだ持ってないと言うのに。
教室に帰っても、まだ自分の濡れ衣は晴れていなかった。それどころかこっちの分は悪くなっていた。正直この後の事はあまり思い出したくない。
外で鳥の鳴き声が聞こえてくる。そろそろ部屋から出て学校へ行く時間だ。学校って言っても中学じゃない。
今日は自分の進学先の入学説明会なのだ。電車通学のシミュレーションも兼ねて。