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異界演武  作者: 八神あき
武闘大会編
7/7

執念 後

リョフイってなんか覚えある名前だなーって思ってたらあれですね。始皇帝に粛清された金持ちのおっさんですね。

 12の時、武術を習っていたリョは兄弟子と試合することになった。

 普通にやっては勝てない。ゆえに、勝てる方法を考えた。何日も何日も頭を捻り、そしてひとつのアイデアが思い浮かんだ。

 試合当日、兄弟子はリョを格下と思い、なんの警戒も無しにリョに打ってこいと構えを解いた。その瞬間、リョは隠し持っていた標(手裏剣)を投げた。標は相手の喉に当たった(殺すとまずいので刃先は潰していた)。痛みにうめく兄弟子にリョは容赦なく練撃を喰らわせ、ついに兄弟子を打ち倒した。

 リョは勝ったのだ。年も上、経験も才能も上の相手に。

 喜ぶリョに、見ていた者たちは卑怯だとバッシングを浴びせた。師からは破門にされ、呆然と帰路につくリョが夜道を歩いていると、兄弟子たちに囲まれた。10人以上もの相手に一斉に殴りかかられ、地面に押さえつけられ、兄弟子に謝れと強要された。リョは拒むとさらに痛めつけられた。

 リョにはわからなかった。勝つための工夫をなぜ卑怯と言うのか。相手が何も武器を持たず、自分たちと同じ戦い方をすると決めつけ、違うことをすると卑怯と罵り、集団で叩く。

 卑怯なのはお前らだろう。叫ぼうとしたが、もうリョは声さえ発することができなかった。

 その日からリョは一人で武術の稽古を続けた。どんな相手にも決して負けない(すべ)を研究し続けた。

 幾度もの戦いで勝利した。そのたびに自分は正しいのだと確信を深めるようになった。

 そしてこの街で開かれていた武闘大会に参加した。街の顔役である商人の前で戦い、勝利する。それが自身の正しさを証明することになると信じて。

 決勝の相手は年端もいかない子供だった。しかし打ち合ってすぐに油断ならない達人だと悟る。

 嬉しかった。これほどの達人ならば、正しさの証明にはもってこいだ。

 対戦相手、ハヤトとかいう少年は大きく足を踏み鳴らして睨みつけてきた。さっきまでとは様子が違う。駆け出した勇人に、リョは標を投げつけた。勇人は難なくなわす。予想通りに。

 リョは標を投げると同時に前進。標の影に隠れ、持っていた虎の爪で勇人を切り裂こうとした。

「はっ!!」

 勇人は大きく息を吐き、リョの拳に自分の拳を合わせた。鉄製の虎の爪が落ちる。リョの手はひしゃげ、指の骨が折れていた。

「せりゃっ!!」

 次いで、勇人の上段蹴り。リョの顎は砕かれ、同じ場所に右フック。一呼吸も置かずに反対側からも顎を殴られる。今までの攻撃とは明らかに違う。一撃一撃が、確実にリョの身体を破壊していく。

 定まらない視界の中、感覚のみを頼りに残っていた標を全て投げつける。背中に仕込んでいた剣を掴み、勇人に斬りかかった。

 勇人はすべての標をかわした。最後に来た剣戟も後ろに下がってよけ、同時に剣を掴んでいた手を蹴り上げる。リョは剣を離さないよう力を込めるが、その隙に勇人は相手の懐に入り込んだ。

 肘を殴り、手の甲に拳を振り下ろす。剣が落ち、勇人は相手の親指をつかんでへし折った。目をつぶし、金的を蹴り上げ、足を払う。倒れた相手の喉への下段突き。リョは血を吐きながら雄叫びをあげ、勇人を振り払った。勇人が飛び退くと立ち上がり、剣の鞘を投げつける。勇人はそれをつかみ、頑丈な鞘の先端で潰れかけていた相手の喉を突いた。リョはようやく痛みに声を上げる。

 勇人はその場で右振脚。反動で前方に飛び、着地と左振脚。それと同時に腰を捻り、相手の腹へ真っ直ぐに拳を突き出した。

 冲捶(ちゅうすい)。なんのことはない、ただの正拳突きだ。最初に教わった技であり、もっとも練習し、それゆえに最高の威力を誇る技。

 二人の間には絶望的な体格差があった。勇人の攻撃は通じず、相手の攻撃は一撃で命取り。ゆえに勇人は戦い方を変えた。徹底的な急所攻撃。顎、喉、鳩尾、金的といった箇所に強烈な打撃を、何度も叩き込む。暗器を警戒しながら相手が疲弊するのを待ち、隙を見せたところで最大威力の攻撃。

 勇人の策は当たった。

 巨体は倒れ、審判が鐘を鳴らす。

 勇人の優勝だ。

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