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異界演武  作者: 八神あき
武闘大会編
6/7

執念 前

 最後の対戦相手はリョフイという、大柄の男だ。ボロ布のような服をまう、凶暴な顔つきの巨漢。

 勇人は台上でリョと向かい合う。試合開始の鐘が鳴り、勇人は左足を半歩引いた。手はリラックスしているが、目線はリョから離さない。

 リョは歪に笑い、駆け出す。勇人に拳を振り下ろした。勇人がかわすと、リョの拳が勇人がいた地面をえぐる。

 勇人はリョの伸び切った腕を左手で掴み、足を後ろに蹴り飛ばして重心を崩す。さらに右手で髪を掴んで相手の身体を反転させ、地面に叩きつけた。

 普通なら痛みでしばらく動けない。しかしリョはただちに反撃。手刀で勇人の首を狙う。

 投げ技が効かなかったことで勇人は一旦距離をとった。リョはゆっくりと立ち上がり、肩を回して調子を確かめている。

「ちっ……。タフなやつ」

 リョは一歩踏み出し、上段の蹴り。勇人はほんのわずかに左前に出てそれをかわし、左手で相手の足を押さえながら前に出て靠(体当たり)でリョを突き飛ばす。体制を崩した相手の手を掴んで捻りながら引き寄せ、肘関節を決めながら鳩尾に膝蹴りを入れた。

 これは肘を折ると同時に鳩尾への膝蹴りで相手を完全に動けなくしてから、三発目でとどめをさすことを狙った動きだ。しかし肘は折れず、分厚い肉に阻まれ肘も通らない。

 リョは無造作に勇人の腕を掴み、投げ飛ばした。受け身は取れたのでダメージはないが、こちらの攻撃も通じていない。

 今度は勇人から仕掛ける。飛ばされた距離を一挙に縮め、リョの前に立つ。リョは勇人が手を出す前に先手を取って殴りかかるが、勇人はなでるだけで相手の攻撃をそらし、逆に勢いを利用してリョの正中線を軸に回し、両掌で突き飛ばす。リョはすぐに立て直して右の蹴りを出すが、勇人はこれも内から外へ優しく払い、残っていた左足を蹴る。リョはその場に倒れ込んだ。倒れたリョは勇人を掴んで引き寄せる。隼人はその力に逆らわず、引き寄せられ、力のベクトルを操作して相手の肩を掴んだまま転がった。起き上がりざま相手に馬乗りになる。

 化勁。敵の力を操り攻撃を無効化する技法。先の戦いでシュが使った技だが、勇人も使えた。

 馬乗りになり、片手両足で相手の全ての関節を封じ、勇人は渾身の力で顔面を殴った。リョの鼻が潰れ、血が吹き出す。もう一度殴ろうとしたところで嫌な予感がし、咄嗟に首を捻った。首筋が切り裂かれる。

 勇人はすぐに相手が何をしたのかを察した。含針術(ふくみばりじゅつ)。口の中に仕込んだ針を飛ばして攻撃する技。いわゆる暗器のひとつだ。

 さらに手に痛みを感じる。慌てて飛び退くと、リョを押さえていた手の五指が深く斬られていた。リョは緩慢な仕草で立ち上がる。その手には虎の爪と呼ばれる、指の間から三つの刃が飛び出す武器を持っていた。

 審判を見るが、特に何かする様子はない。

「……武器もありなのかよ」

 ちょっとやそっとの攻撃は通じない剛腕の暗器使い。

 なかなかに面倒だ。

 離れていた距離はすぐに無くなり、撃ち合いが再開される。ここに至ってリョは出し惜しみしなかった。髪に隠していた大量の小さな刃物、服の下で体に巻きつけていた鎖、靴に仕込んでいたナイフ。ありとあらゆる暗器を使う。

 当初こそ果敢に戦っていた勇人だが、徐々に動きが消極的になっていく。どこから暗器が出てくるかわからないため、動きが制限されるのだ。動きが鈍くなった勇人に対し、リョは真っ直ぐ殴りかかる。

 暗記ばかり気にしていた勇人はその単純な攻撃にすぐには対応できなかった。これはフェイントで、他の場所から暗器が飛び出してくるかもしれない。しかし、これこそがリョの目的。暗記を警戒させて疑心暗鬼に陥らせる。

 拳は勇人の顔面に直撃。勇人は勢いよく吹き飛ばされた。意識が飛ぶ。朦朧とする視界の中、勇人は場外にだけはならないようしがみつき、なんとか立ち上がった。

 詰まっていた鼻血を吹き出す。リョを睨みつけた。一度大きく呼吸し、指の先まで意識を張り巡らせる。

 気を通せ、よく師に言われていた。気とあうものはよくわからないが、とにかく身体の末端まで意識し、力の流れを感じる。

 足をあげ、振り下ろした。轟音が鳴り響き、台が陥没する。

 振脚。これをするとなんとなく身体が落ち着く。

 勇人は相手を睨みつけた。生半可な攻撃じゃ通じない。さらには無数の武器を持っている。

「正面から叩き潰す」

 勇人は真っ直ぐに歩き出した。

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