第六章 太陽フレア
ある日、はやぶさが具合が悪いといって寝込んでしまう。熱を計ると、39度あった。
妹のさっちゃんは献身的に看病をする。
少しでも元気を取り戻してほしいという思いから、さっちゃんは姉の好物である大福を渡に買ってこさせる。しかし、はやぶさは食欲がないといって食べなかった。
さっちゃんは、姉の体調不良の原因を電力不足と結論づける。
はやぶさやさっちゃんなどの人の姿をしたヒューマノイド探査機は、あらかじめ服の裾などについているソーラーパネルで定期的に電力を補給しなければならない。
さっちゃんがほとんど毎日日光浴をする一方、はやぶさはめったにしない。太陽に対してトラウマがあるためだ。はやぶさの前世である探査機はやぶさは、二〇〇三年一〇月末、宇宙空間で観測史上最大規模の太陽フレアに遭遇し、ソーラーパネルに深刻なダメージを負った。そのときの生々しい記憶が、いまのはやぶさのなかにもあるのだ。
一方、さっちゃんは太陽よりもどちらかといえば曇り空の方が嫌いだった。天気の悪さを原因とするロケットの打ち上げ延期を二度も経験しているためだ。 熱にうなされるはやぶさに、さっちゃんは日差しを浴びようと呼びかける。だが、はやぶさは頑として首を縦に振らなかった。 こうなると、もう残された手段は一つしかない。
さっちゃんは渡に高級ブランドの女性用スキンケアクリームを買ってくるよう指示する。
「どうして高級じゃなけりゃならないんだよ」
「これは気持ちの問題なんです。お願いします」
言いながら、頭を下げる。
さっちゃんが渡に対して行う、初めてのお辞儀だった。
頭を下げながら、これは自分らしからぬ行為だと、さっちゃんは自覚していた。
しかし、今は自分らしさを貫いている場合ではない。
姉の命が懸かっているのだ。
さっちゃんのいつにない姿にことの大きさを感じ取ったのか、渡は素直に高級スキンケアクリームを買いに行ってくれた。
さっちゃんが高級スキンケアクリームを塗ってあげると、気持ちが通じたのか、はやぶさは屋根の上に上がると言ってくれた。
屋根に上がったとたん、はやぶさは意識を失った。さっちゃんは不安に駆られたが、幸いなことに、はやぶさの顔色はすぐによくなりはじめた。
さっちゃんは一安心。
並んで日光浴をしていると、ふいに寝言が聞こえてきた。
「ごめんなさい……ミネルバ……ごめんなさい……」
苛まれるように寝言をつぶやきながら、はやぶさは涙を流した。




