最後のミッション
渡が考えた最後のオペレーション、それは、土星の輪から集めた成分で、真珠の首飾りに似た女性用のネックレスを作るというものだった。
まず、ガリレオとカッシーニが土星の輪を詳細に観測し、土星の輪の現時点でのデータを目指して、小天体一個単位で洗い出す。
それが終わったら、洗い出した小天体の中から、巨大かつサンプル採取がやりやすそうなものを一〇〇個リストアップする。
そうしたら、リストアップした一〇〇個の小天体を飛び石にして、はやぶさが土星の輪を一周する。
着地したターゲットから次のターゲットへ渡る度に、はやぶさは足を使って、最低一キログラム以上のサンプルを採取する。
それを繰り返すことで、最終的に一〇〇個の小天体から一〇〇キログラムのサンプルを集める。
さっちゃんははやぶさに対してつねに一定の距離を保つように航行しつつ、分離カメラ(分離される小型カメラ。はやぶさ2搭載機器の一つ)を使ってサンプル採取の一部始終を撮影する。
集められたサンプルは、キュリオシティに渡される。
キュリオシティはレーザーを使ってサンプルの水分を飛ばしつつ焼結させ、一〇〇天体のサンプルを一〇〇個の球状の粒へと変化させる。
ネックレスが完成したら、キュリオシティはその成分分析を行い、分析結果を元に報告書を作成する。
タイタニック号が土星に停泊している期間中にこのミッションを達成できれば、確実にはやぶさの全史は大幅に更新されることになる、と渡は説明。
出来上がったネックレスは、オークションイベントに使えばいい。
土星を出発する最終日に船内でオークションイベントを開催し、そこでこのネックレスを出品すれば乗客は盛り上がることだろう。
土星のリングは端から端まで無重力環境だ。
そういう点では、前世の探査機はやぶさが六〇億キロの旅をした宇宙空間となにも変わらない。
この環境のなかだけでミッションを行うのであれば、求められる電力は最小限で済むため、太陽光が弱いというはやぶさにとっての悪条件はほぼ相殺される。
ましてや、はやぶさの背中には、推進剤を効率的に使うことに長けたイオンエンジンがついているのだ。
はやぶさのサンプル採取ミッションは、オリンピック&タイタニック姉妹の土星滞在最終日の一日前に完了した。
土星の輪をぐるっと一周してきたはやぶさとさっちゃんを、渡と他のメンバーたちは拍手で出迎える。
その光景を見たはやぶさは、ふと胸に熱いものがこみ上げてくるのを感じた。涙腺と、感情を抑える理性が同時に決壊する。決壊した感情に突き動かされ、スキンスーツ姿の渡の胸にとびこんでいく。
はやぶさの両肩に、渡の手が添えられた。その手に、そっと体を引きはがされる。口角が僅かに上がった優しげな顔が、ふいに目の前に現れた。自分をまっすぐ見つめている眼差しを、はやぶさは受け止める。
「今まですまなかった」
はやぶさの肩をつかんだまま、渡は小さく呟く。
「はやぶさにははやぶさの得意なこと、そして苦手なことがあったのに、俺はそれをちゃんと考えずに、自分のやりたいことに付き合わせつづけちまった」
「そんなこといわないで欲しいぶさ……」
はやぶさは顔を覆って泣きだしてしまう。
渡との別れを受け入れられず、泣きつづける。
「自分を信じろ。そして未来をつかめ」
しゃくりあげる肩を、渡は優しく抱きしめた。
「俺は未来で待ってる」




