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 オリンピックとタイタニックは何事もなく月に到着する。


 太陽系全体からみれば、月は地球の近所にすぎない。


 逆に、月の側から見ても地球は近所に過ぎない。


 地球から見る月の三倍くらいの大きさで、青い地球が見える。


 大陸や白い雲など、思った以上に細部を視認できたため、渡は客と一緒になって感動してしまう。


 クルーと乗客は、BTによって進化したかさばらない宇宙服スキンスーツを着ている。スキンスーツにはペット用のものもあるので、ハスキーも船外活動に加わることができた。


 月の重力は地球の六分の一しかない。


 そのため渡は、ハスキー一匹の牽引力でも犬ぞりのアクティビティができるのではないかと考えた。


 渡がはやぶさとさっちゃんに、ハスキーが走りやすそうな場所を探してほしいというコマンドを出す。


「ハスキーのためなら……でもあんまり期待はしないでほしいぶさ……」


 二人は両足のサンプラーホーンを使って月のさまざまな場所を探査する。

 ほぼすべての場所が、露岩地帯か、レゴリス(宇宙風化作用によって砕けた岩盤などの細粒物)が分厚く降り積もった地帯のどちらかに分けられた。


 レゴリスの層は問題外だ。踏み込めば、ハスキーの小さな足は沼地に入ったように沈んでしまう。


 その中間、露岩の上にレゴリスが浅く積もった場所を見つけだしたい。はやぶさとさっちゃんは奮闘したが、結局、その条件を広い範囲で満たす場所はどうしても見つけだすことができなかった。


 露岩地帯で試しにソリを曳かせてみることにした。


 ソリは進まない。


「重力の影響でハスキーが感じるソリの重さが六分の一となった半面、ハスキーの足と地面の間に生じる摩擦も六分の一となったのです」


 さっちゃんの説明に、渡は、


「なら、重りをつけりゃいいじゃん」


 と一言。

 比重の重い金属をハスキーの足の裏と背中に取りつけて、ハスキーだけを重くしてみることになった。タイタニック号の非常用材料を譲ってもらい、それを加工して重りをつくる。それを、ハスキーのスキンスーツにとりつけた。やってみると、うまくいった。あらゆるものの重さが六分の一になる月環境下で、ハスキーは難なく人を乗せたソリを曳くことができることが判明。


 問題は揺れだった。


 露岩地帯はレゴリス地帯のように足が沈み込むことはないものの、そのぶん凹凸に溢れているという厳しさがあった。ソリが揺れるし、ハスキー自身も疲れてしまう。


 ハスキー自身が極地犬として鍛えられていないこともあり、結局、ハスキーは現時点ではまだその真価を発揮することができない。


 今回のチャレンジにおけるはやぶさとさっちゃんの全史の更新は、3ページに留まった。


 はやぶさやさっちゃん以外の探査機は、以下のような方法で全史を少しづつ稼いでいた。


・クレーターが生じた瞬間といった風な、「場所の過去」のシミュレーション


・宇宙ユネスコが定める「宇宙遺産一○○○」の経時変化の調査


・クレーター探検コース作成


・登山者のための登山ルート作成


・溶岩チューブの崩落リスク調査


・バギー運転者のための地質マップづくり


・加工装置系BTデバイス所有者のための素材探索


・二五〇名の観光客の現在地把握


・「飛び降り」や「月の縦穴ダイビング」といった無茶の監視


・ムーンクエイク(月震)の予測


 自分たちが手をこまねている間に、他の探査機が着実に全史を積み上げていくことに、さっちゃんは焦りを覚える。


 渡自身も、現時点までに地球外天体上でなんのスペースワークもできておらず、同僚のスペースクルーたちから出遅れた格好。


 たしかに渡には天性のひらめきがある。しかし結局、スペースクルーとしてはまだまだ発展途上なのだ。オペレーターの宇宙への理解不足が、想像以上のネックとなってのしかかってきた。


 このままでは、自分と姉はムーンレースで大敗を喫することになると、さっちゃんは危機感を抱く。


 なにか打開策はないものか。


 月では以前から、イーグルやルナ16といった自分たちと縁が深いS級探査機が、オペレーターを戴くことなく単独で月探査を行っていた。


 先輩に知恵を貸してもらおうとさっちゃんが提案。


 さっちゃん自身が自分と縁が深いルナ16に会いに行くことになった。

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