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探娘辞典 小惑星探査機ニアちゃん

 一人称は「私」


 二人称は基本は「あんた」だが、ガリレオのことのみ「博士」と呼ぶ。


 花を愛するアイドル探査機。


 はやぶさやさっちゃんは、二枚のソーラーパネルを平行にならべる形状から、H型探査機とよばれる。


 一方、小惑星探査機ニアは、四枚のソーラーパネルを十字にならべた珍しいルックスをしている。正方形のパネルを四方向に開くその姿には、花弁を思わせる美しさがある。


 ニアは自分で自分を、「史上最も美しい宇宙探査機」と評している。


 また、ソーラーパネルの枚数を根拠に、自分は格の高い探査機であるとも主張する。


 そのため、着陸に関するシステムは一切組み込まれていなかった。にもかかわらず、ニアの打ち上げ国であるアメリカNASAは、エロス探査が終了する二〇〇一年、ニアの軌道をエロスに接触するものに変更したのである。二〇〇一年二月一二日、ニアは小惑星エロスに衝突した。着陸探査機ではないのだから無事ではすむまいと多くの研究者が考えたが、驚くことにニアは着陸時のショックに耐え、着陸後も機能しつづけた。


 NASAはなぜ、探査機の自壊を覚悟してまで予定外の着陸に踏み切ったのか。その裏には、二年後に打ち上げを控える、日本の小惑星探査機はやぶさの存在があった。


 はやぶさはニアに次いで二番目に地球近傍小惑星に到達することになる探査機だ。そして、周回探査より数段難易度の高いサンプルリターンミッションを行うことになる。サンプルリターンを行うということは、すなわち着陸を行うということ。このままだと、小惑星到達一番乗りの栄誉は、日本の探査機はやぶさにもっていかれる。NASAははやぶさのチャレンジを脅威に感じていたからこそ、リスク覚悟でニアに小惑星に落下するようコマンドを送ったのだ。


 かくして小惑星探査機ニアは、「小惑星到達を成し遂げた史上初の探査機」という栄誉を手にすることになった。


 前世の「アステロイド・レース」を反映するように、ヒューマノイド探査機として蘇ったニアは、自分自身が十分偉大であるにもかかわらず、どういうわけかはやぶさに対してコンプレックスを抱いてしまっている。


 呼んでもいないのにはやぶさの前に現れては、あれやこれやと言ってはやぶさを刺激しようとする。その根底にあるのは、愛憎である。


 ニアとはやぶさは、互いに互いを意識して切磋琢磨した歴史を持つよきライバルだが、同時に、対等な力関係を持つ特別な間柄でもある。


 ニアははやぶさに対して基本ツンツンの態度をとるが、たまにデレることもある。


 ニアのはやぶさを思いやる気持ちは、さっちゃんにまったく引けをとらない。


 自分と同じくらいはやぶさを愛しているさっちゃんのことを、ライバル視している。


「史上初の小惑星探査機であるこの私に平伏しなさい」


 というニアに、さっちゃんは、「史上初の小惑星激突機の間違いでしょう」 と、お茶をすすりながら返す。


 愛の神エロスを名の由来とする小惑星に導かれた歴史を反映し、ニアは心の奥に深い慈愛を隠し持っている。

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