圧倒的ではないか、我軍は。
西軍はすべての地域で押しており、東軍の諸隊は一方的に後退していた。
(しかし実は東軍側のどこの部隊も崩れてはおらず、組織的に後退しているのだが。)
戦況としては明らかに西軍優位である。
ここで俺は狼煙を上げた。
「両小早川殿(秀秋、秀包)にご出陣を!」
合図を受けて松尾山から小早川秀秋が、南宮山から小早川秀包に率いられた毛利勢が駆け下りる!
駆け下りるとは言っても本当に山から降りてきたら時間がかかってしまうので払暁にすでに山麓までは降りて展開していたのだ。
「弁当を食べている場合ではないな!出番だ!行くぞ!」
毛利勢の大将、毛利秀元がそそくさと弁当を掻き込むと空になった弁当箱を投げ捨てて
出陣した。この故事は後に宰相殿の空弁当、と呼ばれることになった。
毛利勢が駆け下りた先に待っていたのは池田輝政隊と浅野幸長隊だった。
「家康に親を殺されたのに嫁をもらってしっぽをふる金玉大名!さっさとどかぬか。」
毛利の一隊を率いる外交僧で大名の安国寺恵瓊が口汚く罵る。
「ふん、織田に滅ぼされそうになって太閤殿下にしっぽを振ったのはそちらが先だろ。」
池田輝政は冷たく、冷静にあしらった。
毛利勢の数の暴力に池田・浅野隊はあっさり壊滅・・・しなかった。
池田輝政も浅野幸長もむしろ優秀な大将なのである。こちらもまた押され気味ではあり、
関ケ原で石田隊とにらみ合いを続けつつも、ちょっかいを掛けて突っ込んでくる島津の相手をしている黒田隊の近くまで押し込まれつつも、むしろ組織的に戦線を構築して抵抗していたのであった。
焦れた徳川家康が小早川秀秋が陣する松尾山に鉄砲を打ち込ませたのと、石田三成から
出陣の狼煙が上がったのはほとんど同時であった。
「問鉄砲とはなめた真似をしてくれる!内府め、すでに天下を取った心づもりか!
俺はそのふざけた幻想を否定する!」
小早川秀秋は戦闘モードに入っていた。
徳川側から派遣された戦目付、奥平貞治が慌てて
「家康様との約定は?・・・」
と言ってきたのを一刀両断にざんばらりと切り捨てた。
「小早川隊!全軍突撃!目標内府の首!蔚山城の再来を!」
おお!と歓声がとどろき、すでに山麓に降りていた小早川隊が駆け下りる。
そこは宇喜多秀家と交戦していて押し込まれていた福島正則隊の真横だった。
「金吾が突撃してきたか…いかん。あれは朝鮮の時のブチ切れている金吾だ…。
ここまで囲まれてはもはや内府の命運も尽きたな。
この福島正則、内府と心中するつもりはないわ。」
福島は宇喜多の攻撃を防ぎつつ、小早川の突撃を避けるように移動して、
小早川隊の攻撃を受け流そうとした。
「殿、小早川を防がなくて良いので?」
近習が聞いてくる。
「ふん。金吾の狙いは内府よ。邪魔さえしなければこちらには来んわ。」
そして福島正則の読みどおり小早川隊は福島隊を無視して家康の本陣の方に
向かっていく。
「ふふふ。圧倒的ではないか、我軍は。」
俺、石田三成は床几に座ってポーズを決めてみる。和平に向かった父親をソーラレイで暗殺もしてないし、変なマスクした妹も後ろにいないので多分大丈夫だ。
「Sフィールドのドロスを前に!じゃなくてここで決め手を打つか。
宇喜多秀家殿に早馬を出してこの書状を!」
島左近はまた殿が変なことを言っている、という顔をしたが、馴れてきたようで前半のセリフは無視して書状を送る手配をしてくれた。
「なに!いわゆる宇喜多騒動で譜代の家臣たちが裏切ったのは内府の差し金だと!」
宇喜多秀家は石田三成から届いた書状を見て沸騰した薬缶のように怒り出した。
「わが家臣団を分断して弱体化させ、将来的には改易に追い込んで備前は池田輝政に与える、だと!
…内府、許せん!!!」
福島正則は困っていた。後方に入ってきた小早川隊はうまく無視して受け流したものの
前方の宇喜多隊の攻勢がなぜか急に強まったのである。
まるで一向一揆の死兵を相手にしているような感じだった。
「宇喜多殿…突然の変貌か…これはますます付き合いきれないな。」
しばらく交戦して宇喜多隊の狙いがどうやらこの福島隊ではなく、徳川家康の本陣にかって突出しようとしているのが感じ取れた。
「やめじゃ、やめ。我が家は我が身を守るのを優先するぞ。」
そして福島正則は逆に徳川家康の陣の方向から兵を引いて道を開けた。
宇喜多隊は福島にはほとんど脇目も振らず徳川家康の方へ向かっていく。
うまく宇喜多隊をやりすごすと、そのまま福島正則は戦場から離脱を始めた。
途中で大谷隊と交戦している藤堂高虎とあった。
「福島殿!加勢してくれるか!ありがたい!」
と藤堂高虎が声をかけてくる。
「加勢?せんぞ。すでに内府は囲まれている。貴殿も戦場から脱出したほうが良かろう。」
「なにをいうか?この状況で戦場離脱など。斬り捨てたいところだがそうもできぬ。
わしは付き合わないから勝手にされよ。あ、離脱を許したわけではなく、
引き止めたが貴殿が勝手に離脱したんだからな。」
「勝手に、だと?お前誰に物言っているんだ。」
福島正則がクダを巻きだした。退却を決めてから酒を飲んでいたのである。
「貴様大和中納言様の陪臣あがりのくせにこの太閤殿下の係累で七本槍筆頭
(酔っているので勝手に自称)福島正則様に意見だと?
斬り捨ててやるわ!そこになおれ!」
もはや単なる酔っぱらいである。かつ酔っ払っている福島正則様ほどたちが悪い
者は日本の歴史上でも少ない。名槍日本号を持ち出して暴れようとするのを
可児才蔵吉長が止める。
「殿!藤堂殿はお味方でありますぞ!」
「さぁいぞぉぉ、俺に逆らうとは許せん。しかし槍の達人のお前を斬るのは
面倒くさい。この槍やるからお前、当家から首な。かってにしろ。」
と言い残して福島正則は関ケ原から去っていってしまった。
「・・・・・・・」
後に取り残された可児吉長と藤堂高虎は呆然としていた。
「・・・可児どの、とりあえず私と共に戦うか。」
藤堂高虎が声をかけた。
「かたじけない。陣借りさせていただく。」
そして可児吉長は藤堂高虎の陣を借りて戦ったのであった。
そして態度があまりにも怠戦的でやる気がなかった、というので戦後福島正則は恩賞を与えられるどころではなくなったりする。
松尾山から家康の本陣に向かって小早川秀秋の部隊が突貫する!
「ひょおおおおお!狸、さっさと首を差し出せ。」
「金吾め調子に乗りおって!」
イライラした家康は爪をかみすぎて噛むところがなくなってきてしまった。
「宇喜多秀家の部隊もこちらと接触しました!」
「立花宗茂、忠吉様の部隊と乱戦になりつつ押し込み!そろそろこちらに
弾が届く距離です!」
「島津豊久が黒田隊に乱入して大将首を狩りまくってます!後藤又兵衛殿が
やっと止めてます!」
入ってくる戦況は耳に心地よくないものばかりである。
ついに眼前に小早川秀秋隊が現れた。
「たぁぬぅき!さっさと首差し出せ。
海道一とか言っても朝鮮で明軍を撃破した俺のほうが新しい戦の頂点!
内府の座は俺にこそふさわしい。
今すぐ土下座すれば100石ぐらいで雇ってやってもいいぞ!はははははは!」
…ハイになりすぎてちょっと逝っている。
「金吾め。人面獣心なり!」
とまた間違えた意味で小早川秀秋は人面獣心と言われたのであった。