プロローグ
初投稿です。よろしくお願いします。
「うわ。また光った。」
俺は深夜の関が原を車で走っていた。
俺は名古屋に住んでいるのだが、今日は仕事で大垣に車で行ったのだ。
仕事先の社長さんと一仕事終えて話していたら俺が歴史好きで、という話題になり、社長さんもまた歴史が好きだったので、ついつい『関ヶ原の戦でどうすれば西軍が勝てたのだろうか』、と盛り上がってしまったのだ。
「布陣図を見て明治時代のプロイセンの武官、メッケルが『西軍の勝ち!』と断言した話はどうだね?」
と社長さん。
「これ本当に小早川と毛利がちゃんと戦闘すれば勝てたって本当なんですかね?
相手の東軍の徳川家康って『海道一の弓取り』って当時讃えられた野戦の名手ですよね?
大体そのメッケルの話って出典自体が怪しいとも言われますよね…
でもそういう通説・俗説ってなんか物語があって面白いんですよね。学問や史実としては『なし』でいいんだと思いますが、歴史を楽しむ、という観点からは単純に切り捨てるのは勿体ない気がします。私ユルイのが好きなのもので。」
と俺は答え、
「そうだろそうだろ。戦国武将には現代のビジネスパーソンとして学ぶところも多いと思うんだ・・・」
といった調子で話し込んでしまったのだ。
大垣を出たときはすっかり夜中だった。外はものすごい嵐である。社長さんは泊まっていくように勧めてくれ、宿までとってくれると言ってくれたのだが、それを俺は固辞して帰ることにした。家で待つ妻と二人の娘よ、すまぬ。土産はしっかり上等な寿司を貰ったから許せ。
帰りが遅くなったのは本当に失敗だった。あまりの悪天候に高速はすべて通行止めになっていた。
でもまあ、ゆっくり帰ればなんとかなるだろう、と家には先に寝ているように伝えて下道で帰ることにしたのだが。
「こんなことなら無理して帰らず泊まってくればよかった…。」
ぼやいていると雷が何度も鳴り響いて辺りが煌々と照らされる。無数の雷が天を覆わんばかりに広がり、まるで凄まじい爆弾のように雷鳴が響く。バケツを引っくり返した、というより滝飛沫の中にいて水煙がまるで霧のようにすら感じるほど濃厚になり、ついには視野が全くなくなった。
「なんなんだこれ?もう訳がわからない。勘弁してクレメンス…。」
俺はネットスラングを言いながら、さらにスピードを落としてそろりそろりと慎重に走ることにした。
しかし天気は回復するどころかますます悪くなり、もうどこが道なのかも怪しくなってきて、いよいよ諦めて車を止めようかと思ったその時、
凄まじい衝撃と光が車を包んだ。
雷が車を直撃した、と俺は思った。ものすごい光と音と振動だけど、雷は車を直撃しても地面に抜けてくれるから大丈夫だよな、と頭を整理していたその時、前に騎馬に乗った鎧武者が見えた気がした。
「鎧武者?こんな深夜に?なんで?幻覚でなければこんなところでなにか撮影?
でなければ場所が場所だけに亡霊か?…ないない。…まあ悪天候の運転で疲れが出たんだろ。」
と思った瞬間、また光と轟音が車に直撃した…あまりの凄まじさに視野が真っ白になったのを最後に……俺は意識を失ったのだった。