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俺様イケメンの倒し方

作者: 米沢

※このエッセイは、俺様があまり好きではない作者が欲望のままに書いておりますので、俺様好きには侮辱的だったり、ショッキングな表現を含む可能性があります。俺様好きは読まない事をお勧めいたします。また、女性について色々論じる個所もありますが、全て作者の独断と偏見に基づくものですので、なにとぞご容赦ください。なお、少しエロシーンのある作品について言及しています。

 突然で申し訳ないが、私は俺様イケメンが苦手である。フィクション相手に何と無粋な、と思われるかもしれないが、リアルで出くわした粗暴な男性達をどうしても思い出すのだ。どんな美しい顔面と声を引っ提げていようと、股間にダイブしたり全裸を目撃した訳でもないのに、会って早々暴言を吐かれただけでスン……となってしまう。

 それだけではない。俺様イケメンが出てくる作品の多くが、女性向けの恋愛モノ――すなわち多種多様なイケメン達が一人のヒロインを奪い合う作品である。俺様イケメンはかなりの確率でそれらの作品のメイン格として扱われ、ヒロイン争奪戦に勝利を収める。その陰でひっそりと敗北するのは、大抵ストーリー開始時からヒロインに優しく接してくれた、穏やかで人の良いイケメンである。私はこれが苦手なのだ。リアルでも優しい人間は相手を思うあまり、我慢し、譲る。そして我の強い人間が「いらないなら、もらうよ」とばかりに、感謝の言葉の一つもなくしれっと奪っていく。優しい人は優しさのあまり、それに文句一つ言う事が出来ない。そんな理不尽なリアルを、見目麗しいイケメン達による美しいファンタジーの中に持ち込まないでもらいたい。マジで。胃が痛くなる。そんな胃痛の原因になる事もあって、私はますます俺様イケメンが苦手になってしまうのだ。

 とはいえ私も女性向けの恋愛モノは嫌いではない。積極的に自ら作品を漁る事こそしていないが、ドラマなどでそういうタイプの作品があるたびに、私は優しいイケメンの勝利と、俺様イケメンの敗北を願った。しかし、私が望む結末は未だ目にしていない。男性向けが金でヒロインを買い傅かせているこの令和の世に、女性向けはいつまで俺様イケメンの圧政に耐えねばならないのか。男性向けがロリママにバブみを感じてオギャっている中、女性向けはいつまで俺様イケメンの粗暴な言動に可愛さを見出しママ役になってやらねばいけないのか。どうして女性は恋愛モノの中ですら男性の横暴に耐え、母性を求められ、ファンタジーだというのに甘く優しい世界に浸る事が出来ないのか。優しいイケメンが勝利し、女性も甘く優しい世界を勝ち取れる日はいつ来るのか。そう思い悩む私の脳裏に、創作の神がささやいた――「お前が書け」と。

 そう、私の手で優しいイケメンには勝利を、俺様イケメンには敗北をもたらす。そんな作品を書こうじゃないか。まずは優しいイケメンの勝ち筋を考える必要があるが、そのためには敵である俺様イケメンを知らねばならない。俺様イケメンの倒し方を考えるためにも、俺様イケメンは何故ヒロイン争奪戦に勝利出来るのか、世の女性達に愛されるのかを、私なりに独断と偏見で分析してみようと思う。

まずは「俺様イケメンは何故、ヒロイン争奪戦に勝利出来るのか」である。これは作者の立場に立ってみると非常に良く分かる。実はこの俺様イケメン、恋愛モノでいざメインに据えると抜群に話が作りやすい。恋愛モノで大切なのは、手を変え品を変え繰り出される多種多様なイベントだ。退屈ですらある穏やかな日常に波風を起こさなければならないのだが、その点においてこの俺様イケメンは非常に強い。ヒロインがハッキリとモノを言うタイプなら一緒にいるだけでケンカが起きるし、ヒロインがちょっと他のイケメンと仲良くしただけでスネてすれ違いを起こし、少しでも態度が柔らかくなったり素直になったりすれば成長イベントだ。しかも突然のハグやキス、最近の作品なら壁ドンや顎クイなんてのも、ヒロインの状況や意思なんてお構いなしに好きなタイミングで入れ放題と来た。

 これが優しいイケメンだとどうだろう。ある程度ヒロインと打ち解ければ打ち明け話の一つもしてくれるだろうが、基本穏やかで当たり障りのない会話が続くだけだ。ヒロインが突然何の理由も無く優しいイケメンに当たり散らすとかでもない限り、ケンカなんてまず起きないだろう。すれ違いなんて起きる前に何らかの対策を打つだろうし、人柄は大抵人生何周目ですかってくらい円熟の域に達しているので成長の余地もない。交際前のヒロインに何の断りも無くハグやキスなんてもってのほかだ。優しさがあればある程、イベントを起こす事が出来ない。優しさとは穏やかな日常を円滑に進めるための能力であって、日常に波風を起こすのにはとにかく向いていないのである。

 何故俺様イケメンはこんなにぽこじゃかイベントを起こせるのだろう。その理由は、とある恋愛映画を見ている時に分かった。その映画は様々なイケメンを取り揃える逆ハーレムタイプの映画であったが、俺様イケメンらしきキャラが見当たらない。喜んで心穏やかなイケメンライフを楽しんでいる時に、はたと気付いた。この映画には俺様キャラがいないのではなく、俺様キャラの要素を複数のキャラがシェアしているのだ。その恋愛映画で主にヒロインと恋愛関係を進めていくのは、主要キャラ扱いされている二人のイケメンである。一人目のイケメンは、品行方正だがヒロインに対してだけ素直になれず、つい感情を露にしてしまい、「ヒロインと対立、和解を繰り返し仲を深める」事でイベントを作り出す。二人目のイケメンは、いわゆる男らしさ溢れるヤンキー系ワイルドイケメンだが、「ヒロインに積極的にアプローチし、時に強引な行動に出る」事でイベントを作り出す。自分にとってこのパターンは不快感が少ない気がするので、もっと流行って主流にならないだろうか……という話はともかく、多くの俺様キャラは先述の「対立と和解を繰り返す」「時に強引な行動に出る」という二つの特性を併せ持っている場合が多い。つまり、一人で二人分のイベント生産力を持っているのだ。道理でぽこじゃかイベントが起こせる訳である。

 俺様イケメンが、女性向け恋愛モノの作者にとって、非常にありがたい存在であるのは分かった。しかしいくら話が作りやすいからと言って、商業作品である以上はメインターゲットである女性の支持を得なければならない。しかしその点は問題ない。俺様イケメンは非常に女性人気のあるキャラである。メインビジュアルに俺様イケメンらしきキャラとヒロインしかいない、つまりヒロインと俺様イケメンがほぼ一対一で恋愛を進めると思われる作品を多く見かける事からも、その人気の高さがうかがえる。ここからは「何故俺様イケメンは世の女性に支持されるのか」を分析しようと思う。

 そもそも私は、自分が苦手である事もあって、俺様イケメンが何故こんなにも世の女性に支持されるのかよく分からない。リアルにこんな奴がいたら、多少顔が良かろうと裸足で逃げる自信がある。ただでさえ男性は女性より身長が高く力が強い人が多いため、男性であるというだけで女性にうっすらと恐怖感や不信感を与えがちである。これを読んでいるのがもし男性なら、自分より身長が10~20cm程高いゴリゴリマッチョを想像していただけると、より分かりやすいかもしれない。そんな人が自分を露骨に雑に扱い、許可なくパーソナルスペースを侵害し、酷い時には頬をつねったり小突くなどの軽い暴力や、「俺の奴隷だ」といった支配的な暴言まで繰り出してくる。そしてどうも自分に好意があるのか、自分の周りに頻繁に現れ、その都度積極的に前述のようなアクションをしてくる(もちろんフィクションではないので、相手の内心はうかがえないままだ)。リアルでこんな人間が自分の前に出現したなら、多少顔が良かろうが脅威以外の何者でもない。しかし俺様イケメンの活躍の場は、もっぱらフィクションである。心を壊す程の深い悲しみや怒り、緊迫感溢れる命のやり取りですら、家でお菓子でも食べながら気軽に「消費」出来るのがフィクションの良い所だ。時に命の危機すらあるハラハラドキドキの冒険ストーリーのように、俺様イケメンは「フィクションだからこそ楽しめる存在」として、読者及び視聴者にハラハラドキドキの恋愛ストーリーを提供してくれるのだ。

 ここまで来て「え? 女性はリアルでも俺様が好きなんじゃないの?」と思う人もいるかもしれない。しかし恋愛モノというのは、極めてフィクションとリアルの境が曖昧になりやすいジャンルである。比較的身近な題材で現実感のあるシチュエーションも多く、媒体によっては生身の人間である役者やアイドルがキャラを演じる。近年は演者やドラマ製作スタッフがSNSで発信する事も多く、演者が自身のアカウントで過去に演じたキャラを意識した振舞いをしたり、ドラマの情報を発信するアカウントが役者のオフショットを掲載したりするなど、フィクションとリアルの距離はますます縮まっている。故に恋愛モノの世界にどっぷり耽溺し、リアルで自己中心的あるいは粗暴だったりする男性に威圧されたり傷つけられた経験が少ない女性が、リアルでも俺様が好きであるかのような言動をする場合がある、というだけの事だと考えられる(もっとも、雑に扱われたりワガママに振り回されたりするのが好き、という女性もいるが、決して多数派ではないだろう)。しかし「女性はリアルの男性(彼氏、役に入っていない状態の俳優さんなど)にも、俺様ムーブを要求したりするじゃないか」と言われると、確かにその通りだ。しかしあれは一種のコスプレのような物で、相手が自分の脅威にならないまともな人間だとある程度確約されており、なおかつ特殊な状況下だからこそ成立する。某テーマパークで呪文を唱えながら魔法の杖を振るようなものだ。テーマパークに来られる程度の常識ある人間が(テーマパークに来ている時点で、マイカーや公共交通機関を利用出来るか、連れて行ってくれる誰かの信用を得られる程度の常識はあるという事なので)、テーマパークという特殊な状況下で行うからこそ、杖を振る行為は魔法を生む。すなわち、女性自身が本来常識人だと知っている男性が、頼まれたり何かの企画などの特殊な状況下で行うからこそ、俺様ムーブは胸キュンを生むのだ。ちなみに某テーマパークの魔法はかなり限定的で、あの広大な園内のわずか8ヶ所でしか使えず、使える魔法の種類及び杖の振り方にも指定がある。そこからほんの少しでも外れると、良くて「残念な奴」で悪くて「おかしな奴」だ。リアルの俺様ムーブはそれ程に度し難い行為なのであって、別にイケメン無罪ブサイク有罪という訳ではないのである。(もっとも好みの顔面でさえあればたとえ酷い暴力を振るわれても許せる、という超顔面至上主義の人もいるかもしれないが……)

 また人間は、「嘘は美しく、真実は汚い」と思いがちだ。多くのフィクションやノンフィクションが物語るように、実際は美しい真実も汚い嘘もあるのだが、何故かそう頑なに思い込んでしまう人が多い。普通の人々をギリギリまで追い込んで、誰かが少しでも悪どい事をしたら「やぁこれが人間の真実だ」と喜ぶ小悪党と同じである。「そうは言っても、実際それが本性であり真実なんじゃないの」と言う人もいるだろうが、常に見せている面と、特殊な状況下でのみ見える面、果たして「真実」はどちらなのだろうか? 台風の時だけを指して「空は黒い」と言うのは的外れな発言だが、何故か人の品性や人格においては、そういう発言が真実だと思う人が世の大半を占めているように思う。だから優しい性格のキャラは「本当は悪い面を隠してるんじゃないの」と言われ(二次創作での腹黒化などが分かりやすい例である)、臆面もなく他人に悪い面を晒すキャラは「正直でよろしい」と言われるのである。リアルでも単に口が悪いだけの人が、「他の人ならなかなか言えない真実を言ってのける」「自分に素をさらしてくれている」などとむしろ好感を持たれる事があるが、俺様イケメンもそのようにヒロインや読者及び視聴者には好意的に受け止められる事が多い。芸能ゴシップや陰謀論などの話を持ち出すまでも無く、「汚い真実」は人に好まれ、人を惹きつけるものだ。たとえガセや誤解やフィクションだったとしても、「汚い」と「真実」のように見えてしまい、その真実味が人を夢中にさせ、時に納得させてしまう。俺様イケメンの粗暴な言動には、そう言った「汚い真実」の魅力や説得力が宿っているのである。

 ここまで散々俺様イケメンをこき下ろして来た私であるが、実は少しだけ許容出来る俺様イケメンというのも存在する。一つは身分制度があるなどの現代日本ではない世界観においての俺様イケメンであり、もう一つはエロを主題とした作品においての俺様イケメンである。舞台が現代日本でない場合、身分差があるなどの理由で、ヒロインに対して俺様ムーブをする事がむしろ常識的な振舞いな場合がある。この場合だと俺様イケメンはそれなりに素直さや優しさを備えている可能性があり、ヒロインからお願いすれば、二人きりの時だけでも態度を変えてもらうなどの俺様ムーブを緩和する策が取れるだろう。そしてもう一つはエロ作品の場合だ。女性向けのエロ作品はフルコースだなんて言われるが、全ての女性が常にお行儀良く座って、前菜やスープをじっくり賞味しながらメインをサーブされるのを待っている訳ではない。フルコースが人気な一方で、なるべく早くメインを提供するタイプの作品もある程度の支持を受けている。そういうエロシーンRTAみたいな作品で、時にヒロインの意思すら無視して行動出来る俺様(ほぼ必ず肉食系)イケメンは物凄く強い。エロシーンに至るための舞台装置であると考えれば、多少の俺様ムーブもまあ許容出来るのだ。加えて男女平等の社会になったとはいえ、まだまだ女性には慎ましさやおしとやかさが求められがちな時代であり、「普通の女性」はあまり性に積極的になるもんじゃないという風潮が残っている。そんな中、俺様イケメンに強引に迫られるという展開は実に理想的で、ヒロインを性に積極的な「普通じゃない(とされる)女性」にして、読者及び視聴者の感情移入や自己投影を阻害する事なく、エロシーンRTAを好成績でクリアする事が出来るのだ。エロシーンRTAにおける俺様イケメンはまさに「痒い所に手が届く」の更に進化系で、「『ここが痒い』と申告するまでも無く、何かムズムズすると思った瞬間、痒い所を的確に掻いてくれて超気持ちいい」という、高性能AI搭載孫の手みたいな存在なのである。(ここでふと気付いたのだが、全年齢向けの恋愛モノを「胸キュンシーンRTA」のように捉えている人もいるのかもしれない。そういう人にとって俺様イケメンはとても有能な登場人物だろう)

 しかしあくまで私がやりたいのは、許容出来るタイプの俺様イケメンを作り出す事ではなく、許容出来ないタイプの俺様イケメンを、優しいイケメンで負かす事である。これまで散々俺様イケメンの強さを述べてきたが、いよいよ倒し方を考えていきたい。でも、果たして勝てるんですかねこの俺様イケメンに。ちょっと強過ぎやしませんかね……。だって「話の作りやすさ」という最強の武器と「読者及び視聴者からの高い支持」という最強の防具に加え、「汚い真実」という強力なサブウェポンまで持って、常時暴れ回りながら血路を切り開き……もといストーリーを展開し続けるんですよ。まるでバーサーカーか何かじゃないですか。「リアルの私ならこっちを選ぶのに~」程度の強みしかない優しいイケメンが勝てるような相手なんでしょうか。

 いや、考えなければ。甘く優しい世界を勝ち取るためにも、優しいイケメンが勝利し、俺様イケメンが敗北するような恋愛モノを考えなければならない。

 まず、俺様イケメンと優しいイケメンをそれぞれの特性に応じて素直に動かすと、こんなストーリーになる。俺様イケメンは持ち前のイベント生産力でぽこじゃかイベントを起こし、ヒロインの穏やかな日常を大いに乱す。日常をグチャグチャにされてメンタルがやられたヒロインは俺様イケメンから逃げ出し、優しいイケメンの下へ向かい癒してもらう。そして穏やかな日常を取り戻しメンタルが回復した所で、再び俺様イケメンがイベントを携えてやって来る。もはや様式美すら感じるくらいよく見る形だ。しかしこの形は優しいイケメンEDを迎える事は出来ない。基本的にストーリーを俺様イケメンが牽引しており、「俺様イケメンとヒロインのストーリー」になってしまっているからだ。例えば「勇者が魔王を倒すストーリー」において、いざ魔王にとどめを刺すぞという段階になり、勇者パーティーの一員である僧侶が突然躍り出て魔王にとどめを刺し、後日談が僧侶の視点で語られるとなったらまるで意味不明だろう。「俺様イケメンとヒロインのストーリー」で優しいイケメンEDに持ち込む事は、これくらい意味不明な話になってしまう可能性があるため、結局また俺様イケメンはヒロイン争奪戦に勝利するのである。

他の勝ち筋を考えよう。最強のバーサーカー相手にちょっと強い人が勝つにはどうすればいいか……強さを逆に利用してしまう、バフやデバフを駆使する、地の利を利用する、闇討ちなど、色々な方法があるだろう。

 俺様イケメンの強さを逆に利用するには、どうすればいいのか。散々述べてきたように、俺様イケメンの強さの根源は、実質二人分という極めて高いイベント生産力である。イベントを起こせば起こす程裏目に出てヒロインからの好感度が下がる、というのがまず思い付く方法だが、これだと恋愛モノにおいて読者及び視聴者を楽しませるはずの各種イベントが、ことごとくストレス展開になってしまう可能性があるのでかなりの悪手である。

 次にバフやデバフの使用である。実質二人分の力を持つため勝てないというのなら、力を二つに分けてしまい、どちらかを優しいイケメンにくっつけてしまえばいい。これでバフとデバフが合わさって最強に見える……訳ではない。前述の通り、俺様イケメンのイベント生産力を構成する要素は「対立と和解を繰り返す」「強引にストーリーを展開させる」の二つに分かれる。しかしこれらは優しいイケメンにくっつける事が極めて難しい要素である。基本的にヒロインに親切に接していたら対立はあまり起こらず和解も出来ないし、強引さが見えた時点で「優しい」という要素はかなり薄れてしまう。仮にこの状況で勝利を収めたとしても、そのイケメンはもはや「優しいイケメン」ではないため、「優しいイケメンが勝った」とは決して言えないだろう。

 続いて地の利を利用する方法であるが、恋愛モノにおける地の利って何だろう。舞台設定もあるだろうが、もっとも勝敗を大きく左右するのはヒロインのキャラであろう。かつて男性向けでも、暴力的なヒロインが流行した時代があった。しかし現在であまり主流でないのは、現代の男性向けで主流の主人公像と相性が悪いからである。リアル男性の草食化やコンプライアンスの問題などによって、かつての男性向けの作品で多く見られた、スケベでクズな主人公が少しずつ消えて行った。それに伴い、主人公の無法への制裁という形で機能していたヒロインの暴力は行き場を無くし、やがてほとんど何もしていない主人公に理由なき暴力を振るうというヘイトを集めがちなキャラとなり、段々と主流でなくなっていった。同じ事が女性向けでも起こせるのではないだろうか。相性の悪いヒロインをぶつけて俺様イケメンにヘイトを集め、読者及び視聴者の支持を優しいイケメンに集める方法である。しかしこの俺様イケメン、スケベ主人公という鍵に対する鍵穴のようだった暴力ヒロインに比べて、結構柔軟性があるのだ。強気だったり正義感が強かったりで、俺様イケメンと衝突するタイプのヒロインなら、対立と和解を繰り返して仲を深めるパターンに持ち込める。逆に大人しかったりマイペースだったりと、俺様イケメンと衝突しないタイプのヒロインなら、強引さを発揮してストーリーを展開させる事が出来る。変形までするのかこのバーサーカーは。いっそちょっと大声を出されただけでも泣き出すような気弱なヒロインにしてしまうという手もあるが、ヒロインが怯え涙を流す姿を延々見せられるというのは、読者及び視聴者の心情的にかなりよろしくないだろう。後これ、結局気弱ヒロインが成長して俺様イケメンを克服し、二人が結ばれて終わるストーリーだと思う。

 なお闇討ちだが、これを恋愛モノに落とし込もうとすると、どうしてもNTRのような形になってしまう。優しいイケメンのする事ではないので論外である。

 こうなれば最終手段だ。恋愛モノにおいて特定のキャラを勝たせたい場合、実は必勝法がある。「ヒロインの運命の相手が、物語開始時には既に決まっている」というストーリーだ。ヒロインには、現在の容姿すら分からないものの既に心に決めた相手がおり、俺様イケメンにも優しいイケメンにもなびかない。そしてイケメン達がギリギリまでヒロイン争奪戦を繰り広げた後、ある真実が明らかになる。それはヒロインの運命の相手が、実は優しいイケメンだった……という展開だ。優しいイケメンをどのように運命の相手に仕立て上げるかだが、それには色々な方法がある。過去に何らかの約束をしていただとか、ネット社会の現代においては、顔と本名を伏せて親密なやり取りをしていたというストーリーもアリだろう。しかしこの必勝法、後出しジャンケン感が凄まじい。また、俺様イケメンがここでもイベント生産力を遺憾なく発揮していた場合、ちょっと厄介な事になってくる。ストーリー中の現在時点のリアルにおいて、ヒロインと顔を突き合わせ様々なイベントを乗り越えて来たのは、俺様イケメンの方になってしまうのだ。ここで運命の相手の方(優しいイケメン)を選ぶヒロインは、非常に読者及び視聴者の心情的に良くない。現在のリアルな生の体験より、過去の約束やネット上でのやり取りを優先する事になってしまうからである。相当上手く料理しない限り、極めて支持されにくい展開だろう。

 必勝法をもってしても勝てないとは、もはや選手不在による不戦敗を狙うしかないのだろうか。確かにそれなら光明が見えるかもしれない。基本的にヒロインと優しいイケメンの一対一の構図にしてしまうのだ。そういう構造下なら、俺様イケメンも賑やかしくらいには混ざれるかもしれない。ヒロインと優しいイケメンが穏やかな日常を送りながら徐々に距離を詰めていき、ちょっとダレてきたら俺様イケメンを投入して場を乱すのだ。俺様イケメンの強引ささえあれば、優しいイケメンでも嫉妬したり怒ったりするような事態が生まれるだろう。しかしそれはあくまで一時の事で、イベントが一段落すればすぐまたヒロインと優しいイケメンの一対一の構図に戻る。これならば勝ちが見出せそうだが、「ここまでしないと勝てないんかい!」という残念な思いがしなくもない。もしかしたら、バーサーカー相手にちょっと強いだけの人が勝つには、ここまで策を講じないとといけないのかもしれないが。

 ちなみに、「フィールドを変えてしまう」というもはや反則な方法もある。強力な武器と防具を持ったバーサーカーが怖いなら、いっそ料理対決やカラオケ対決を挑んでしまおうといった斜め上の方法だ。要するに主題を恋愛ではなくしてしまうのである。例えば、過去俺様イケメンに酷い目に遭わされたヒロインが、優しいイケメンと結託して俺様イケメンに復讐を果たし、おまけで優しいイケメンと結ばれるという「ざまぁ」に主題を置いたストーリー。あるいは、俺様イケメンにより自信を奪われ傷付いたヒロインが、優しいイケメンと出会って癒され自信を取り戻していき、最終的に俺様イケメンと相対して縁を切り、再び男性を信じられるようになって優しいイケメンと結ばれるという「人間の再生と成長」に主題を置いたストーリー。しかし前述の例えで考えてみると、「バーサーカーに料理の技術で勝って嬉しいか?」という話だ。出来る事ならバトルで負かしたいというのが本音である。やはりこれでは優しいイケメンが俺様イケメンに勝ったとは言い難い。

 ここまで「俺様イケメンの倒し方」について散々論じてきたが、結局「俺様イケメンは思ったより強い」「まともな方法では倒せない」という事が分かっただけだった。しかし私は屈しない。甘く優しい世界を勝ち取るその日まで。

我ながら、すごく中途半端な終わり方になってしまいました。

どうか、同好の士がこのエッセイを読んでいる事を願います。

そして、俺様イケメンを倒すいい方法(なるべく平和的な方法をお願いします)を一緒に考えて頂ければ……!

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[一言] 俺様イケメンが強いのはもう仕方ない気がします。 書きやすいのもそうなんですがシンプルに面白くしやすいんですよ…… 料理漫画の例を挙げられてましたが、優しいイケメンってこれで例えると健康志向…
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