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目くらまし、あるいは

「こんばんは、殿下。今宵もご機嫌麗しく…」

落ち着いた笑みを浮かべて言葉を返したフィリップの横顔はなぜか少しだけこわばっていて、リアは不思議な思いで二人のやり取りをただ見ていた。

ハーレウス第一王子と初対面のリアは会話どころか顔を見ることすら憚られるため、身体をフィリップの方に向け、うつむいて息を殺すように立っている。

王子から声がかからない限り、いないものとされるのが礼儀であり、実のところそれはリアの希望でもあった。

(できることなら、関わり合いになりたくない…)



「おいフィリップ、昨日も学院で会ったじゃないか。固いよ、その挨拶」

「無理おっしゃらないで下さいよ、殿下」

「ところで、そちらのご令嬢はどなたかい?学院ではお会いしたことがないようだけど」

フィリップは一度きゅっ、と唇を引き締めてから、言葉を紡いだ。

「こちらはバルデス侯爵のご令嬢です。僕の幼馴染で、学院には通っていないので殿下も会われたことはないかと」

「へえ、バルデス侯爵にこんなご令嬢がいらしたとは」



(うげ…こっち見ちゃったよ。見ないでよ。早くどっか行ってよ)

フィリップの視線を受けて、リアは王子に向き直り、内心を押し殺して綺麗に王族への礼をとった。

「お初にお目にかかります、ハーレウス第一王子殿下。バルデス侯爵が娘、アリアンヌでございます」



「どうぞ顔を上げて下さい、アリアンヌ嬢」

声を受けて見上げた王子は相変わらずきらっっきらに微笑んでいた。

「バルデス侯爵家の子息が学院に通わないのはよく知っているよ。それならお見かけしたことがないのも当たり前だね」



(と、とりあえず、無事に済みそう…)

安堵しかけたリアは、王子の次の言葉でがっくりしゃがみこみそうになった。

「アリアンヌ嬢、出会いの記念に、私と踊っていただけますか?」



思わず涙目でフィリップに助けを求めたが、彼は一瞬固い表情をした後、笑顔を作り、リアの手から果実水のグラスをそっと取った。

「殿下のお誘いだ、行っておいで、リア。そして終わったらここへ戻ってくるといいよ、僕は待っているから」

「フィル…?」

「さあ、殿下をお待たせしてはいけないよ」

フィリップの温かい手に背中を押されて、リアが差し出された王子の手を取った、その瞬間。



王子の背後で不穏にざわめいていた『お花畑』が、ざわっ、とうごめいた。



(あ、うわ、『お花畑』が…!)

それまで華々しかったその一団が、あっという間に灰色のいばらの園に変化していく。それだけでなく凍り付くような冷気すら放ち始めたのではないか。

王子に手を取られて大広間の中央へ向かうリアは、彼女たちとすれ違いながらそんな錯覚を覚えた。

絡みつくたくさんの視線で肌がチリチリする。放たれるのは冷気なのに、あっという間に焦げてしまいそうだ。

それだけでない、広間の両端からも強い視線が飛んでくる。噂の二大公爵家か。



(そういえば…殿下って、もしかしてまだ誰とも踊ってなかったんじゃ?)

気づいたリアは、猛然と怒りがわきあがるのを感じた。

(この王子、私を婚約者選びの目くらましに使うつもりだ…!)



既に知っている女性を選べば、考慮の上でその女性を婚約者候補に選んだのだと思われるだろう。

その点、自分ならば初対面のあいさつ代わり、と言えば言い訳が立つ。

(このヤロウ…これだから、腹黒い王族はイヤなのよ!)



気付かれないようにちらりとねめ上げた王子の横顔は、変わらず機嫌の良さそうな笑みを浮かべていた。


お読みいただきまして、ありがとうございました。

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