ハル
リアは知り合ったばかりの青年を近くのカフェに案内した。
大通りから少し離れた通りにあるそのカフェはお茶もお菓子も美味しく、貴族と平民の身分差なく接してくれると評判の店だ。リアも、近くまで来る時は必ず寄っていくお気に入りのカフェである。
クマタンを譲ってくれた青年はハルと名乗った。リアより頭一つ背が高く、細身の身体を地味だが小ざっぱりとした服に包んでいる。どこにでもいる平民の青年の出で立ちだ。
茶色の髪に紺色の大きめのベレーを被り、なかなか整った顔立ちに、にこにこと人好きのする笑みを絶やさない。そばかすが散った鼻の上に黒縁の丸いメガネをかけていたが、その奥のびっくりするほど鮮やかな青い瞳が印象的だった。
「なかなか感じのいいカフェだね。お勧めは何かな?」
「飲み物はどれでも美味しいですよ。お菓子は、もし売り切れでなければ・・・」
リアは注文を取りに来た店主に声をかけた。
「おじさん、今日はまだアレある?」
「アレ?ああ、『さかさまりんご』かい?うん、まだあるよ」
「じゃあ、二つお願い!」
「あいよ。しかしリアちゃんもとうとう彼氏連れて来るようになったかー」
「え?や、いやこの人はちがっ」
「はっはっは、照れちゃって可愛いねええ」
店主は勘違いしたまま、注文を取って奥に引っ込んだ。
「おじさんが勘違いしちゃって…うう、すみません…」
「ふふふ、大丈夫、私は気にしてないから。―それより『さかさまりんご』って?」
動じないハルにホッとしたリアは説明を始めた。
この店の名物「さかさまりんご」は、切ったりんごを鍋にぎゅうぎゅうに詰めてオーブンで焼き、その上にパイ生地を乗せてさらに焼く。冷やして落ち着かせてから、ひっくり返して切り分ければりんごぎっしりのおいしい菓子になるのだ。
「なるほど、それは美味しそうだね。あまりこの辺りまで来ることがないから知らなかったよ」
「ハルさんは、ふだんはどちらに?」
「私は王宮勤めなんだよ。まあ、まだ見習いなんだけど」
「え、王宮なんですか!それはお仕事大変ですね…」
「そうでもないよ、なにしろ見習いだし。それより」
ハルが笑みをぐっと深くして言った。
「ねえリア、『さん』付け、やめようか。見たところ年もそんな違わないのに、『さん』付けされても困っちゃうから。あと、敬語もね」
リアはちょっと固まった。
「いや、でも、クマタンを譲って下さった大恩人ですし…」
「ぷふっ、大げさだって。もっと気楽に話をしようよ。いい友達になれそうだし」
「そ、そうですか、ね」
リアはひとつ深呼吸をして、顔を上げた。
「では、――ハル」
ハルはそれは嬉しそうににっこり笑った。
「うん、リア」
間もなくお茶とお菓子がテーブルに届き、楽しい時間が始まった。
お読みいただきましてありがとうございます。
初投稿でなかなか勝手がわからず、まごまごしながら書いています。
なるべくさくさく話を進められるようがんばります!