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ちょっとイライラしたから小説家になろうで適当なヤツの全作品に評価1ptをつけてやったら新しい作品が生まれた

作者: だんぞう

 その日はとてもムカついていた。いや別にその日だから特別に気分が悪かったというわけではなく、日常の中に自分をイラつかせるモノはやたらとたくさん転がっているし、そうやって常日頃イライラ状態にあること自体がさらに自分を苛立たせているのも理解している。もう最初のイライラの理由なんて覚えてないが、その時は自分の内側で急激な成長を遂げつつある精神の茨をどうにかして刈り取る術の模索に没頭していたのだ。

 そんな葛藤とは裏腹に、指は当然のように『小説家になろう』サイトを開いている。仕方ないよな。かつてあれだけ情熱と時間とを捧げたサイトだから。体には一日の中のルーティーンとして、食事を摂るとか歯を磨くとか布団に入るとかそんな行為と同レベルでしみ込んでいる。

 もちろんサイトを開くだけじゃない。書いていた。自分が生きて行く中で出会った喜びも怒りも悲しみも、他の人から見たらちっぽけであろう幸せさえも。自分の人生の全てを踏み台にして文学へと吐き出し、読者の感情を揺り動かせるような作品に昇華できたら……そう考えていたから。

 いつからだろう。『小説家になろう』サイトを開いているのに、指が言葉を綴らなくなったのは。いつからだろう。自分の中から文章でも言葉でさえもなくため息ばかりが出続けるようになったのは。

 自問するまでもない。答えはわかっている。あの日、あの時、あの瞬間からだ。

 自分には熱く、心を込め、一生懸命に書いていた作品があった。寝てない自慢など何の勲章にもなりはしないが、何日も寝ずに書き続けたこともあった。書くのが楽しくて、それだけで良かった……最初のうちは。

 小説を構成する文字数が嵩むにつれ、費やした時間が増えるにつれ、読者の反応が欲しくなっていったのだ。

 自分の作品に込めた想いと、世界の片隅でほとんど注目されることはない作品の現実との、熱量の差。『アクセス解析』に飛べば定期的に読んでくれている人は確実に居るとわかるのに、感想も評価もまるでなし。心躍らせながら書き始めた小説がいつしか、無人島の奥地で自分の暮らす洞がある木の幹に日が沈んだ回数を刻んでいる程度の空しい行為にさえ感じられるようになっていた。

 自分で自分の作品を時々読み返す。最高とは言いきれないまでも、自分ではそれなりに面白いと感じているし、だからこそ発表もしている。なかなかの長さで読み返すだけでも時間がかかるが、そうやってかけた時間が損とは思われないはずと、書き続けてきたがゆえの誇りを持っていた。

 無反応から与えられる虚しささえもエネルギーに替え、さらに執筆にのめり込み、話数を重ねた。感想も評価もないのに定期的に読みに来る読者たちは、この恥ずかしがり屋どもめ、と好意的にとらえる努力だってした。だからこそ初めて評価をもらえたことに気付いたあの瞬間は、宝くじに当たったかのように全身の毛穴が開いたのだ。

 その評価は、『文章評価』『ストーリー評価』ともに2ptだった。五段階の下から二番目。

 目を閉じ、直前の視界を脳の中で反芻する。

 『2』って『5』に似てるよな。ちょっと逆さにして鏡に移せば瓜二つだし。見間違えだよな多分……恐る恐る瞼を開く。

 2pt。

 その数字は厳然とそこに居座っていた。ああ、これはいけない。今、この超常現象に向き合えるだけの心の体力は自分にはない。気持ちを仕切り直すために何か飲んで来ようと立ち上がった時、情けなくも腰が床へと落ちた。膝の力が抜けるということが、単なる文学的な表現ではなく実際に起こり得る現象なのだと初めて知ることが出来たのは、不幸中の幸いかもしれない……これが精いっぱいの、自分にできた受け止めだった。

 そもそも自己評価でも満点はさすがにおこがましいとは思っていた。それでも4pt、いやせめて平均の3ptは当然、そのくらいには自分の作品を信じていたし、愛していた。それだけの気持ちも技術も労力も、何より長く続けてきたという時空への足跡が、自分の作品を支えていた。

 しかし、評価は2pt。そんな点数は自分の中では落第点だ。

 やっぱり見間違えたのかも……再び画面を見ようとしたが、手に力が入らない。その日はそのまま、何もかも見なかったことにして布団に潜り込んだ。


 カーテンを閉め忘れていたせいか、朝に起こされた。

 窓から入り込んできた光は自分の顔までやってきて、朝の到来をくどいくらいに告げるのだ。さすがに眩しさに寝てられなくなり、起きようとはするが、体に力が入らない。なんでこんなに疲れて……ここで思い出す。昨日の衝撃的な事件を。ずっとずっと待ち望んでいた読者の反応に、自分の作品を否定された鬱々たる想いを。

 まずはトイレへ行き、それから手を洗い、顔を洗い、歯を磨きながら、新しく始まった今日という日へ気持ちも新しくリセットしようとする。あの評価は……評価だけだった。感想なしの評価だけ。何がどのようにダメだったのか、どこをどうすれば良いのか、手がかりはまるでなく、単に『君の作品はダメだよ』と言い渡されただけ。その作品にあれだけかけた情熱が、時間が、推敲の繰り返しが、全て無駄なものだったんじゃないかと打ちひしがれる。

 自分の作品のみならず、そんな作品を書く自分が、そんな作品に満足していた自分が、そんな作品程度しか作れない自分自身が、ダメ人間なのだと全否定された気分に呑まれていった。

 だから断筆した。

 求められていない作品を書き続けられるほどタフでも無神経でもなかったから。


 書くのをやめたのに、それでも気付けば『小説家になろう』サイトを開いている自分を、一日のうちに何度も発見してしまう日々。

 開いては、絶望を思い出し、閉じる。その繰り返し。よくもこんなに何回もマゾヒスティックな行為へ自身を駆り立てるものだと自分でも呆れはした。だが裏を返せば、あれだけの想いと時間とを結晶させた作品が置いてある場所だから、心が自然と吸い寄せられるのも仕方ないのかもしれない。

 引かれた後ろ髪が何度も絶望のループへと自分を巻き込んでゆく。何度も砕かれた心は修復される前に壊され崩され続け、いびつな状態で固まってゆく。あの評価は正当なものではなく、悪意から点けられたもの……そんな歪んだカサブタが重なり、もしも自分の心のカタチが物理的に見えたとしたら、執筆三昧で自分なりの美しさに輝いていたはずの心は、怒りと憎しみの溶岩に覆いつくされ、かつての面影など消え失せるくらいに荒れたモノに映っただろう。

 フランケンシュタイン博士の怪物のように、醜く変わり果てた姿となった自分の心は、その醜悪さを覆い隠すために憎悪の衣を纏っていた。

 何もかも、あの評価が悪い。自分の作品を応援する気持ちがあれば、あえての辛口評価にちゃんと感想を添えてくれるはず。それがないのであれば嫌がらせの一手段でしかない。作品批評に見せかけて、作者を否定する通り魔的犯行。読みテロリスト。否定された作者の心情を想像しながら悦に入る狂人。ネットの向こうの被害者に対して口角を上げながらこんなことを言うんだ。『お前はクソ駄作しか書けないクソ人間だ。俺はクソを出す側だが、お前は出されたクソそのものだ。両者の間には高くて越えられない壁がある。クソ人間がどんなにあがいてもせいぜいピチョンとお釣りを返すのがやっと。だがそのささやかな攻撃もウォシュレットという文明の利器で瞬時にして無効化できる。俺は永遠にお前のようなクソ人間よりも上位の存在であり続ける偉い存在なのだ』とか、誰も居ない部屋で独り言を言いながら見下してやがるんだ。悔しい。ふざけるな。自分だってクソをひねるぞ。クソを出す側の人間だ。最近はずっと便秘知らずだし……待て待て。落ち着け、自分。想像の仮想敵の言動も、そいつへの反論も、なんだかおかしな方向に堕ちていっている気がする。

 何一つ生産的でない時間を浪費した自分は、クソマンと名付けた仮想敵対者の設定を膨らますことにも疲れ、とうとう本気で『小説家になろう』から離れようと決めた。書くことだけでなく、サイトを開くことさえもやめようとしたのだ。

 あのイライラにまみれた日は、そんなタイミングでの一日だった。


 そして自分は深呼吸をして、うっかり開いてしまった『小説家になろう』サイトから本気で決別しようと、まずはサイトを閉じた……つもりだった……はずなのに……自分の深層心理が何に動揺したのか、何に作用したのか、それとも苛付いた指が震えたのか、とにかく次に表示された画面は『小説家になろう』のトップページそのものだったのだ。

 運命、なのか?

 自分に再び書けと、天が言っているのか?

 いっそクソマンの物語でも書いてやろうか……フッと自虐混じりのため息が出る。その時だった。『更新された連載小説』という文字が目に飛び込んできたのは。かつて自分が毎日のように執筆に取り組み、頻繁に作品名を載せていたであろう場所。そこにたまたまあった作品が、自分の作品をそこから追い出した諸悪の根源のように感じられてしまった。その作品のタイトルが、今時の流行を追いかけようとしているのか少し長くて説明的だったことも、自分の中の嫌悪を刺激したかもしれない。

『Twitterのアンケート機能でゲームブックした物語』

 その連載小説に目を通し、2秒で呆れた。

 まず、こいつバカじゃないのと思ったのは、連載小説って通常は一話、二話、三話と話数を重ねてゆくものなのに、こいつは一話をどうやら毎週書き足し書き足ししているみたいなのだ。小説の書き方を知らないのか? それに、文章の途中で改行が入っているところもあり、実に気持ち悪い。基本的な字下げすら出来ていないし。なんだこいつ……『だんぞう』とか言うやつ。素人にもほどがある。

 あー、そうか。Twitterで連載している物語をそのままコピペしているのか。Twitterの原型を留めようとしているのか? でも転載するなら読み易くするものだろ? 読者のこと考えていないのか? 自分だったら読者のことをちゃんと考えるのに……。

 『だんぞう』のTwitterも確認してみる。マイページにTwitterサイトを載せてやがるから探すまでもない……おいおい、Twitterアカウントとなろうアカウントは違う名前なのかよ。読者が混乱するじゃないか。なんかコイツ最悪だな。しかもTwitter側のタグは『#Twitterのアンケート機能でゲームブックする企画』とか、物語のタイトルと違うじゃないか。わざと変えているのか?

 で? 何ツイートかかけて一話書いたら、その最後にアンケート機能で選択肢を用意して、一週間待ってその結果で次の物語の方向が決まる、と。ありきたりの企画だな。他でも似たようなの見た気もするし。だいたい一週間ってなんだよ。週刊誌連載作家気取りか? お前ごときの山場もない物語なんぞ、そんな間空いたら忘れてまうわ! しかもアンケート結果のパーセンテージ、妙に似たような数字が目につくなと思ったら、アンケートに答えてんのほとんどが三人だけじゃないか。ダッサい。よくこんなんで企画続けてるな。もしかしたら自作自演か? Twitterとなろうのアカウント名違うくらいだから、複垢慣れしてるだろうし、三人のうち少なくとも二人は本人だろ。そんでもう一人は母親とかで……。

 その物語は半年続いている風だったが、自分の作品に比べて文字数も掲載期間も更新頻度も劣っている上、自作自演と気付いてからは面白みを欠片も感じなくなったし、そもそも小説としての体をなしてないし、酷いものだ……自分の作品ではなく、この作品こそが真の2ptだろう……そんな気持ちで作品の評価を見て驚愕した。

 文章評価4pt、ストーリー評価3pt。

 この作品が? この自作自演の、凡庸なアイディアと無駄に長く続いている、しかも長いと言っても自分の作品以下の、小説のルールも守れていないような駄小説が?

 自分の中に熱いものが滾るのを感じる。

 わかった。こいつ、この評価も自作自演だろ。なろうアカウントも複垢だろう。きっとそうに違いない……だとしたら、この横暴を許してはいけない。さっきは真の2ptとか思ったけれど、既についている過大評価の偽装点数を考慮に入れたら2ptでも高いくらいだ。

「文章評価は1pt、ストーリー評価も1pt。どうだっ!」

 ネットの向こうの『だんぞう』と名乗るバカ野郎の作品へ正当なる裁きを下し、心にわずかばかりの平穏を取り戻した直後、自分は再びショックを受けたのだ。なんとこの『だんぞう』は、作品数をやたらアップしているのだ。全49作品? おそらくこのクオリティ。きっとたいしたことのない企画で、多分どれも自作自演で評価を付けているのだろう。

 こんなことが許されていいのか? 真面目に文章に取り組んできた作品を2ptで否定されている自分がいる一方で、こいつはのうのうと高評価でのさばっているのだ。

 偽りの評価を正さなければならない。自分の中の抑えきれない衝動のまま『だんぞう』の全作品に1pt評価をつけてやった。内容なぞ読んでいない。読む必要も価値もない。自分の時間はこいつの作品を読む時間などに割くためにあるのではない。

 不思議な高揚感と充足感とに包まれて、その夜は久しぶりに熟睡できた。


 翌朝、正義の使徒としての気持ちを失わずに目覚めた自分は、まず『だんぞう』のマイページを見に行った。自作自演の不正がバレてさぞや焦っているだろう。ボロを出して活動報告なんかに愚痴ったりして、そこへ複垢でまた慰めの言葉とか付けてやがったりして。お前のやってることなんて全てお見通しなんだよ……意気揚々と眺めてみたが、何の反応もなかった。

 ああ、あれか、あの時の自分のように、低評価の嵐に直面して茫然自失としているのか。そうに違いない。

 少しだけモヤモヤは残ったが、その日もそれなりに気持ちよく眠ることが出来た。


 その翌日。『だんぞう』はまだ無反応だった。さらに翌日も、そのまた翌日も……ああ、逃げたか。バレたのが怖くて、書きかけの作品を完成させることもなく逃亡したのか……と思ったのもつかの間、『だんぞう』は作品を更新しやがった。あの問題作『Twitterのアンケート機能でゲームブックした物語』をだ。

 もしかしてこいつ評価をまだ見てないのか? 自分は毎日見ていたぞ? いやいやいや、騙されちゃダメだ。これはきっと効いてないフリだ。実際には正義のボディブローはやつの芯をとらえていて、じわじわと効いているはずなんだ。自分のつけた評価は正義の1ptなのだから。いいか『だんぞう』! 前が嘆き謝るその日まで、自分は観察をやめないッ!


 数日間観察し続けた。だが『だんぞう』は相変わらず評価に気付いていないかのように装い続けていた。Twitterは更新しているのに、なろうは見ないとか、こいつ本当の執筆者じゃないな。物書きの情熱を全く感じられない……へぇ。社畜なんだ。その仕事忙しいアピールは、なろうを見ていないという伏線なのか、それとも忙しいのに毎週更新は続けていますみたいなショボい頑張ってます的カッコつけか。なんにせよ、そんなツイートをしたところで自分の正義の目は誤魔化せないということを、この『だんぞう』はわかっていない。やっぱりバカなんだな。

 バカに付き合うのは疲れる。こいつに付き合うのもだんだんとバカらしくなってきた……ヤバい。こいつのバカが伝染しかけているのか? 冗談じゃない。とりあえずTwitterだけチェックして、お前のなろうのページは訪れてもやんないからなっ!


 さらに一週間が経過してから、動きがあった。

 『だんぞう』が、ようやく正義のオール1に気付いたようなのだ。あはは、慌ててやがる。悪戯かとか、恨みを買ったのかとかツイート連投。違う違う。正義の鉄槌だよ。お前の自作自演を暴いたんだよ。ふんふん。アクセス解析に一週間は足跡ないから一週間以上前のことだって? 本当は気付いてたんだろ? イイネ欲しさにツイート内容にインパクト出したくてわざわざ一週間以上待ったんだろ? なんだ今度のツイートはモチベーションが下がっただって? 自作自演のクセによく言うよ。

 『だんぞう』のツイートは深夜に幾つも続いた。そのツイートからは悲しみを伝えようという役作りをも感じた。こいつフォロワーけっこういるけれど、どこまで自作自演なんだ? そのうち、自分で自分に可哀想だとかイイネとか反応して独りで盛り上がるんだろ? なあ……自作自演なんだろ? 自分は騙されないからな……。

 その夜は、自分が2ptをつけられた時のことを思い出して、ささくれだった気分のまま、なかなか寝付けなかった。


 翌日の昼、『だんぞう』はあっさりと『#Twitterのアンケート機能でゲームブックする企画』を更新した。ほんの12時間くらい前は書けないかもしれない的なことをツイートしていたのに。そうか、1ptが堪えてないんだ。本気じゃないから、低評価をつけられたことを無視できないとか口だけで、心の中ではせせら笑っていやがるんだ。やっぱり自作自演だな。確定だ。その証拠にツイートしてすぐ、アンケートに一人が反応したし。

 Twitterのアンケート機能は、誰が回答したかわからないシステムだ。その隙をついた悪事……本当に小狡いことばかり思いつきやがる。

 イイネを一回しか押せないことを嘆くツイートはたまに見るが、今の自分は1ptを一回しか付けられないことを嘆いている。かといって複垢を作って1pt評価を量産しようものなら、この自作自演野郎と同じ穴のムジナになってしまうからな、そんなこと自分はしない。自分は『だんぞう』とは違うのだから。


 さらにその晩、『だんぞう』は一本の短編をアップした。しかもその作品は、自分のつけた正義の1pt評価をネタにして書かれていた。『低評価を付けた者』の気持ちを、妄想で捏造して好き勝手に書いていやがる。ああ、違う違う。そんな浅はかな理由じゃないんだよ。なんだそれ。自作自演野郎のセコイ脳みそじゃ、自分の正義の真意へは到達さえもできないってのに……やめろ! 自分はそんなんじゃない。そんなつもりで1ptつけたんじゃない! あり得ない葛藤でさもそれっぽく代弁するなよ!

 その代弁という単語にひっかかって、かつて自分の中に生まれたクソマンというキャラクターを思い出してしまう。いやいやいやいやいや。違う。自分は違う。この自作自演野郎とは根本的に違うから……そう……だってこいつは……書いていて……自分は断筆していて……ふいに涙がこぼれた。

 何で自分は書いてないのだろう。ここのところずっと『だんぞう』を見張ることに時間をかけて……その時間があれば、こいつの何倍も多くの文章を書けたのに。

 正義を振りかざした心の裁判所は砂上の楼閣に過ぎなかった。文学は正義ではなく表現だ。書かれない文章は、文学の水子霊だ。ああもう、断筆はやめる。こいつよりも多くの作品を書いて、こいつの作品を霞ませて、文学界そのもののレベルを底上げしてやる。それが自分に課せられた真の使命なのだ。

 その想いが自分の中に確かにあると感じたとき、使命が駆逐したのかイライラはどこかに消えていた。

 なんだかんだあったけれど、この『だんぞう』はひょっとしたら、自分がそのことに気づけるようにと天から遣わされた……なんて考えるのも悔しいな。とりあえず、こいつの最新作『ちょっとイライラしたから小説家になろうで適当なヤツの全作品に評価1ptをつけてやったら新しい作品が生まれた』には、感謝の1ptをつけてやる。いいか、正義の1ptではないぞ。感謝の1ptだ。お前はこの1ptを嘆くのではなく、感謝すべきなのだ。

 0ptと1ptとの間にはな、無機物と有機物くらいの大きな隔たりがあるのだ。お、この表現は悪くない。新作に使おう。




(終)


ある日、自分の全作品にオール1評価を付けられました。実話です。そのことに気付いたのは、この作品を書いた前日のことです。正直ショックでした。感想もなく評価だけ、しかもそこそこの作品数あるのに全作品になので、悪戯かなとも思いました。

だけどそうやって、自分に不都合なことを悪意由来と切り捨ててしまったら、今後、真剣に1ptを付けてくれた人の気持ちを汲むことができないとも思い直し、せっかくのこの非日常をネタにしない手はないと、短編に昇華してみることにしました。

1ptをつけまくってくれた人(達かもしれないけれど)に、今では本当に感謝しています。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ☆1評価を昇華した点。 [気になる点] 最後まで読んだが、ただイライラを吐き出しただけで、何も起きなかった。正直がっかり感が否めず、読んだ時間を返してほしいと思った。 どうせなら、小説界…
2024/02/07 09:43 しょうもない人間
[良い点] 主人公が気づかない内に怪物になって行った事を、斬新な視点で見れた点。 物凄いホラー味ありました。オチも含めて完成度高いなって思って読ませて頂きました。 [気になる点] 「だんぞう」って作者…
[良い点] 笑いました。 だんぞうさまの作品を初めて読ませていただいたのですが、マイページを拝見したら、『だんぞう』さま、ご本人ではないですか! ますます笑いました。 笑ったけれど、共感します。切ない…
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