第4話
目が覚めた。
スーツの男に襲われてから二、三時間は眠っていた気がする。身体が重たい。
まだ頭の中は混乱状態で目まぐるしく切り替わる状況を飲み込みきれずにいた。誰かに連絡を取ろうとするがスマートフォンはなかった。
時間の経過と共に少しばかりの冷静さを取り戻すと周りを見渡した。
ここはさっきまでいた施設ではないことが分かる。
どこかマンションの一室に運び込まれたらしい。
施設とは違いテレビもエアコンもない殺風景な部屋だ。
やっと体の痺れが解けてきた。手足を動かしてみる。なんの目的で僕を施設から誘拐したのか。僕は治験の被害者ではないのか。誰が治験の失敗で死者がでたことを隠蔽しようとしているのか。いろいろなことが頭の中に浮かんでは消えていく。
そんなことを1人でしていると男の声がした。
「やっと目覚めたようだね。」
声の先に目線を飛ばすとそこにはあのスーツの男が立っていた。
なにが目的だ。僕はスーツの男を睨みつける。
男はゆっくりと僕の方に歩いてきて話し始めた。
「これからする私の話は信じられないだろうが聞いてほしい。ニュースで見たかもしれないがあの施設で治験を受けた者は全員死んだ。君を除いて全員だ。なぜ君だけが生き残ったかわかるかい?」
もちろんそんなことは知らない。質問をしたいのは僕の方だった。だがしかしこの状況で暴れたところでまた男はスタンガンを取り出すに違いない。先ほどの部分がまだ痛む。とりあえず男の話を聞くことにした。
「僕があの治験を受けた中で最年少で1番免疫力があるから」
もっともらしい答えだが、男は首を縦には振らない。男はジェルでをテカテカになった髪をかきあげてこう言った。
「君がその薬に耐性を持っていたからだ。」
僕に答えさせておいて、それを完全に無視し話し続ける男に僕は苛立ちを覚えた。
耐性とはその薬に適応する力というものらしい
「僕の体だけが腸内細菌を増やすための薬に耐性を持っていたということですか?」
即座に男に聞き返す。そういうことなら他の治験を受けた人たちには悪いが僕は神に感謝することになるだろう。しかし男から帰ってきた答えは想定外のものだった。
「本当に腸内細菌を増やす薬で死者が出るほどの副作用が出ると思うか?君が飲まされたのは遺伝子操作薬。強制的に進化を促す薬だ。」