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アザーサイド: OTHERSIDE  作者: 杉山 皐鵡
第12章 ヴァンパイア・ハンター
83/107

scene 7 宿敵(1)


夜警は、この国で司法警察ひいては政府の裏組織として暗躍してきた。

そんな夜警にも一時期、分裂の危機が訪れたことがある。


その原因をつくったのは、夜警の鬼門と異名をとった道尊(どうそん)卿を冠する(うしとら)家であった。

土御門院(つちみかどいん)(たつみ)家が跡取不足のため六芒院の職を退いていた1960年代、急進派の道尊院は、この夜警中枢機関である六芒院において権勢をふるった。


その頃、吸血鬼(欠番)への圧政を強めた政府への反感が高まり、吸血鬼原理主義組織カウントの前身である《非人間解放同盟》が、俄かに活動が活発化させていた。

この事態に霊泉(れいぜえ)卿率いる強硬派も、急進派へ加わり徹底交戦の構えを見せた。


その後、70年代に入るとラミアが秘密裏に赤ん坊の(みお)を巽家の跡取りとして差し出し、当主となった澪の後見として巽の庶家(しょか)(かじ)家(のちの光徳院)による復権が許された。

穏健派であり安倍晴明直系の名家である土御門院巽家が六芒院に戻ったことで

道尊院の権勢は次第に薄らいでいった。


1980年代、道尊院は、《欠番》根絶を目論む急進派、強硬派をまとめ上げ、再び六芒院に巨大派閥を形成した。

しかしその台頭を食い止めたのは、意外にも強硬派の急先鋒で道尊卿の盟友とも言うべき霊泉卿だった。


強硬派の離反により六芒院を追われた道尊卿は、裏夜警(うらやけい)なる秘密結社を結成することと相成ったのだが、

当の夜警ですら今日(こんにち)まで、その全貌を把握することはできていなかった。


「道尊卿がヴァンパイアハンターの主宰って事ですかね、闇サイトを使ってネット民に対し《欠番》の印象操作を行なっていた、ネット民はお往々にして、思考が偏りがちですからねぇ」

夜警特殊部隊の指揮車内で隊長の嘉納が、全権である柊俊郎へ話しかけた。


「さあな、どっちでもいいよ、吸血鬼だろうが、人間だろうが、民衆の敵は我々の手で叩くのみだ」

柊は感情を混じえず至って淡白に答えた。


「道尊卿が、何故いまになって──」

嘉納は怪訝な表情でモニターへ目を落とし、ため息をついた。


「お(かみ)が、京に戻られた今だからこそだろう、ラミアやエンプーサは何と言っても全人類を守るため、日本の朝敵となることも厭わなかった、その姿勢は、お上も知るところだ、そんな時に“ヴァンパイア狩り”をやれば、今度は道尊が朝敵となりかねない」


「──お(かみ)の居ぬ間に鬼が出るわけですか」

嘉納はニヤりと苦笑した。


「吸血鬼に、悪魔、鬼まで出て来やがって、百鬼夜行のオンパレードだよ── ったく陰陽師は楽できねぇな」

柊は虚空を眺めながら鼻息を漏らした。


「目的地へ到着しました」

指揮車の運転席から、隊員の声が響いた。

「総員戦闘配置」

インカムへの嘉納のひと声で、隊員たちが一斉に車から降りた。


「屋敷の周囲に、ぐるっと結界張らせといて」

そう言いながら柊はリアゲートを開けると、嘉納を一人車内へ残し指揮車を降りた。


「道尊は逃げない」

そう呟くと、

柊は高い塀に囲まれた、巨大な屋敷を睨みつけた。


「はうっ」

塀に沿って結界を張っていた特殊部隊の隊員の1人が声を漏らした。


「気をしっかり持て、鬼にされるぞ」


そう叫んだ柊の視線の先で、隊員の体は引っ張りあげられるように宙へと舞い上がった。

黒いカラスの群れがそこに飛びかかる。


陽が完全に落ちた空には、黒雲が渦を巻いて蔓延っていた。


「おのれ、道尊」


口々に呪文を唱えながら、右往左往する隊員たちの眼前に立ちはだかる白漆喰の塀には、360度どこにも門が見当たらない。


「目に頼るな」

特殊部隊の最後列で、柊は目を閉じて尚も叫びつづけた。


隊員たちは1人また1人と闇に呑み込まれるように姿消してゆく。


柊は先祖伝来の宝刀「鬼切」を鞘から抜きはなった。


「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前──」

九字護身法を唱えながら、柊は唇に当てた左手に印を結び、右手で《鬼切》の切っ先を時計と反対回りにくるりと回転させた。


その途端、突風が起こり、渦を巻き、風圧のみで漆喰塀の一部を突き崩した。


数十名の特殊部隊員たちが、塀の倒壊箇所から敷地内へとなだれ込むように侵入していった。


「柊さん聴こえてますか、モニターから隊員の生態反応が全て消えました、柊さんもです、こちらから、そちらの位置が補足出来ません」

イヤホンから聴こえてくる、指揮車の嘉納の声が遠のいていた。


柊が目を開けると確かにあたりに指揮車も含めて車の姿は一切消えていた、しかし目の前には相変わらず(うしとら)の屋敷がある。


「あちゃー、マズイな、仮想空間(ゾーン)に呑まれたか──油断した」

柊は顔を歪ませて、顎の無精髭を撫で回した。


「まいっか」


「こちらからも、襲撃をかけてみますか?」

と言う嘉納の声の背後に、ヘリコプターのローダー音が響いていた。


「いや、屋敷にこれ以上誰も近づかせるな、お前らは待機していろ道尊の標的は、たぶん私だ──」


柊は《鬼切》で空中に十文字(じゅうもんじ)を描きながら、崩れ落ちた塀から敷地内へと足を踏み入れて行った。



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