表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アザーサイド: OTHERSIDE  作者: 杉山 皐鵡
第11章 ギガントマキア
70/107

scene 5 機鋼巨神 アーガイオン


「ヘカトンケイレスは、このいちばん大きい《アーガイオン》、2番目に大きい《ギューエス》、いちばん小さいのが《コットス》、この三体からなる、結局、彼らは《ギガントマキア》には参加しなかったが、彼らのゼウスへの忠誠心は揺るぎないものじゃった、その意を示すため彼ら黙してゼウスに封印されたのじゃと聞く、さぞかし無念じゃったじゃろうて、ヘカトンケイルとは《百本の腕》と言う意味じゃ、《百手五十頭》の巨人と言われておる」


ユタは、まじまじと巨神像を見つめながら言った。


「《百手五十頭》って、普通の人型しているけどね──」と夏菜子はキョロキョロと辺りを見渡した。

「──三体目の《コットス》がいない」


「《百手五十頭》とは、百本の腕があるように強く、五十個の頭があるように賢いと言う意味じゃ」


ユタの説明をあまり聴かず、夏菜子は《コットス》を見つけ出した。


《コットス》像はいちばん奥で床へ座りこみ頬杖をついていた。

坐像なので高さは5m程の高さしかない。立ち上がったとしても15mほどであろう。

「ああ、コイツ可愛い、頬杖ついてイジケ虫じゃん、私コイツにする──」

夏菜子は飛び上がってコットス像の頭を撫でた。

「──コットスちゃん、元気出しなさいよ」


「“コイツにする”って夏菜子、1人一体貰えるわけじゃないんだぜ」


紅林が笑ってそれを見ていると、

突然コットスの目が輝きだした。


「うわ、光った」

と夏菜子。


その声を聞きつけて晴が、上から戻って来た。


「夏菜子、そいつから離れろ」

と叫ぶ晴。


「え、何?」

と困惑する夏菜子の身体をまるでスキャンでもするように、赤い光は何度か空中を往復した。


「夏菜子、」

と叫ぶ紅林の目の前で、

赤い光に包まれた夏菜子の体は、その光りが消えると共に消えた。


「どう言う事だハル、夏菜子はどこに行った」


取り乱す紅林を、ユタが優しく諭した。


「まあ、落ち着くのじゃイフリート、夏菜子の命の輝きは失われてはおらぬ、目に頼るな、しっかりと心で存在を感じるのじゃ──」


ユタの言葉を受けて、紅林は目を閉じた。


「大丈夫だよ、クレ、コットスが“他のヘカトンケイルにも魂を融合させてくれ”って言ってる」

夏菜子の思念が、紅林の頭の中に響いた。


「ハル、いまの聞こえたか?」


と紅林は、宙に浮いたままの晴を見た。


「ああ、俺はアーガイオンと融合する」

晴は早速アーガイオンの頭を撫でに昇って行った。


「じゃあ、俺はギューエスか、ギュエス……なんか、名前がダサいんだよな」


紅林はブツブツ文句を言いながら、飛び上がってギューエスの頭へと近づいた。

他の巨神とちがって、ギューエスの頭にだけ立派な(ツノ)が生えていた。


「牛かよ」と紅林は顔を歪ませながらも、その頭を撫でて、

「ギューエス」とその名を呼んだ。

すると間も無く、ギューエスの目が赤く輝き始めた。



一方、ユタが地上で見守る中、コットス像の全身がみるみるうちに金属化していった。


「こ、これは《機鋼(ミカノキニート)巨神(ギガンタ)》、まさか、動くと言うのか──」


ユタがそう口走ると、全身ブルーメタリック色に変わったコットスがゆっくりと立ち上がった。


「ちょっと二人共、モタモタすんなって、うちの“コットスちゃん”がもうシャンバラの座標を割り出しちゃってるよ」


夏菜子の思念が、晴と紅林へ飛んだ。


「こっちは、もうOK」

紅林がそう答えると、ギューエスの身体もガンメタリック色に金属化した。


「あと、ハルだけだよ、どうよ?」

夏菜子の声に晴は答えない。


アーガイオンの身体は未だ石像のままだった。


アーガイオンの体内へと入った晴は、

暗闇の中にふわりと浮かんでいた。

「我が名はアーガイオン──」

彼の目の前に男性の幽体が浮かび上がった。

「──そなたの魂は実に複雑怪奇、ライストリューゴン王としての魂、エルキュールとしての魂、そなたの中の魂がまだ融合しておらぬ──」


「俺は俺だ、(たつみ)(はる)だ」



「それには、同意しかねる」



「面倒くせー奴だな、俺が、俺だって言ってんのに同意できねぇって、どう言う事だよ」


「そなたが、そなた自身の運命(さだめ)に同意しておらからだ」



「訳がわからねぇ事言いやがって、俺の運命(さだめ)ってなんだよ」



火防紋(かぼうあや)の死、ラミアの死、母の死、そなたは気づいておるはずだ(おびただ)しい数の屍を乗り越えて、生きてゆく覚悟、それが神族としてのそなたの運命(さだめ)……そして、父アンティパテースを自らの手で葬ること───」



アーガイオンの声はそこで止んだ。


次の瞬間、晴はアーガイオン像の前でうずくまっていた。


「──クソッ、クソッ」

(ほこり)にまみれた床へ拳を打ちつける晴の目からボロボロと涙が零れた。


「俺が選んだんじゃない、こんな運命、誰ひとり救えないなんて……」



「ハル、どうした、なんで追い出されてんの?」

夏菜子の声が飛んで来た。


「畜生、」

床へ伏して立ち上がれない晴に、ユタが歩み寄った。


「──救世主よ、《真の救い》とは生によるものだけとは限らない、死を受け入れて尚、人は誰かを愛し続ける、今も誰かが、そなたを愛しているとは感じぬのか?」


ユタの言葉に、晴は顔を上げた。


「───ハル、」

ふと、(あや)の声が聞こえた。

「───どこに居ても私はハルと一緒にいるからね」


晴は、アーガイオンを見上げて立ち上がった。


「モン、あの時は言えなかったけど、俺だってずっとお前と一緒にいる、みんな俺の中にいる、俺の中にも宇宙があるから──」


そして再び、アーガイオンの瞳は輝き始めた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ