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アザーサイド: OTHERSIDE  作者: 杉山 皐鵡
第1章 監視者たち
6/107

scene 2 境内


新宿。

小高いビルとビルとの狭間に鎮座する花園神社の社殿の前で、手を合わせる柊俊郎の姿があった。

踵を返し境内の階段を一段一段ゆっくりと降りる彼のもとに、部下の倉木が駆け寄って来た。

「自分なりに調べてみたっす、八王子の、道了堂跡の遺体の事っすけど、」

倉木はポケットから缶コーヒー取り出して柊に手渡した。


「ふん」

柊は気のない返事で、缶コーヒーを受け取ると階段の隅っこに座り込んでしまった。


「あの……」

倉木は、構わず話し続けた。

「人間のDNAって言うのはそもそも、日光を浴びると傷つくって知ってます?」


「知ってる、ニュークレオタイドの話か」と柊。


倉木は興奮気味に、柊の肩へ寄りかかった。


「そ、そうっす、その、ヌ、ヌクレオチドが変異してって話です、日本人はそのヌクレオチドが何らかの原因で修復されない、いわゆる色素性乾皮症を発症する率が高いって話なんすけど、でも太陽に当たって皮膚ガンになるならまだしも、あの(被)害者みたいに全身が灰になるなんて、相当何かが欠乏してるって事ですよね、それで他の遺伝性疾患についても調べてみたんですけどね……、ある日本人が書いた医学論文に特異9番染色体症候群ていう聞き慣れない症例を発見しまして……、色素劣性遺伝に関して、9番染色体は関係あるんで、気になって更に調べたら、急に情報がブロックされて“欠番”扱いになってるってんです、医大の教授にも確認したんですけど、“そんな症例は聞いたことがない”って……」


二人は、鳥居の天辺にとまったカラスが、カァカァ鳴いているのを揃って眺めた。


「それで、その特異染色体論文の出所は……」と柊は、カラスを見ながらポツリと言った。


「かなり古い日付だったと思うんすけど、一瞬で画面消えちゃったんで……

でも確か、()(ぼう)なんとか、火防って名字は変わってたんで覚えてます」


倉木はクイクイ首を傾げながら、

更に続けた。


「俺、さっき、実は課長室の前で、あのお客さんと、(ひい)さんが言い合いしてんの少し聞いちゃって……」


その時、鳥居にとまっていたカラスが、何処へともなく飛び去って行った。


「何か気になることでもあった……」

柊はチラリと倉木の顔を見た。

「すみません、」

倉木は神妙な顔で何度も頭を下げると、

「“夜警”ってなんすか、“欠番”ってなんすか、あと……、“ラミア”って、なんなんすか?」矢継ぎ早に尋ねた。


「お前な、大体全部聞いてんな……ちょっと、腕出してみい」

柊はそう言って、倉木の腕をとり彼のYシャツの袖を捲ると、手首から15cm程度の地点に3回“シッペ”を施した。


「痛っ……、」

倉木は声をつまらせた。


「俺の“シッペ”は全警察でいちばん痛いって伝説あんだよ」

柊は、そう呟いて、ニヤリと笑った。


倉木は、素早く腕をさすりながら缶を当てて冷やした。


「命が惜しかったら、このまま帰れ、

死んでも知りたかったら、この後俺に付き合え、……お前が選べ」


そう言って、倉木を見つめた柊の眼には、いつもの人を食ったような笑みが微塵もなかった。


まもなくして、花園神社の石段に腰掛けた二人の目の前を、

シルバーのロールスロイスが、横切って行った。






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