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アザーサイド: OTHERSIDE  作者: 杉山 皐鵡
第7章 秘密
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scene 4 秘密の扉

火防(かぼう)恒隆(つねたか)から、

余命いくばくもない娘 (あや)のため、その血液をわけて欲しいと懇願された(たつみ)(はる)

二つ返事で、“はい、分かりました”と快諾しようとしたその矢先、

「ちょっと待った」とお邪魔虫。

一体全体、その声の主や如何に。






「ちょっと待った!」


晴へ土下座する火防恒隆を見下ろすかように、椅子の上で足を組んでいたのは、

ラミアだった。


「わ、オバケ……」

と椅子ごとひっくり返った巽晴を、

VTRの逆再生よろしく念力で起き上がらせて、ラミアは話の続きを始めた。


(わらわ)何故(なにゆえ)生き返ったかと言う話は後にして、先ずは晴の血液について話しておかねばなるまい」


「ハルくんは、ライストリューゴンとエンプーサ両神族の血を引く、類い稀な血統の御子息です、その血液は……」

と割り込む恒隆の口にチャックをかけて、ラミアはまた話し始めた。


「アヤに必要なのは純粋な《アルタキエー》じゃ、誤ってハルの血なんぞ入れてしまったら、アヤは忽ち死んでしまうであろう、無知な小僧っ子どもが俄か考えでアヤを殺してしまう前に間に合って良かった」


と言ってラミアは、恒隆のお口チャックの術を解いた。


「……その《アルタキエー》と言うのは、どこにあるのですか?」

と恒隆。


「純粋な《アルタキエー》があるのは異世界だ、《カウント》の本当の狙いもそこにある、(わらわ)と姉を人間に殺害させ、我等姉妹が日本中に張り巡らせていた結界を解いた、それは奴らへの呪縛が解かれたのと同時に、この国で異世界へと通じる扉を探す絶好の機会を得たということにもなる」

ラミアはそう言うと腹部を抑えて苦しそうに唸った。


「玲さん、大丈夫っすか?」

と晴はラミアの体へ触れようとしたが、その身は実体ではなかった。

魂だけがここに居る。いわゆる幽体離脱した状態だった。


「なぜ《カウント》が《アルタキエー》を探す必要が、餌となる人間がこれほど世界中にいるのに、」

と恒隆。


「《アルタキエー》によって、得られる“力”は、人の生き血のそれを凌ぐ……それに、“人類を根絶”するという選択肢も生まれる、」


ラミアは息を詰まらせながら、

苦しそうに話しを続けた。

「体は澪ちゃんが、治してくれたんだが、魂は中々、元に戻らん、

どうやら、(わらわ)にも《アルタキエー》が必要なようだ、ハル、ちょっと異世界まで行って(わらわ)の分も“ついで”に取って来てくれぬか」


依然、苦悶の表情を浮かべるラミア。

晴は彼女の力が弱まっているのを感じた。


「お安い御用です、」


と意味も分からず晴は胸を張った。

そんな彼を見て、ラミアは鼻で笑った。


「決して、“お安い御用”ではないぞ小僧、(わらわ)の申す“異世界”とは、この世界と隣り合った幾つもの“時空連続体”のことを指す、“扉”とは即ちそれらの時空の一部が接合する地点即ち、“特異点”のことじゃ、“扉”を見つけ(くぐ)れたにしても、混沌(カオス)の中へと投げ出されるかも知れん、運が良くても、どの時空連続体へ飛ばされるかは分からぬ、行って“帰ってくる”ことは容易な事ではない」


それだけ言って、ラミアの姿はまるで映像機器の電源が落ちたように、突然消えた。


晴はもう一度、紋の部屋へと戻った。

繁田さんはもう居なかったが、

簡易的な照明だけは、まだところどころ

灯っていた。


晴はガラスの向こう側を見つめていた。

紋はベッドの中で布団にくるまっている。

晴はふと自分の手にある《ラモスの指輪》に視線を落とした。

「俺は、必ずモンを、火防(かぼう)(あや)を救う、」

本当であれば《指輪》へ紋の助命を申し入れて、《指輪》を彼女へ託すのが最善の方法だろう。

しかしそれをすれば、自分もあのラモスのように犬か何かの獣に変えられてしまう。

“結局自分が可愛いのか”願い事を口にしたことで、晴は自己嫌悪に陥ってしまった。


「また来るよ」と晴はそっとガラスに触れた。


「おやすみなさいハル、どこに居ても私はハルと一緒にいるからね」


壁のスピーカーから微かに紋の声が聞こえた。

“寝言かも知れない”、話しかけたい気持ちを抑えて、

「おやすみ」と一言だけ、

晴は顔を上げて、紋の部屋を出た。







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