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アザーサイド: OTHERSIDE  作者: 杉山 皐鵡
序章 鬼火
3/107

scene 3 “夜警”


警視庁へ戻った(ひいらぎ)俊郎(としろう)係長(かかりちょう)が声を掛けて来た。


課長(かちょう)がお呼びだ、“お客さん”が来てるらしい」


オフィスから廊下へ出た柊に、今度は若手刑事(わかてけいじ)倉木(くらき)が近寄って来た。

柊は倉木をあからさまに無視して課長室へ急いだ。


「なんで逃げんすか、(ひいらぎ)さん」

倉木は(くちびる)(とが)らせた。

「急いでっから……」

柊がそう言うのも聞かず、倉木は矢継(やつ)(ばや)に質問を投げかけた。

「ヒトひとり殺されたのに、なんであんな早々に帳場(ちょうば)(捜査本部)(たた)むんすか?」


「“ヒト”?」

柊は鼻で笑った。


「公安が出て来て事件(資料)全部持ってかれて、俺、納得出来ないっすよ……、班長(はんちょう)なんとか言って下さいよ」


柊は、そんな倉木の甲高い声に耳を塞ぎ、堪らず立ち止まった。

「うるせーよ、おめぇは記者か」


「だって、何にも知らされないんすよ、何にもすよ」


「知りたきゃてめぇで調べろ、おめぇは刑事だろ、朝んなってあの遺体はどうなった……」


柊の叱咤(しったに、倉木が言葉を失った。


「ハイ、は、灰…に…、」


倉木はボソボソ言いながら、迷子のように廊下を右往左往、やがて方向を見失った。

そしてすぐに「ダメだ」と天井を(おあ)ぎ見た。


柊が課長室のドアを2回ノックすると、

(ひい)さん、早く入って」

捜査一課長が自らドアを開け、柊を迎え入れた。


既に室内の応接(おうせつ)ソファには、見慣れない男がひとり座っていた。


「公安部の佐藤(さとう)です」

と名乗った男は、立ち上がって柊に握手を求めた。

「柊さんのお噂は、予々」

と佐藤は続けた。


「俺は、アンタ知らないけど」

と柊は嫌味(いやみ)に笑って見せて、握手を(こば)んだ。

「へへへ」と笑う佐藤の顔を眺めながら、その向かい側のソファに深々と腰掛けた柊は、

須賀(すが)だろ、その笑い方、顔変えたのか」

と言い放った。


「いや、(ひい)様には(かな)わんすね」

と佐藤はまたひどく笑った。


捜査一課長は、とっくに姿を(くら)ませていて、室内には柊とその佐藤と名乗る須賀の2人きりになっていた。


「先ずは“鬼火(おにび)”の件、ご報告有難うございます」

と深々と頭を下げた須賀の顔から笑顔が消えた。


「そんな、おべんちゃらいいからよ……

何の用なんだよ」

柊は不機嫌そうにタバコを(くわ)えた。


「今回の件は……というか、今回の件もラミアの仕業(しわざ)であることは明白でして……、“夜警(やけい)”としてはラミアを排除(はいじょ)する方向で……」

と須賀が言いかけると、

柊は咥えていたタバコを吹き飛ばした。


「何で、そうなるんだよ、お前ら……」


「だから……」


「ラミアは人じゃなく欠番(けつばん)を食ってる今回だって“鬼火”が出た、夜警にとっちゃ都合がいいじゃねぇか……欠番を一匹でも減らしたいんだろ」


「だから、そこです、(ひい)さん聞いて下さい、ラミアがいくら欠番を(おそ)っていても、奴ら減ってないんですよ、むしろラミア一派に敵対する連中が増えてる」


須賀は、床に落ちたタバコを拾いあげ、柊との間を隔てるテーブルの上へ置いた。

「あん?」

柊はソファに片足あげたまま固まった。


「ラミアとコンタクトとってもらえませんか?」

と須賀、柊は石のように固まって動かない。

「奴が、どんなに強大な力を持っていようが薬を飲まない欠番である以上、太陽の下へ引きずり出せば、我々にだって勝機はある、これ以上この国で騒ぎを起こさせる訳にはいかない」


須賀は血走った目で、柊を見つめた。


「俺も、昔はそんな目をしてたのかな……」

柊は、テーブルの上のタバコを取って、再び咥えた。


「お願いします」

須賀は、立ち上がって頭を下げた。


「俺はもう、夜警(やけい)を辞めた身だ、巻き込むなよ」

柊は、どこか悲痛(ひつう)な表情を浮かべ、タバコに火をつけた。


「じゃあ戻って下さい、夜警内部でも強硬派(きょうこうは)の声が日増しに大きくなってる、このままヴァチカンも介入(かいにゅう)する事態にもなれば、奴らと全面戦争に……」

須賀は(うつむ)いたまま、小声で言った。


「若さに(かこつ)けて、滅多なこと言うもんじゃねぇよ、安心しろそうはならねぇ」


柊は鋭い眼光のままで、煙を吐き捨ててニヤリと笑って見せた。


















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