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【コミック&書籍発売中!!】奴隷に鍛えられる異世界生活【2800万pv突破!】  作者: 路地裏の茶屋
第五章:スタンピード編【蜘蛛の女王と恩師から託されたもの】
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第九十六話:懸賞金、約二万円の男

 ヤケクソになったように酒を飲むライノスさんだったが、色々気をまわしてくれたようで、周囲の冒険者に箝口令をしいて僕等がこの場所にいることは秘密にしたようだ。


 こう言ってはなんだが、どこかから漏れてしまうのではないだろうかと思ったが、ライノスさんやレノさんが言うには情報が漏れるのを前提として動いているので大丈夫と言われた。

 細かなことはわからないが、一応すぐに出発できるように準備はしておけと言われたので、食料を始め旅に必要なものを奥のテントの中でアイテムボックスに補充中だ。


「旦那様、準備はできたべか?」


「準備っても、必要なものはファスとトアが準備してくれたしなぁ。唯一荷物と言える手甲もこの有様だし」


 手に持ったカースモンキーの手甲はほとんど原型を留めておらず、修復も不可能な状態だった。

 お気に入りだったので悲しい。


「新しい手甲が必要ですね。アラクネの死体があれば良い装備が作れそうだったのですが、恐らくは勇者に横取りされてしまったでしょう」


「だろうね、ちぇ、フクちゃんが頑張ったのにね」


 ファスが申し訳なさそうにそう言い、叶さんがゴチる。ファスは『息吹』によってこうなったことに責任を感じているようだ。

 励まそうとすると、フクちゃんがひょいとファスの後ろから顔を出した。


「アラクネ? 糸なら作れるよ?」


 そう言う。そういやフクちゃんは魔王種のアラクネの糸が出せるらしい。

 ……それってもしかしてとんでもない素材なんじゃなかろうか?

 その辺もおいおい考えないとな。

 とにかく、持って行くものなんてほとんどない僕なので準備をファスとトアに任せていると、レノさんがカーテンを開けてテントに入ってくる。

 ライノスさんはさっき酔いつぶれて、叶さんに治療され自己嫌悪に陥り、自分のテントに引きこもっている。

 別に気にしなくていいと思うんだけどなぁ。


「よう、準備は進んでるか。聖女様に客だ」


「へっ?」


 首を捻る叶さん。そしてレノさんの後ろから、にこやかな笑顔のバルさんが現れる。

 ……表情は笑顔だが、背中に般若が見える。


「やはりここでしたか聖女様……」


「バ、バルさん!? どうしてここが!! ぶ、無事で良かったよ」


 説明しよう(誰にだ)叶さんは移動用の魔法陣からこっそり抜け出して、僕等の元に移動しているのだ。

 その際にバルさんは置いて行かれている。


「えぇ、無事でしたよ。転移先に魔物が待ち受けており、勇者様とマガネ様が誰よりも早く逃げ出した後、死ぬ気で戦いましたからね。そう言った意味では聖女様が転移をしなかったのは良かったのです。その後連絡の一つもないことを除けばですが……正直この場所にいるかどうかは勘といいますか、賭けに近かったですがなんとかお会いできて良かったです」


 静かに切れてる……。叶さんがこっちをみるが、これは叶さんが悪いと思う。

 というかバルさんが怖いので、必要がないはずの準備をしている振りをする。


「ファス、えーと、あれ無かったっけ」


「え、あ、あぁご主人様。確かこの辺に……」


「オラ、ちょっと燻製の様子を見てくるだ」


「ちょ、皆それはずるくない!?」


「どしたの?」


 フクちゃんが首を捻る。フクちゃんよ、君はそのままでいてくれ。僕等はずるい人間だ。

 そんな僕等の様子をみてバルさんは溜め息をついた。


「はぁ、皆さん。大丈夫ですよ。この場で聖女様を注意することなんてしませんから。それよりも何があったのか教えてください。教会へは聖女様が魔物との戦いで傷付いて治療を受けていると聞いています。大まかな話はレノ殿から聞きましたがな」


「レノさんと知り合いなのですか?」


 一応この場所にいることは秘密だし、教会の人間のバルさんがここまでスムーズにこの場所に来たことに疑問がある。


「会うのは初めてだが、ギルマスから話は聞いていてな。この前ヨシイ達が受けたワイト討伐の依頼からギルマスがコンタクトをかけていたんだ」


「聖女様がいずれヨシイ殿の元へ行くだろうと思っていたので渡りに船でした」


 どうやらナノウさんが裏でバルさんと連絡をとっていたらしい。

 まったく知らなかった。


「うぅ、スパイだよ」


「おかげで情報が集まったんだ。ヨシイお前等お尋ねものだぞ」


 あぁやっぱりか……。とりあえず僕等が森で経験したことを(説明が上手なファスに話してもらっている)話すと、バルさんはカルドウスについて容姿や喋っていたことについて何度か質問しそれ以外の部分は先を促すように静かに聞いていた。


「……というわけです」


「ふむ、概ね予想通りですな。では今度は私が見聞きしたことを話しましょう。すでに冒険者ギルドは知っているでしょうが……」


 そこからはバルさんの話を途中で合流したライノスさんや他の幾人かのパーティーのリーダー達と聞いた。

 バルさんは初めに懐から紙を取り出して広げた。

 

「賞金首のリストだな。ヨシイ シンヤ 転移者を騙る東方民族。詐欺師。さらに勇者の成果をかすめ取ろうとした。フン、絵にかいたような小悪党になってるな」


「ちなみに懸賞額っていくらですか?」


「白銀貨2枚だ。一晩の飲み代にもならん」


「やっす!!」


 日本円にして大体二万円の賞金だった。いや別に高くしてほしいわけじゃないが。


「カナエを誘拐したという罪はないのですか?」


「それについては、聖女様は魔物との戦いで負傷しているため軍で保護している、と教会へは伝わっています。大問題ですが、行方不明ということが教会にばれればより多くの貴族や軍の関係者の首がとぶでしょう。その場しのぎに時間を作って連れ戻すつもりでしょうな。下手に冒険者やバウンティハンターなどに目を付けられ聖女様のことが明るみに出るのを避けるために賞金額が低いのでしょう。そもそもなぜ賞金がかかったのかという疑問はありますが……」


「そりゃ犯罪者は行動が制限されるからな。いくら額が安いとは言っても検問は通れなくなるし、行動に制限を掛けたかったんだろう。後は、単なる嫌がらせかもな。まぁその辺はライノスが詳しいか?」


 レノさんがライノスさんを見てニヤリと笑う。何かあるのか?


「馬鹿野郎、俺はもう放免だ」


「その言い方だと、ライノスは昔賞金首だったんだべか?」


「昔の話だ。聖騎士を辞める時にな……」


 興味はあるが、ライノスさんはそのことについて話す気はないようだ。

 その後、他の転移者のことや教会の動きを簡単に説明したバルさんが叶さんを見つめ、仕切り直すように咳をしてから口を開いた。


「まったく。こうなれば、計画を早める必要があります。聖女様は一旦、教会へ戻ってもらいます。正式に転移者の一団を作った発表をしていただきます」


「転移者の女の子達のパーティーを教会の騎士団にするって話だよね?」


「ええ、すでに大司教様に許可はいただいております。ラッチモの件は予想以上に大きな切り札になりました」


「えーと、話が見えないんですけど」


 なんか知らない所で何か動き出すらしい。叶さんが僕を見てなんでもないように説明を始める。


「えっと、ほら、前に貴族から逃げだした女の子達を教会で保護してるっていったじゃない。それなのに教会の中にも転移者を取り込もうとする動きがあったんだよね。だからそんな問題から私達を守るために、いっそ私達で集まって自由に動いちゃおうってバルさんが作戦を立ててくれたんだよね」


「名目としては『世の荒廃を見た聖女による世直しと、魔物から人々を守るためのダンジョン攻略』としています、そのために女神様より遣わされた聖なる戦士である転移者達、しかも少女たちで作られた部隊を作るということです。教会としても信者を獲得するためにこれ以上ない見世物になるでしょうし。女神の加護を持つ聖女様たっての希望とあれば話を通すのは()()()()問題ではありませんでした。……まぁ、いささか乱暴な手段も使いましたが。彼女達が神聖な存在となればなるほど「女」として転移者達を利用しづらくなるというのが一番の理由です。そうするように女神様より天啓があったとでも聖女様が発表すれば、教会が表立って協力をつっぱねるということはなくなるでしょう」


「うんうん、そこを拠点にすれば私も動きやすいし真也君といる時間も増やせるかなぁって思って。こっそり頑張ってた()()()()()はほとんど終わっているから、自分の身を守れる子も大分増えたしね」


「ハハっ、えげつない坊さんもいたもんだ」


 レノさんが引いていた。バルさんはラッチモの件があって色々吹っ切れてしまっているようだ。

 というわけで、叶さんはこれから教会にいる他の転移者の元へ行って転移者の一団を世間に発表するようだ。


「また別行動だね。次会った時はもっと一緒にいれると思うから」


 叶さんは手を握ってブンブンと振った。なんていうか本当に強い女性だよな。


「えっと、気を付けて、あー、後は……」


「後は?」


 叶さんが首を傾げる。


「待ってるよ。次あったらもっとのんびり皆で話でもしよう」


「うん、待っててね」


 笑みを浮かべそう言って叶さんは出ていった。ついて行くバルさんにライノスさんが紙を渡す。


「これは?」


「ナノウ婆さんの連絡網と、おそらく次に坊主達が向かう場所だ」


 その紙を見たバルさんが悪い笑みを浮かべる。


「なるほど、そういうことですか」


「そういうことだ」


 ライノスさんも笑っている。悪い大人って感じだ。

 バルさんが出て行ったのを見届けて、ライノスさんが僕等に向き直る。


「さて、お前らの今後のことを話すぞ。婆さんからの連絡が届いた。お前らはある町へ行ってもらう」


「お尋ねものですからね。その町ってのはどこですか?」


 バルさんとの感じからして嫌な予感しかしないけど、もう好きにしてくれって感じだ。


「お前らが行く場所は、大陸一の歓楽街にして砂漠の地中街『グランドマロ』だ。そこでA級冒険者になってこい!」 


 ライノスさんはそう言って、僕の頭を乱暴に撫でた。

投稿遅れてすみません。

というわけで、次回から新たな舞台です。歓楽街、闘技場、ダンジョン攻略、新たなギルド!!

そんな展開が吉井君を待っています。が、その前に勇者こと宙野 翔太君の閑話が入ります(入らないかも)。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 叶さんとの再会に期待! 結構好きなキャラでした。 臆病で卑怯者な勇者(笑)は早く死んで。
[一言] マジで功績かすめ取ったのか……ギルドや教会はヨシイ君達のほうが勇者より活躍したこと知っているわけで、どういうメンタルしてたらこんなことできるんだ アラクネさんの見立てではデーモンの魔王の手…
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