第八十五話:陥落
駆け付けた魔物の群れには何人かの冒険者がついているが、草食恐竜のような巨大な牛の魔物の後ろから弓を放つ女性冒険者のアンデッドに苦戦していた。
「ちくしょう、アイツら、全然突っ込んでこないぞ」
「【威圧】しても防御の陣形が崩れないんだ。どうにかして切り崩せっ!」
突っ込まずジリジリと距離を詰めながら、戦線を押していく魔物に苦戦しているようだ。
走る速度を落とさず、歩数を調整し【ふんばり】からのブチかましを魔物の群れに叩きこんだ。
「ブモォモオオオオオ」
巨体が宙を舞い一体の魔物が隣の魔物へ、そしてその衝撃は止まらずさらにその隣へと玉突き事故のように四体の魔物が倒れた。
「いまですっ!」
唖然としている冒険者達に檄を飛ばすと、冒険者達はすぐに我に返り魔物を踏み越え後衛に切り込む。
この場はこれで大丈夫だ。
すぐに走り出して、他の場所へ行き魔物達に対して遊撃を試みる。
【手刀】や投石まで駆使してやたらめったらに魔物を倒しまくり、一息ついたところでファス達と合流した。ファスやトアも二人で何十もの魔物を倒している。
「ハァ、ハァ、何体いるんだ」
「大丈夫ですかご主人様、水筒です。飲んでください」
「旦那様は走りすぎだべ、一人で戦線を維持しているようなもんだべな」
いや、氷の壁を張って魔物を足止めしたり、【飛斧】で後衛を刻みまくっている二人の方がはるかに貢献してると思う。
僕は走るしか能がないからな。
ファスから渡された水筒の水を飲みながら周囲を見渡すと、まだまだ魔物はいるようだが、僕等が頑張ったのと、休憩していた冒険者達が戦線に投入されかなり押し返したようだ。
「おう、坊主。頑張ってるな」
そう言いながら、全身血まみれになったライノスさんがパーティーの皆さんとやってきた。
ちらっと見ていたが、アホみたいな量の魔物を一手に引き受けていたのにもう倒してきたのか。
「ライノスさん達ほどじゃないですよ」
「ガッハッハ、よく言うぜ、すでにお前ら噂が広まっているぞ、冒険者ギルドには人の形をしたオーガがいて、そいつの後ろには馬鹿げた魔術を使う魔女がいるってな」
「むっ、オラの噂は無いだべか。もっと頑張るべ」
トアが対抗心を燃やしていた。
ファスに比べれば、地味だが必要な場所に的確に援護を出すのは素直に凄いんだけどなぁ。
「トアも十分頑張っているよ、それで戦況はどうなってるんですか?」
「この場所は大丈夫だが、中央の軍の方はかんばしくないな。魔物の波状攻撃とアンデッドの冒険者にかなり押し込まれているらしい。……アンデッドのことなんだが……」
ライノスさんが言い淀み、後ろのレノさんやラリーさんもこちらを見る。
「……ギースさんは僕が止めました」
「そうか……ギースは、俺の弟分はどんな最後だった?」
「笑っていました。最後の瞬間に何も言うことなく、笑って逝きました」
微かに息を吐きライノスさんは空を見上げ、すぐに視線を僕に戻した。
この人も泣かないんだな。
「礼を言う。アイツは本望だったと思う」
「……はい、ギースさんは胸におかしな珠が埋め込まれていました。そして自分達をああいう状態にした存在がいることを教えてくれました。森に魔王種がいるとも言っています」
この情報はすぐに伝えたかった。ギースさんの話はあとでゆっくりしよう。
「魔王種だと! クッソ、なんだってそんな化け物がこんなタイミングでいやがる。そんで、そいつ以外にもヤバい存在がいるってことか。嫌になるぜ」
「ライノス、魔王種がいるなら戦力はまとめた方がいい。今は戦線が伸びきっている。中央が抜かれれば完全に俺達は孤立する。今からでも、冒険者をまとめて中央に集まるべきだ」
レノさんがライノスさんに提案する。他のメンバーも同じ意見のようだ。
昨日までユニークモンスターという想定外はあるものの、基本的には殲滅戦だった為戦線を広げていたのが仇となっているようだ。
「わかっている。すでに中央へ連絡は行っているはずだ。態勢を整えてさっさと中央へ行くぞ。坊主、殿は任せた」
「了解です」
「さらっと言われましたが、危険な役目ですね。それより……あっちも気になります」
ファスがちらりと森の方向を見据えている。確か魔王種がいるとギースさんは言っていた。
「フクちゃんは大丈夫かな?」
「わかりません、ですが森から強大な魔力を感じます。きっと今まで隠れていたのでしょう……」
「心配だ。そっちへ行きたいが……」
「いえ、ご主人様。フクちゃんなら大丈夫です。私達は私達のできることをしましょう」
「もし、フクちゃんになんかあったら奴隷紋を通じて旦那様に伝わるべ」
トアが自分の奴隷紋がある右腕をトントンと叩く。確かにフクちゃんが森の辺りにいる感覚を感じる。
心の中で歯噛みしながら、ライノスさんの指示でまとまりつつある冒険者達の殿につく。
頑張れフクちゃん。危なくなったらすぐに逃げてくるんだぞ。
それぞれの冒険者達はまとまり、魔物の群れを倒しながら集まっている。
軍隊のような規則だっている印象はなく、無茶苦茶な動線だがそれでも少しずつまとまっているのが驚きだ。
「すごいな、どうやってこんなにまとまった動きができるんだ?」
【威圧】で、ゴブリンとオーガの一団を引き付けながら疑問を口に出す。
僕なんて今自分がどこにいるかわからないってのに。ライノスさんの大声や角笛の合図だけでここまで集団として動けるのは驚きだ。
結果バラバラだった冒険者達は百人近く集まっていた。
「冒険者という人種は、ある意味撤退することに長けています。勝ち続けて生き残っているパーティーなんて稀で、大体は失敗を繰り返し経験を積みます。そのためCランクともなれば自然と身を守るための移動が身についているのだと思います」
「なるほどなぁ」
ファスの氷弾やなんかよくわからない複雑な動きをする水流(もしかしてまた新技か?)を横目に見ながら、魔物の攻撃を受け止める。横にいる防御にすぐれた職業の冒険者達と連携しつつ防御に徹していると、後ろの冒険者達が投石や弓、魔術で援護してくれるのですぐに魔物達は倒れていく。
「いいぞルーキー、そのまま頑張れよ、俺達は後ろから援護するぞー」
「というかアイツ、絶対人間じゃないよな。多分オーガとかだぞ」
「さっき、ルーキーを殴ったオークの腕が砕けてたぞ。化物かよ」
「素手で、鎧犀の皮を引き裂いたって聞いたぞ」
「俺もう下がっていいかな。こいつ一人で殿させとこうぜ」
なんか後ろで、ヒソヒソ声が聞こえるけど、余裕があるならポジション代わってくれないかな?
ずっと殿でいい加減疲れてるんだけど。あと隣の重戦士、一人下がろうとすんな。頑張れ。
「大活躍だべな旦那様」
「流石ご主人様です」
「なんか、化物扱いされているけどね」
おかしいなぁ、わりとシリアスな場面のはずなのにどうしてこんな雰囲気になってしまうのか。
なんだか複雑な気持ちになっていると角笛の音がする。確かこの音は……。
「止まれの合図だべな」
「何かあったのか?」
魔物の攻撃は弱まっている様子だが。
トアが耳をピクピクさせて音を拾っている。
「旦那様、よくない知らせだべ」
「どうした?」
「中央砦が落とされたべ」
ギシリと心が軋む音がした。
遅れ気味ですみません。長くなったので続きは明日投稿したいと思います。
次回予告:桜木叶さん主人公よりかっこいい。
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