第八十二話:経験値増加✕経験値共有
そこで一旦ファスは用意されたお茶を飲み、話に区切りがついた。いや、ファスさん暴れすぎじゃない?
「……それで、つい勢い余って砦に群がっていた魔物一群を全滅させたと?」
「いえ、大きなワームやレアモンスターは流石に倒しきれなかったので……」
(ボクガ、ゼンブ、タベタ)
フクちゃんがエッヘンと出てくる。
なるほど、雑魚はファスが倒して残りのレアモンスターはフクちゃんが倒したということか。
というか食べたって、話に出てきたワームってかなり巨大そうだったけど、まぁフクちゃんなら問題なく食べてしまいそうだ。
ツッコミどころが多すぎて、なんと言っていいかわからない僕の横でライノスさんは考え込んでいる。
「竜の魔術か……話を聞くに嬢ちゃんに影響を与えているようだが、大丈夫か?」
「大丈夫と言いたいところですが、我を忘れそうになったのは間違いありません。でもなぜだかそれほど恐怖を感じてないのも事実です」
(ファス、ダイジョブ、マスター、イル)
「僕?」
「そうですね、ご主人様がいるなら大丈夫だと思います」
いやいや、どうしてそうなるんだ?
「聞くだけ野暮だべな旦那様」
「……心配するだけ馬鹿らしくなってくるな。まぁ竜のことは帰ってから婆さんにでも聞くとして、魔物を倒した後どうやって帰って来たんだ」
「その後砦に戻って叶が上手く誤魔化すと言ってくれたので、こっそり抜けだしてラリーさんと一緒に馬に乗って来たので大丈夫かと思ったのですが……すみません」
ラリーさんはライノスさんのパーティーメンバーで、いつも気だるそうにしている女性の人だ。
砦から帰ったってことはあの人魔術師だったのか。
へまをしたと思っているのか、ファスはしゅんと項垂れている。あまりにも大暴れな話にびっくりはしたけど別に怒っているわけじゃない。
フードの中にファスの瞳に視線を合わせ、笑いかける(慣れてないのでぎこちないと思う)。
「いや、無事に帰って来てくれたのが一番だ。勇者に目を付けられたのは気になるけど、それよりも二人とも頑張ったな、お疲れ様」
「んだ、無事に帰って来たのが一番だべ。今日は一杯ご飯作るだよ」
よしよし、これで一件落着だな。
「いや、お前等。話は終わらないからな。恐らくはその腕輪に討伐数が記録されていたって所だろう。国から栄誉を称えられたってことは、多分貴族か転移者が絡んでいるぞ」
ファスの腕輪を取り外しながらライノスさんが突っ込みを入れてきた。まぁそうだよね。
「すみません。僕等、これからどうすればいいでしょうか?」
実際周りがどうなっているのかわからない。
「とりあえず、これから婆さんに手紙を送る予定だ。その後でギルド本部と連携してなんとかするさ、お前らは今まで通り、冒険者として魔物を倒せばいい。いやこれまで以上に魔物を倒してギルドからの評価を上げちまえ、そうすりゃ貴族も手を出しづらくなるだろうからな。いっそギルドの看板背負うほどになればいいかもな、ガッハッハ」
結局やることはこれまでと変わらないようだ。とは言っても、ファスのことを狙う人は増えてきそうだ。
僕が、強くならないとな。拳を握り決意を新たにする。
「わかりました。もっと強くなります」
「それでいいんだ。子供は子供らしく、面倒は大人に投げりゃいい」
話は終わりだと、ライノスさんに追い出される。テントの前にはラリーさんとレノさんが立っていた。
二人とも笑いながら僕の頭を叩いて、書類を肩に担ぎながらテントに入って行った。
一礼をしてテントを後にする。
「あぁお腹減った」
「私もです。発表を聞いて驚きましたが、今はお腹が減りました」
(ペッコペコ)
「はいはい、すぐにご飯にするだ。オーク肉あるけど、どうすっかなぁ」
「えぇ、オークか正直抵抗あるなぁ」
あのオーク達か……あんまり美味しそうじゃないなぁ。魔物とはいえ人型を食べるのは抵抗あるし。
「ブルマン食べたのに、オークに抵抗あるだか?」
「美味だと聞いたことがあります。楽しみです」
(オニク! オニク!)
そういやブルマン食べてたわ。いやそうなんだけど、オークって人間を食べることもあるだろうし、なんとなく抵抗がある。
フクちゃんはもちろんファスも抵抗はなさそうだ。この世界ではオークは食べることは普通なのか……。
ええい、僕も男だ。この世界で冒険者として生きる以上。なんだって食べてやる!
帰りにトアがスタンピードに集まる露店の一つからいくつか調味料や野菜を買っていた。
テントに戻り、ホッピングゴブリンのことをファスに話しているとすぐに肉が出てきた。
決意を固め、トアが焼いてくれたトンテキのような肉に目をつぶってかぶりつく。
「……ウマっ」
「モグモグ、馬じゃなくて豚ですよ」
(マイウー)
「なるべく質のよいやつを選んだからな。旦那様は赤身が好きだし、いいとこ焼いとくだ。オーク肉は臭味をとるのが腕の見せ所だな」
オーク肉は思ったよりも脂身は少なく、どちらかというと赤身の歯ごたえのある肉質だった。
それでいて旨味を持つ上品な肉汁はニンニクの効いたソースも相まっていくらでも食べれそうだ。
トアは外に用意した調理台の前でおかわり用の肉を木の棒で叩いている。その後細かな切れ目を入れ、醤と酒をかけ、なんか大きい葉っぱでくるんだ肉を石で組んだ竃にどんどん入れていっている。
「スタンピードによってくる商人のおかげで味付けには困らないだよ、ニンニクが手に入ったのはありがたいべ」
「ソースが美味しいですね。流石トアです」
「スープとサラダもあるだよ、明日に備えてタンと食べるだ」
(オニク、オカワリー)
「はいはい、すぐに用意するだ」
トアは鼻唄を歌いながら、また木の棒で肉を叩く作業に戻る。
いやぁ、これは食わず嫌いだったわ。オークって美味しいんだなぁ。
そんなことを考えながら、二枚目のトンテキを食べているとバキッという音がして、見てみるとトアの持つ木の棒が折れていた。
「ありゃ、折れちゃったべ。丈夫そうなやつ買ってたんだけどなぁ」
物を大事にするトアにしては珍しいこともあるもんだ。
「肉叩きなら僕が素手でやるよ。布を間に挟めば大丈夫だろ」
いい加減、トアばかり動くのもどうかと思ってたんだ。
「旦那様は座っているべ、これはオラの仕事だかんな」
「手伝うなら、私が手伝います。そうだこの杖で叩けばいいじゃないですか?」
「いや、ファス。流石に杖で肉を叩くのは他の魔術師が見たら泣くと思うだ。とりあえず、素手でやっとくだ」
断固としてこの手の仕事を譲らないトアに諭され、もう一度座って見ていると、もう一度何かが壊れる音がして今度は肉を乗せていた調理台が崩れていた。トアは茫然と肉を叩いた自分の手を見ている。
「ど、どうなってんだべ!?」
「大丈夫か?」
「完全に壊れていますね、すごい力です」
「いやいや、さっきまで普通に料理できてたべ、こんなの絶対おかしいべ」
(トア、ツヨクナッタ)
フクちゃんが肉とサラダを食べながら念話を飛ばしてくる。
「オークを調理したから、レベルが上がったのか?」
「オーク程度調理したって、そんなレベルは上がらないと思うべ」
「とりあえず確認してみましょう。ご主人様、鑑定紙を出していただけますか?」
ファスに言われるがままにアイテムボックスから鑑定紙を取り出す。
なんだか、久しぶりに取り出した気がするな。
とりあえずトアに当てて、鑑定してみる。
――――――――――――――――――――――――
名前:トア
性別:女性 年齢:19
クラス▼
【料理人LV.48】
スキル▼
【料理人】▼
【解体LV.40】【味覚強化LV.38】【栄養増加LV.45】
【毒耐性Lv.30】【高速調理LV.34】【悪食LV.1】
【片手斧】▼
【飛斧Lv.43】【喰い裂きLv.5】
【黒犬】▼
【腕力強化Lv.35】【嗅覚強化LV.32】【痛覚耐性LV.35】
【獣化Lv.1】
――――――――――――――――――――――――
「はぁああああ!?」
「よ、よんじゅう! この前見た時はえっといくらだっただか!?」
「確か19レベルです。40レベル超えなんてB級冒険者相当です。しかも生産職でこのレベルは異常です」
新しいスキルもあるな【料理人】のスキルで【悪食】、【片手斧】のスキルで【喰い裂き】、【黒犬】のスキルで【獣化】だ。【獣化】はどっかで聞いたことあるな。
「【獣化】のスキルも出てるべ、これって【獣戦士】や才能のある獣人のスキルなはずなんだけんどな、驚きすぎて眩暈がするべ」
「木の棒や調理台が壊れたのは、急にレベルが上がったからか、なんでまたこんな急激に上がったんだ?」
「……ご主人様。すっかり忘れてたのですが、私達には奴隷の誓約である【経験値共有】とご主人様の【経験値増加】がありましたよね?」
「……そういや、そんなんあったな、まさか……」
「今日私、レアモンスターを含める魔物を二百三十体ほど倒してしまったのですが……ついでに言えばフクちゃんも相当数の魔物を倒しています」
つまり、ファスが倒した莫大な魔物の経験値が時間差で反映されたってことか、時間差があった理由はファスと合流したからなのか量が多すぎて反映が遅れたのかわからないが、多分どっちものような気がする。
試しに、腰を落として踏み込み、送り突きを放つ。いつものように放ったはずの突きは空気を叩くほどに鋭く、踏み込んだ地面は抉られていた。
体が驚くほどに軽い、マジかよ。
「ご主人様、今のは新しいスキルですか!?」
「早いべな」
(スゴーイ)
「いや、普通に踏み込んだだけだ……」
恐る恐る鑑定紙を自分に当てる。
――――――――――――――――――――――――
名前:吉井 真也 (よしい しんや)
性別:男性 年齢:16
クラス▼
【拳士LV.61】
【愚道者LV.57】
スキル▼
【拳士】▼
【拳骨LV.55】【掴むLV.60】【ふんばりLV.55】
【呪拳(鈍麻)LV.42】【手刀LV.51】【威圧LV.47】【呪拳(沈黙)Lv.10】
【愚道者】▼
【全武器装備不可LV.100】【耐性経験値増加LV.55】【クラス・スキル経験値増加LV.40】
【吸呪LV.56】【吸傷LV.52】【自己解呪LV.55】【自己快癒LV.60】
【呼吸法LV.43】
――――――――――――――――――――――――
パーティーの皆と一緒に紙をのぞきこむ。
「【拳士】が60レベル超えてるな」
「60レベル超えはもうA級冒険者一歩手前位ですね。【呪拳(沈黙)】が新しいスキルのようです」
「沈黙ってなんだろうな?」
「沈黙の状態異常は一般的にはアクティブスキル全般が使えない状況を指します。【鈍麻】と組み合わせれば相手を封殺することすら可能になりそうです」
なんで僕が覚えるスキルって軒並み地味なんだろうね。いや、かなり強力そうではあるが。
「次はファスを見てみるか、なんか凄いことになってそうだ」
「ドキドキするべ」
「わ、私も緊張してきました」
(ワクワク)
というわけで、ファスを鑑定してみる。
――――――――――――――――――――――――
名前:ファス
性別:女性 年齢:16
クラス▼
【魔術師LV.55】
スキル▼
【魔術師】▼
【精霊眼LV.55】【耐毒LV.48】【耐呪LV.51】
【同時詠唱LV.51】【広域Lv.21】
【竜魔法(黒竜)】▼
【息吹LV.45】【恐怖LV.48】【生命吸収Lv.50】
【闇魔法】▼
【闇衣LV.40】【重力域LV.50】【闇斥LV.1】
【水創生魔法】▼
【魔水喚LV.40】【魔水?LV.38】【魔水?LV.35】
【魔水沼LV.1】【魔水?Lv1】
【氷華】▼
【ホウセンカ(魔氷弾)Lv.53】【アヤメ(魔氷杭)Lv.48】【オウカ(魔氷雨)Lv.49】
【イバラ(魔氷縄)Lv.1】【アジサイ(魔氷毒)Lv.1】【ホオズキLv.1(魔氷牢)】
――――――――――――――――――――――――
「何が何だかわからないな」
なんか色々おかしいぞ。
「ええと、新たに【魔術師】のスキルとして【広域】のスキルが新しくありますね。確かパッシブスキルで魔術の範囲を広げるものだと記憶しています」
「他には【闇斥】なんてのもあるな」
「感覚的に理解できるのですが、衝撃を出して対象を払いのけるような魔術だと思います。【水創生魔法】は多分今日やろうとした魔術の影響で【水魔法】が変化したものですね、中途半端になっているようですが、すぐに使えるようになると思います。【氷魔法】は【氷華】に変わっていますね。これまでに手に入れた魔術が変化しているようです。いままで使ったことのない【氷華】もありますね。さっそく試したいです」
「オラの【喰い裂き】も使ってみたいべ【獣化】も気になるしな」
「僕は普通に体の使い方をまた調整しないとな」
「なら少し離れた場所で、新しいスキルを確認しましょう。私のスキルで周囲から分かりづらくできますから」
「でもその前にご飯だべ、ほら肉も焼けたべな。あれ、フクちゃん?」
すぐに肉に食いつくはずのフクちゃんから返事がない。いつもなら真っ先におかわりを要求するはずだが……。
あたりを見るとフクちゃんはファスを鑑定した後の鑑定紙を自分に当てて、その紙をジッと見つめていた。
どうやら自身を鑑定しているようだ。熱心に紙を見ている。そういえば字も読めるんだよな、フクちゃん……恐ろしい子。
「フクちゃんもかなりレベルアップしたんじゃないか?」
話しかけると、フクちゃんが紙を払いのけ僕を見上げて来た。
(マスター、オネガイ、ガ、アルノ)
「お願い? なんだ?」
(モリヘ、イカセテ)
必死な様子でお願いをしてくるフクちゃんの話を聞くと、どうやらお目当てのアラクネがギースさんが行方不明になった森の付近で発見されているらしい。
国は森の中にアラクネの巣があると考えているという情報をフクちゃんは掴んでいるようだ。
「わかった、明日僕等と一緒に行こう」
(ダメ、ヒトリデ、イク)
一緒に行こうと提案するが、フクちゃんは強く拒否する。レアモンスターや連携してくる魔物もいることだし危ないから一緒に居たいのだが、フクちゃんは譲る気はないようだ。
「ご主人様、勝手なお願いとは思いますがフクちゃんを行かせてあげてください。フクちゃんが今やろうとしていることは、多分ご主人様に見られたくないのです」
「オラも気持ちはわかるべ、びっくりさせたいんだべな」
(オネガイ、マスター)
何をしようとしているかわからないが、こうお願いされると弱い。
仕方ないので、危なくなったらすぐに戻るという約束をして、行かせてあげることにした。
どうせ調査で森の付近へ行く予定だし、何かあったらすぐに助けに行くつもりだ。
「いいかフクちゃん。絶対に無茶しちゃダメだぞ、危ないと思ったらすぐに戻るんだ。いいね?」
(ワカッタ、イッテクル、マッテテネ、マスター)
そう言って、フクちゃんはテントから飛び出した。
えっ!? いまから行くの?
明日出発するものだと思っていた僕は完全に不意を突かれ、フクちゃんはすぐに夜の闇の中に溶けていった。
「多分、スキルが完成に近づいたんでしょうね」
「楽しみだべな~。さて残りの肉を片付けるべ」
女性陣二人は心配する様子もなく、料理と食事を再開しているが、僕としては心配だ。
大丈夫かなぁフクちゃん。
はい、大幅なレベルアップがありました。今後フクちゃんがどうなるのか乞うご期待です。
次回予告:望まぬ師弟対決。
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