第七十九話:二位『勇者』一位『……!?』
ここで問題だ。僕、吉井真也をこの異世界で幾度となく救った技とはなんでしょう?
答えは
「横っ飛びぃいいいい!!」
【ふんばり】からの真横への全力の跳躍、受け身すらままならず無様に転がり砂を噛む。
一瞬前に居た場所へホッピングゴブリンが落下した。
衝撃音ともうもうと上がる土埃、まるで絨毯爆撃のようだ。
多分あの踏みつけ自体がなんらかのスキルなんだろう。
「さて、どうすっかな」
口の中の砂利を吐き出し、立ち上がる。
構えを取る前に、土埃の中からゴブリンが数体直接飛びかかってくる、残り数体がまた高く跳び上がった。
「クッソ!」
足を取られないように、後退しながら相手の爪や噛みつきを拳で迎撃するが、頭上のゴブリンの踏みつけがまた降ってくる。
「旦那様ァ!!【飛斧】」
飛んできた手斧が宙にいるゴブリン達へ切りかかる。ゴブリン達は器用にも空中で向きを変え、ホッピングの足先部分で斧を受ける。
間を空けず、他のゴブリン達も斧をホッピングで蹴りつけ弾く、これが雑技団の演目なら拍手喝采なんだろうけどな。
「お待たせっ【二連空爪】!」
ネルネさんが鉤爪を振って、飛ぶ斬撃を飛ばして地上にいる方のゴブリンに攻撃するが、ホッピングで防ぐ。
だけど、それは隙だぞ。
「応っ!」
気合を入れて、【手刀】を発動した抜き手で一体のゴブリンを打ち抜いた。
ネルネさんが軽やかな動きで僕の横に並び、ステップでリズムを取る。
「ニシシっ、やるねぇヨシイ」
「こいつらも連携を使ってきます。気を付けてください」
宙で斧を弾いたゴブリン達が降りてくるが、トアの妨害にあったためかさっきのような馬鹿げた威力はなく普通に地面に降りただけだった。
「凄い音がしたけんど、大丈夫だべか旦那様」
斧を引き寄せたトアも追いつき。前傾の構えを取る。
「大丈夫だ。ひやっとしたけどな」
「マジでレアモンスターがダースで湧いてんじゃん! あたしらで倒しちゃって、賞金ゲットしちゃおう」
ウッキウキで鉤爪を構えるネルネさん。流石C級冒険者だな。
だけど僕だって負けるつもりはないぞ。
気合を入れなおしたタイミングでまたゴブリン達がスライディングで足を掬おうと突撃してきた。
体捌きで躱そうとすると、僕の前にトアが一歩でる。
そのまま野球の投法のように体を捻り、一気に斧を縦に振りぬいた。
力みなど欠片も感じさせない、流れるような真っすぐな軌跡で振られた斧は防御の為に突き出されたホッピングの柄ごとゴブリンを引き裂いた。
「不味そうな肉だべな」
……うん、本当に頑張ろう。女将に斧術を習ったとか言っていたけど、ここまで劇的に変わるのか。
ネルネさんは前方に宙返り(こっちはこっちですごい動きだな)でゴブリンを躱し、僕はホッピングとゴブリンの体の隙間へ足を入れ【ふんばり】で固定、止まったゴブリンの頭を下段突きで潰す。
「残りは9体ほどか、トア、ネルネさん援護してください」
「了解」
「任せるだべ!」
……しかし、さっきのトアの動きは良かったなぁ。なんて言うか自然体というか一歩踏み出す動きがそのまま溜めになっていて無駄がない。
僕ももっとこう自然体で、無駄のない自然な動きができないもんか。
呼吸を意識し精神を集中させる。
最近レベルが上がって身体能力が上がったせいか、技が雑になっている気がする。
それじゃあ【拳士】でいる意味がない、この上がった体力を無駄なく扱う術が伴なわなければ地力が圧倒的に上であろう【勇者】には勝てない。
僕と爺ちゃんの武術は『間』の武術だ。ギリギリまで相手を引き付けてこそ理が成立する。
力任せがダメってわけじゃないと思うけど、一度は諦めた爺ちゃんの合気をこの世界で極めたいっていう密かな目標の為には向き合わなくちゃならない。
仲間が倒されても、躊躇なく戦闘を続けるゴブリン達がまた跳びあがった。
それを見たトアが斧を振りかぶるが、手で制止して三歩前へ出て【威圧】を発動。
「だ、旦那様!?」
空を切るように加速してくるゴブリン達の踏みつけ。微妙に軌道が変わってくるあたり、魔力的な力が働いているのだろう。
だから早くに動いてはダメだ。もっとギリギリで相手の修正が効かないほど際の際でないと術にならない、『武術』には程遠い。
ギースさんの【威圧】のように、首無しの騎士が愛する人を守ろうとしたあの姿のように。
身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれって爺ちゃんも言ってたっけ。いや、実際めっちゃ怖いけどね。
掲げた指の先にホッピングが当たる。【掴む】で固定、ほんの少し、斜めにずらしながら転身、心臓が一拍の鼓動を打つ『間』の技。
【威圧】を解きゴブリン達が降りてくるであろうギリギリの隙間に体を通す、微かな変化はゴブリンの着地をずらし、そして隣のゴブリンにぶつかり、その衝撃でさらに他のゴブリンが転倒する。結果、自分の衝撃をホッピングでコントロールできず数体のゴブリンが派手に地面に叩きつけられる。
『多人数掛け呼吸法』の応用、少しのずれを伝えて集団を相手取る技。
元の世界にいたころは決まり事のある稽古ですらまともに成功できず、実戦で使うことなんて無理だと思っていた技を異世界で実現することができた(【スキル】使ったけど)。
転がったゴブリン達の中には足が折れてしまった者もいるらしく。陣形は完全に崩れていた。
「今だ! 行くぞ二人とも!」
「凄いだなぁ旦那様、負けらんねぇべ」
「何したか全然わかんないんだけど、とにかくチャンス、チャンス」
着地を失敗したゴブリンを狩り、逃げようとするゴブリンを【威圧】して無理やり注意を向かせ。
僕が攻撃を捌き、トアとネルネさんが一体ずつ倒していった。
数分後、最後の一体をトアの斧とネルネさんの鉤爪が八つ裂きにして、ホッピングゴブリンとの戦闘は終了した。
流石に無傷というわけではなく、攻撃を受け続けた僕は至る所に青痣ができている。
修行が足りないなぁ、顔にできた痣を撫でつつ反省する。
「途中の多人数掛けは上手くいったのに、その後攻撃を貰うんだもんなぁ」
「いや、普通は連携の取れたレアモンスター複数体なんて前衛一人で対応しないから、途中で壁代わろうとしたのに最後まで余裕で捌くなんて尋常じゃないよ。ヨシイ、あんた何者なの? お姉さんに話してごらん?」
「何と言われても、僕は僕ですよ、ただの冒険者です」
「いや、旦那様、真顔で言ってもそれは無理あるべ。まぁ、ワケありなんだべ。そんなことより素材を回収するだ」
「ニヒヒっ、まぁ冒険者なんて色々ある奴ばっかだもんね~。さて無事なホッピング全部持って帰るよっ!」
「これ何に使うんですか?」
「えっ? ちょっと変わった武器に使うらしいよ、後は貴族の子供の玩具ね、めっちゃ高く売れるんだから」
やっぱり玩具なんかい!!
こんな苦労して集めたものが玩具として消費されるのはちょっと複雑だけど、お金がもらえるならいいか。
「討伐証明は、この赤い帽子だべな。他には爪も素材になるべな」
トアが手際良く爪を剥ぎ取り、帽子とホッピングを持って拠点へ帰ろうとするとガンジさん達が追いついてきた。
「おいおい、もう終わってるのか」
「遅いねっ、ネルネ様にかかればこんなもんよ」
ネルネさんが胸を張る。ちなみに彼女の胸は大変滑らかだった。
「ヨシイ、今なんかお姉さんの胸見てなにか思わなかった?」
「誤解です。鉤爪をしまってください!」
武器を構えて、ジリジリと詰めよって来るネルネさんに相対しながらガンジさんを見ると、厳しい目をしていた。
あれ? ガンジさんにとってもネルネさんの胸の件はタブーなのか?
「お前ら、ちょっといいか?」
「えっ? なに? 今ちょっとお姉さんヨシイに聞きたいことが」
「いいから、聞けこのバカが!!」
「ギャンッ!!」
ガンジさんのチョップを受けてネルネさんが蹲る。
「いったい~なによっ!!」
「馬鹿猿め、俺は足止めをしとけって言ったよな? お前等なら、敵を引き付けて俺達と合流できると思ったから先に行かせたんだ。誰がその場で戦えなんて言った?」
……そういや、そういう手はずだった。調子に乗って先に攻撃しかけちゃった。
「すみません。僕が先に攻撃をしてそのまま戦闘に入ってしまいました。ネルネさんはそのフォローをしてくれたんです」
「いや、先輩冒険者として撤退を言わなかったこのバカが悪い! はぁ、無事で良かったぜ。ルーキー、お前が強いのはよくわかったが、冒険者ってのは用心に用心を重ねないとすぐに死んじまうぞ。まぁ途中他の魔物に邪魔されてすぐにここへ来れなかった俺達にも非はあるが」
「すみません~、音はしてたのですが、まさか地中からワームが飛び出してくるなんて……」
「……不覚」
うぅ、その通りだ。実際ゴブリン達の予想外の強さに割と危ないシーンもあったからな。
レベルが上がったからって、油断すれば死んでしまうことには違いはないんだ。
今日はファスやフクちゃんがいない分、もっと慎重に立ち回るべきだった。
「オ、オラも特に疑問なく戦っちゃったべ。ごめんなさいだ旦那様」
「そうだな。二人で反省しよう」
「ちょ、ちょっと、せっかく勝ったってのに暗くなるのは無しだよ! はいこの話終わりっ、拠点へ行って報酬ゲットに行こうよ!」
「お前はちょっとは反省しろ!」
その後、特に何事もなく拠点へ戻り、ホッピングゴブリンの討伐報酬として金貨二枚と冒険者ポイントを貰った。換金の際レアモンスターを複数体狩ったことで驚かれたが、ガンジさんが上手くとりなしてくれてホッピングや他の魔物の素材も引き取ってもらい結果的に金貨6枚と白銀貨数枚を手に入れた。
一日の儲けとしては上々だろう。
ガンジさん達はパーティーで山分けするのが通例だといって半分を渡してくれた。人数的に釣り合わないと言ったが、ゆずってくれず。結局僕が折れて半分の金貨三枚を貰うことになった。
他の冒険者達も一日の儲けを換金しており、その場で酒を買うなどしてスタンピードを満喫しているようだ。
明日こそは森の周辺を調査するという話をして、今日の所は解散となった。
ファス達が戻ってくるまで、トアと拠点をブラブラすることにした。
「お腹減ったなぁ」
「飯の準備してもいいけんど、ファスがいつ帰って来るかわかんねぇからなぁ」
「そういや、ファスが行っている戦場ってどんなだっけ?」
「中央の高台で、国の軍隊が足止めして高所から魔術師が魔術を飛ばしている現場だとか言っていたべな」
「何事もなければいいけどなぁ」
そんな話をしていると、ガヤガヤと人が集まる場所があった。
この場所には似合わない、燕尾服を着て髭を蓄えた見るからに偉そうな人が壇上へ上がり、背筋を伸ばして手に持った紙を広げている。
「何だあれ?」
「わかんねぇべ」
顔を見合わせてはてなを浮かべていると、ピョコっと間に見知ったローブが入って来た。
「ただいまですご主人様」
(タダイマ、マスター)
ファスとフクちゃんだ。よくこの人混みの中で僕等を見つけられたな。
まぁファスなら余裕か。
「お帰り、怪我はないか?」
「お疲れ様だべ、二人とも」
「ありません、フクちゃんが守ってくれましたから。遅れてしまってすみません。少し面倒があって……」
(イッパイ、タオシター)
この二人のことだから、かなりの魔物を倒したのかもしれない。
ただあんまり目立って欲しくないってのもあるんだよぁ。
「ほんなら、拠点へ帰って。飯を作るべ」
「はい、お手伝いしますね」
(ゴハンー)
「ファスの話楽しみだ。僕も話すことあるぞ、飛び跳ねるゴブリンがいたんだ」
「フフッ、ご主人様のお話も楽しみです」
拠点へ帰ろうと皆で踵を返すと、でかい図体に塞がれる。見上げるとライノスさんだった。
「おうっ、お前等か。ヨシイ、話はレノから聞いたぞ。今日はご苦労だったな」
「いえ、ガンジさん達に助けてもらったからです」
実際、色々参考になった一日だった。
「上手くやっているようだな。ところでお前等帰ろうとしているみたいだが、これから戦功の発表だぞ。聞いて行かないのか?」
「戦功ですか?」
「あぁ、その日一日で活躍した奴が発表される。尤もお膳立てされた場所でひたすらスキルぶっ放しているだけの転移者様が呼ばれるだけだがな。……おっとすまねえ」
「いえ、気にしないでください」
苦々し気にライノスさんが言う。なるほど、戦功の発表の場だったのか。
転移者のことも気になるし、ちょっと聞いて行こうかな。
『それでは、本日の戦功を発表する。本日の特別戦功。白星教会が聖女、サクラギ カナエ様 多くの騎士達の傷を癒し、戦場に大いなる奇跡を示したことをここに称える』
おぉ、桜木さんやっぱり来ているのか。実際彼女の広域回復はこういう場所でかなり有用だろう。
「やりますね、カナエ」
「頑張ってるんだなー」
(ガンバッテル)
「旦那様が来ているから頑張ったんでねぇか?」
いや、それはないと思う。
『それでは戦功を第三位から発表する。戦功第三位 マガネ ソウジ様! 配下を見事に指揮しパーティーで九十体もの上位の魔物を狩っております。その戦果をここに称えます』
「転移者の様ですが、ご主人様のお知り合いですか?」
「いや、聞いたことない名前だな、多分違う組の人だ、指揮をするクラスなのか」
(アイツ、ヤナヤツー)
「えぇ、人を物のように扱っていました。後で話しますね」
「わかった」
マガネ(漢字がわからん)って奴もファスは見ていたようだ。
どんな転移者が気になるな。
『続きまして、本日の戦功第二位。ラポーネ国が勇者! ソラノ ショウタ様! 単独で魔物討伐数百五十! おおいなる戦功をここに称えます』
「凄いな、百五十匹か」
「フンっ、大したことはありません。装備を使って宮廷魔術師達から魔力を延々と供給して、従魔に乗ってバカみたいに剣を振っていただけでした。あんなもの強さでもなんでもありません」
(カンジワルイー)
「へぇ、見たのか?」
「偵察がてら見ましたが、皆大したことはありません」
大したことはないったって、実際に百五十も倒したなら凄いことには変わりない。
今戦って勝てるのだろうか? ん? そういや今の発表って第二位だよな。
これ以上がいるのか、誰だろう? 他の転移者か。
『そして、最後に本日の第一戦功を発表する。本日の戦功第一位は交易の町が冒険者、ファス!! 単独で討伐した魔物二百三十体、一日に倒した魔物の数としては記録に残る大戦果をここに称え、ラポーネ国より『氷華の魔女』の称号を与える!!』
……えっ? 会場が一気にざわつく。
「……私の倒した数もカウントされるのですね」
(ファススゴイー)
「ファス、旦那様は一応、死んだことになってるべ。それにファスはエルフだし、あんまり目立つのは……」
「ち、違うんです。これには事情があって……」
とにかく話を聞こうとすると、ガシッと肩を掴まれた。
振り返ると、ニッコリ笑っているが青筋を浮かべているライノスさん。なんか肩がメシメシ言ってるんですけど!
「とにかく、一旦俺達のテントへ行くぞ、話はそれからだ」
その迫力を前に僕たちは無言でテントへと戻った。
ファス、一体何やらかしたんだ!?
というわけで、ホッピングゴブリンとの戦いで、自分の戦い方を見つめなおしたヨシイ君でした。
次回:ファスさん&フクちゃん無双、というわけで別行動していた二人の話になります。
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