表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【コミック&書籍発売中!!】奴隷に鍛えられる異世界生活【2800万pv突破!】  作者: 路地裏の茶屋
第五章:スタンピード編【蜘蛛の女王と恩師から託されたもの】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

80/527

第七十七話:獣人のパーティー

「おっし、野郎ども! 着いたぞ!」

 

 ライノスさんの大きな声が響く、町をでてから移動すること10日。ようやく僕等はスタンピードを迎え撃つ場所まで来ることができた。

 道中は割と強行軍で、異世界に来て体力が大幅に強化された僕はまだ大丈夫だったがファスは疲れた様子だったので何回か【吸傷】で疲労を引き受けた。


 他の冒険者達は流石というか、特に疲れた様子はなくむしろ一番ランクが低い冒険者である僕等を気遣い夜の番などを代わってくれようとしてくれた(礼を言って断っている)。

 懸念していたエルフであるファスへの注目はある程度はあったが、ライノスさんが目を光らせていたためしつこく関わってくる人はいなかった。

 他にも、馬の乗り方や野営で気を付けることなどを教わったり、得るものが多い道中だったと思う。

 このお礼はスタンピード討伐に貢献することで返そう。

 ちなみにトアは主に飯炊き的な面で八面六臂の活躍だったと言っておく。

 ファスもファスで圧倒的な視力による索敵で道中の魔物を発見し、貢献をしていた。

 あれ? 僕なんかしたっけ? ……考えないようにしよう。


「やっと、着きましたか。ご主人様、疲労を引き受けてもらってすみませんでした。もっと体力をつけたいです」

「気にしなくていいぞファス、受け身の稽古も続けているし大分体力もついたんじゃないか?」

「だべな、スタンピードでレベルが上がればもっと体力もつくべ」

(ツイター、タノシミー)


 フクちゃんもファスのローブから待ちきれないと顔を出している。

 僕的にはとりあえず、先発隊のことが気がかりだ。


 一団は露店や他の冒険者や軍隊と思わしき一団を横目に一際大きなテントまでたどり着いた。

 テントの入り口にはギルドでも見た看板があり、おそらくはここが冒険者ギルドのスタンピードにおける本部のようなものなのだろう。


「俺は中で話をつけておく。レノ、他の連中と馬をつないでこい」

「はいよ、皆ー、馬は向こうで世話してもらえるらしいから、行くぞー」


 ライノスさんの指示を受けたレノさんが声を出す。

 レノさんはライノスさんのパーティで弓を担いでいる細目の男性だ。種族は人間で歳は若く見えるがよくわからない。落ち着いた雰囲気で目立つことはないが、冒険者達は不思議とレノさんの言うことには素直に従っていた。


 指示された場所でギルドの職員と思われる人に馬を引き渡す。


「世話になったな、色々教えてくれてありがとう」

「……ヒンッ」


 今やフクちゃんの念話無しでもしっかりと言うことを聞いてくれるようになった馬に礼を言う。

 この賢い馬でなければ乗馬にもっと手こずっただろう。

 馬は僕に一瞥をするとそこからは振り返ることもなく簡易的な馬小屋の奥に歩いて行った。


 そこからは、再びレノさんに引き連れられ僕等の拠点となる大きなテントを皆で建てる。

 骨組みから数時間かけて作ったそれは、もはや移動式の住居と言ったほうがしっくりくるほどしっかりした建物になった。

 それを二つ建てれば寝るだけなら僕等全員入ることができるだろう。


 テントを組み立てて、各々の荷物の整理をしているとライノスさんが戻ってきた。


「拠点はできたな、じゃあ魔物の情報と俺達が戦う場所の情報を言うぞ……あとちょっと面倒なことになってな、まぁそっちは後で話そう」


 ライノスさんが手に持った紙に書かれていることを読み上げる。

 場所と魔物の情報は概ね前日に話されたことと変わりはなかったが、フクちゃんお目当てのアラクネは森の手前まで行った冒険者が確認したのみで討伐情報はなかった。

 転移者達特に勇者は目覚ましい活躍をしているだとか教会の聖女による回復もあったとか、叶さんも来ているのか。

 まぁ僕等は一介の冒険者なわけで聖女『様』と会うことはないだろう。……多分。


「――これで話すことは終いだ。後は、おいヨシイお前らは直接話がある。ちょっと顔を貸せ」

「えっ、はい。わかりました」


 説明の終わりにそんなことを言われた。僕等だけに話とはなんだろう?

 呼ばれるままに、ライノスさんの元へ行く。


「さっき言った、面倒なことなんだがな。本部からの指示で魔術師は別の場所で戦ってもらう必要があるそうだ。ファス嬢ちゃんの【クラス】が【魔術師】ってことを本部が知っててな、ったくどっから情報を仕入れたんだが……」

「ファスだけ別の場所へ行くってことですか?」


 それはちょっと抵抗があるぞ。エルフってことで狙われるんじゃないか?


「嬢ちゃんがエルフ、しかも翠眼ってことは知られてないと思いたい。ナノウ婆さんが箝口令を敷いたからな。ただ人の口に戸は立てられん」

「もう少し詳しく話してください。別の場所ってどういうことですか?」

「ここから数キロほど離れた場所に高台がある。そこは魔物が多く集まっている場所でな、高所から魔術で攻撃するにはうってつけらしい。効率良く魔物を倒すために魔術師を集めているそうだ。ファス以外にも俺のパーティから一人行くことになっている」

「拒否はできますか?」

「できる。……が、ここで本部ともめ事を起こしたくないのが本音だ。貴重な戦力である魔術師を俺達のギルドから出せば先発隊への調査に人員を割くとも言われている」


 どうしようかと思っているとファスが口を開いた。


「先発隊の調査もありますし、本部の機嫌を損ねたくないですね。……ご主人様、ここは話に乗っても良いと思います」

「危険じゃないか?」

「かもしれません。ですが、今は情報が欲しいです。魔術師が集まる場所なら、貴族に仕えている人もいるでしょうから情報も集まりやすいでしょう。先発隊のことやアラクネの情報を得られる可能性があります」


 うーん、でもやっぱり心配だなぁ。というか異世界に着いてからずっとファスと一緒にいたから僕自身ファスがいないと不安になってしまいそうだ。


「正直、かなり心配なんだけど……」

「確かに心配ですね。ご主人様が、です。私がいないとどんな無茶をするかわかりませんから」

「そうだべな」

(マスターハ、マナバナイ)

「そんなに無茶かなぁ」


 特に自覚はないんだけど。


「大丈夫です。すぐに戻りますから、私もご主人様と離れたくないのですから」


 目深に被ったフードを少しずらしてファスが見上げてくる。


「はぁ、わかった。でもフクちゃんは連れて行ってもらうぞ」

(リョウカイー)

「ンン……ゴホンッ」


 おっと、ライノスさんの咳払いで我に返る。


「ファスがそう言っているので、お願いします。ただあまり長くは……」

「もちろん配慮する。夜は戻ってきてもらうつもりだ。すまんな」


 ライノスさんに頭を下げられる。意外とこの人苦労人なんだよな、この辺はギースさんの兄貴分といったところなのだろうか。

 結局その後は、他の冒険者達と話をしながらご飯を食べ間仕切りで区切られたスペースで眠りについた。


 翌日、朝の柔軟を念入りに行う。ファスに手伝ってもらい着替えしようとするとフクちゃんがイソイソと何かを咥えてきた。白いシャツのように見えるが何着もある、というかブラジャーみたいなのもあるぞ。


(マスター、ミテミテー)

「おはようフクちゃん、それはなんだ?」

(フクダヨ、ヨナベ、シタ)


 マジか、渡されたシャツを広げると細い糸で編まれた半袖の肌着だった。


「一晩で編んだのですか、すごいです」

(エッヘン、ファス、ト、トアノブンモアルヨ)

「オラ達分もあるだべか、すごいな」


 絹糸のような滑らかな肌触りで着心地も良さそうだ。


「これ『聖糸』で編まれています。……とても丈夫そうですし、スゴイですフクちゃん!」

「オラのは頼んどいた胸当てだべな。んっ、サイズも良さそうだべ、さっそく着るだべな」


 トアがさっさと服を脱いで下着をつける。気持ちのいい脱ぎっぷりだけど刺激が強いんで脱ぐときは一言欲しいです。

 というか異世界にもブラジャーあるのか、というか元居た世界でもいつの時代からブラジャーあったかわからんな。中世の時代にはあったのだろうか?


「……フクちゃん、私にはあの胸当て無いんですか?」

(イラナイト、オモッタ)

「いります! 絶対にいります!」

(ワカッタ、ツクル)

「朝なんだから、少し静かにな。それとフクちゃん服ありがとう大事に着るよ」

(エッヘン、マタツクル)


 実際着てみると、とても肌触りがよい。吸水性も良さそうだし重宝しそうだ。

 流石フクちゃん……恐ろしい子。


「では、ご主人様行ってきます」


 小さな鞄を下げ杖を持って準備万端なファスが先に出発する。フクちゃんも一緒だ。


「おう、無理しないようにな」

「それは私の台詞です。トア、ご主人様を頼みます」

「わかったべ」

(アラクネ、サガスゾー)


 ファスのローブに潜ったフクちゃんはやる気十分な模様。

 僕とトアは他の冒険者達と一緒に先発隊が消えたという森の周辺を調査しながら魔物を倒していく予定だ。


 ライノスさんが人員を割り振った結果僕等と一緒に調査するのは、獣人で構成されたパーティだ。

 集合の場所へ行くと、先に到着していたパーティが目に入る。露出の激しい褐色の肌に赤みがかかった髪を一つにまとめている女性が一人に、トアと同じような耳をした男性が二人、最後の一人は少年の小柄な体躯に兎のような長い耳を頭から生やしている、性別は中性的な見た目の為わからない。

 兎耳の人以外は爪や牙を連想させるフェイスペイントしている。

 とりあえず挨拶をしなくちゃな。


「おはようございます。遅れてすみません」

「おっ、来たねルーキー。まずは自己紹介しよっか。アタシはネルネ、猿族だよ」

「おはよう新入り。俺の名はガンジ、狼族だ今日は頼りにしてるぞ。俺たちのパーティは獣人の癖に【威圧】持ちの前衛が居なくてな」

「犬族、マクセンだ……よろしく」

「兎族のモックです。僕等ネルネさん以外は索敵は得意なんで調査にはちょうどよいのですが、その分戦闘になったら貴方に力をかりると思います。よろしくお願いします」


 兎族の人は声まで中性的だった。丁寧に頭を下げられた。


「こちらこそよろしくお願いします。えーと、人族(この言い方でいいのか?)の吉井 真也と申します」


 そう名乗ると、トア以外の皆が目を丸くしている。アレ? なんか違ったか?


「旦那様、何族だって名乗るのは獣人だけだべ。……旦那様は少し世間知らずなんだ、気にしないで欲しいべ。犬族トア、旦那様の三番奴隷だべ。よろしくだ」


 そ、そうだったのか、皆から生温かい目で見られて恥ずかしいぞ。

 赤面する僕の横からトアが一歩出て挨拶をすると、ガンジさんが笑顔で頭をポンポンと叩いてきた。


「ハハッ、やっぱりいいとこの坊ちゃんか。だがガッツがあるのはギースとの戦闘で知ってるぜ、改めてよろしくな」

「アタシってば、貴族の坊ちゃんなんて大嫌いだけど、ヨシイはそんな感じしないよね。苦労したんだねー、お姉さんが慰めてあげるよ」

「……さっさと行くぞ」

「ちょ、ちょっとせめて、陣形くらいは話し合いましょうよ。ヨシイ君も戸惑いますよ」

「あん? 俺とヨシイが前衛で後は適当でいいだろ、魔物を相手にしているうちに自然と立ち位置がわかるさ」


 ピョコピョコと跳ねながら相談するモックさんに対してガンジさんが身も蓋もないことを言う。

 このパーティ大丈夫なんだろうか? そんな心配をしつつ僕等のパーティが出発した。

というわけで獣人のパーティーに入った吉井君です。一般の冒険者から見た吉井君の強さとか気になりますね。離脱したファスさんとフクちゃんはやらかします。盛大にやらかします。


次回予告:【拳士】VSホッピングゴブリン


ブックマーク&評価ありがとうございます。励みになります。

感想&ご指摘助かります。モチベーションがモリモリ上がります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ