第七話:バリバリ抱けますけど?
「ちょっとだけだから、ほんの少し、すぐ終わるから」
「ダメです。近寄らないでください。こないで」
よいではないかよいではないか、嫌よ嫌よも好きの内と言うではないか、じりじりと距離をつめとりあえず手を掴もうと半身に構える。なんせスキルに『掴む』があるしな。
「『吸呪』のスキルで呪いを僕が引き取れば、ファスの呪いは治るんだぞ!」
「さっき少し触っただけで、死にそうになっていたじゃないですか、絶対ダメです」
「いやいや、この鑑定を見てみろよ、『自己解呪』のスキルだ。僕が呪いを受けて治せばいいんだ」
「だから、どの程度の能力かわからないじゃありませんか、ご主人様に危険がある以上許すわけにはいきません。それ以上近づくと泣きますよ」
ドヤ顔で鑑定紙を見せて意気揚々と『吸呪』のスキルを使おうとするとファスに逃げられてしまい、こんなやりとりをさっきから続けている。ファスは強情だからこのままだと平行線だな。構えを解いて座りこみ両手を上げて降参の姿勢をとる。
「わかった。じゃあ現状を整理して、そこからどうするか考えよう。そもそもファスの呪いってどういうものなんだ?」
ファスは警戒しながらも僕のいる場所に近づき、ため息をついた後少し間を取ってポツポツと話し始めた。
「詳しくはわかりません。物心ついた時には私は呪われていて、本がたくさん置かれた部屋に閉じ込められていましたから。
そこでは身の回りの世話をしてくれたお婆さん以外とは話しませんでしたし。
この呪いが『竜の呪い』と呼ばれているということと、それを私が受けたのが赤ん坊の時だということ以外は何もわかりません。申し訳ありません」
おっと、なんだか昨晩部屋に来た時みたいに元気がなくなっちゃったな。この話題はやめたほうがいいか。
「とりあえずは呪いについてはわからないってことか、鑑定してみていいか?」
「その鑑定紙は複数回使えるのですか?」
「そうだけど?」
「普通鑑定紙は一回しか使えないものと本で読みました。複数回使えるものはかなり高価なものになります」
「アグーが高価な物だとか言ってた気がするな、どさくさに紛れて持っているからバレたら返せと言われるだろう、このことは秘密にしとこうな」
「かしこまりました。鑑定するのは構いませんが……」
ファスは煮え切らない態度をとる。まぁとりあえずやってみるか。
(対象をファスにして鑑定)魔力魔力と念じながら鑑定紙をファスに近づけると、僕の鑑定が消えて新たな文字が浮かび上がってきた。
―――――――――――――――――――――――――――
名前:ファス
性別:女性 年齢:16
クラス▼
【???】
スキル▼
【???】▼
【】【】【】
―――――――――――――――――――――――――――――――
『?』だと、これじゃあなにかわからないな。あと16歳ってことは同じ年か、同じ年でこんな目にあってんのか、辛かっただろうな。
「竜の呪いは、慢性的な身体の様々な異常と、クラスの封印だと本で読みました」
ファスが申し訳なさそうにそう言う。別に悪いことなんてないのに。
「気にするな、呪いを解けば好きなクラスに就けるようになるさ。ただこの結果じゃあ呪いの様子とかわからないな」
「えっと、高価な鑑定紙なら状態を鑑定することもできると読んだことがあります……」
えっそうなの? 試しに(状態異常を鑑定)と念じると、文字がまた新しく浮かび上がった。
―――――――――――――――――――――――――――
名前:ファス
性別:女性 年齢:16
状態
【専属奴隷】▼
【???】【???】【???】
【竜の呪い(侵食度92)】▼
【スキル封印】【クラス封印】【難病】【忌避】
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おっ、でたでた。この紙本当に便利だな。【竜の呪い侵食度92】ってのはこれが減ればいいのか?ファスにも見せて確認してみる。
「ファス、侵食度92ってのはさっき僕が呪いを吸収して減ったとみていいのかな?」
「はい、それで間違いないと思います。あっ、すみませんご主人様」
「えっ、なに?」
ファスが僕の方に向き直って、姿勢を正したかと思うと深々と頭を下げた。わけがわからず困惑していると。
「先ほどはご主人さまが苦しんでいたのでしっかり言っておりませんでした。ご主人様、喉を治してくださって本当にありがとうございました」
丁寧にゆっくりとファスはそう言った。うんやっぱりいい子だな。本当にこの世界に来て救われてるよ僕は。
「礼を言うのは呪いを全部解いてからだ。さぁ手を出してくれ。一気に治してしまおう」
「嫌です」
なんでだよ、このままベッドイン、じゃないや。吸呪させてくれる流れだったじゃないか。そしてまた先ほどの繰り返し。
「少しで済むから。天井のシミでも数えている間に終わるから。わかった一気にするのは怖いよな徐々に(吸呪に)慣らしていこう」
「ご主人様のお気持ちはわかりました。ですがまだ先ほどの(吸呪の)疲労が残っているかもしれません。休憩するなり、日をまたぐなりしたほうが確実です」
チッ、強情な。こうなったら先ほどは中断したが無理やり掴むか。そう考え飛び掛かるために腰を落とすと同時にガチャリとドアが開く。入ってきたのは昨日僕をのした、甲冑のおっさんだった。驚愕の表情を受かべてこっちを見ている。
「信じられん。まさかそんな醜女に欲情するとは、性欲が強いのは優れた戦士の証だが常軌を逸している」
違うわ。あくまで治療行為をしようとしているだけだ。誤解を解こうと意気込むと視界にファスがどこか傷ついた表情(鱗の為あくまで推測だけど)が目に入った。
はいここで脳内会議を始めます。
『委員長ここで全力で否定するとファスが傷つくし、それをしなかった場合僕は使えない転移者とは別に【異常性欲保持者】の称号を手に入れてしまいます。どうすればいいでしょうか?』
『今大事なのはそんなどうでもいいことではない』
『なんと、ではなにが重要なのですか?』
『実際ファスを抱けるかどうかだろうが!!』
『確かに!!』
再びファスを見てみる。どこか縋るように僕をみていた(ここまで0.5秒くらい)。
うんいける全然いける。というか昨晩は正直かなり嫌悪感があったが今はなんともない。むしろ好印象だ(もしかして【忌避】と関係しているのか?)、ジャパニーズヘンタイをなめてもらっては困る。
脳内会議を終了しおっさんに結果を告げる。
「ハッ、何言っているんですか、バリバリ抱けますけど?」
この日を境にアグー子爵の屋敷には、離れに異常な性欲をもつ人間が幽閉されているという噂が真しやかに囁かれ女性が離れに近づくことは一切なくなったという。
話がすすまない……。次回からは少し進展します。あとブックマークをつけてくれてありがとうございます。本当に励みになります。