第七十六話:キャンプのカレーはやたら旨い
「よっし、行くぞぉ!!」
いよいよスタンピードへの後発隊が出発する。辺りを見渡すと僕等を入れて四十人ほどがこの場にいた。
性別、種族(獣人が多い印象だ)、年齢とバラバラだが皆落ち着いて準備をこなしていた。
ライノスさんの大声を聞いてしっかりと整備され、むしろ前より良くなったような気すらする防具の感触を確かめつつ馬に跨る。
……ちょっと待って、僕馬の乗り方知らないんだけど?
なんか集合場所に着いて、詳しい話は野営中に話すとかで案内されて馬に跨らされたんだけど?
なんならこの馬、前アマウさんが用意してファスとフクちゃんによってボコボコにされたあのバカでっかい馬なんだけど?
助けを求めるように後ろ見ると、ギュっと腰に手を回してくるファスと、さらにはなんでもないように別の馬に乗るトアの姿が(フクちゃんはファスのローブの中です)。
「ファス? 僕が馬に乗れないのを知ってるよね?」
「乗れないのではなく、乗ったことがないだけです。挑戦してみましょう!」
そんな無茶な! 助けを求めてトアを見る。というかトアも馬の乗り方知らないって言っていたよな。
「フム、初めて乗るだが意外となんとかなりそうだべ、旦那様も頑張るだ」
「ご無体な! 無理だって、いきなり二人乗りとかできるわけないから!」
すでに、手慣れた様子で手綱を操り僕の横に並び止まるトア、待って、こっちはまだ発進と停止すらわからないぞ。
(ダイジョブ、マスター、ボクガイル)
頭の中でフクちゃんの念話が届く、いくらフクちゃんでも馬の操縦は無理だろ。
なんて思っていると、周囲の冒険者達と荷物を載せた馬車が進み始めた。不味い僕等も進まないと。
とりあえず、トアに発進の方法を聞こうとすると勝手に馬が歩き始めた。
「うわっ、ちょ、なんだ」
(マスターノ、イシヲ、ツタエタ)
「フクちゃんが、念話を使って馬にご主人様の意志を伝えているのです、後は徐々に操縦に慣れて行けば良いと思います。後で私にも教えてくださいね」
(オラオラ、サッサト、ススメー)
「ヒ、ヒヒーン」
尻から馬の恐怖が伝わるようだ……。でもこれでなんとか進むことはできたぞ。
というわけで、フクちゃんの助けを借りてなんとか出発することができた。
やっとこさ周囲を見る余裕ができたので、周りを観察してみる。
ライノスさんが選抜した冒険者達は、僕等をのぞき皆Cクラス以上らしい。
ギルドでは見かけなかった面子もおり、持っている武器も剣、弓、槍、棍棒、鎖鎌、に見たことないような変な形状の武器もあり、バラエティーに富んでいる。
「そういや、魔術師っていないのかな?」
「魔力を見たところ、数人ほどそれらしい人はいるようですね、神官や召喚士などの別の職業かもしれませんが」
「そういう職業ってやっぱり、少ないのかな?」
「そうですね、魔力の総量は種族の差がでやすいですし、その土地のギルドによるのではないでしょうか?」
なるほど、例えばエルフの町があったとしたらそこのギルドは魔術師が多いのかもしれないな。
「そりゃ、エルフや小人ばかりいるギルドならそうだろうけんど、全体的にみたら魔力を使う職は少ないべ」
横をカッポカッポと歩いているトアが話に入ってくる。ちなみに周りも思い思いに雑談している様子で堅苦しい感じはしない。
この辺がなんか冒険者っぽいなぁと思う。
「そうなのですか?」
おっと、別のことを考えてたら話が進んでいた。
「そうだべ、特に攻撃魔術を覚える魔術師なんかはそうそういるもんじゃねぇべ。獣人ではほとんどいねぇし、人間でも魔力に関する修行をつんで運が良ければなれるかどうかって話だべ、もちろん血統にもよるけんどな、だから魔術師はギルドの冒険者よりも貴族お抱えってのが多いべな」
「へぇ、流石よく知ってるなぁ」
「私も本で読んだ知識ばかりなので、参考になりますね」
「厨房で聞こえてくる話を、聞いてただけだべ」
なんて話をしながら、道を進んでいく。
そのうちに乗馬にも少し慣れてきて、フクちゃんの補助なしでも簡単な操作ならできるようになってきた。
というのも、今乗っているこの馬かなり頭がいいようで僕に操縦を教えるようにバランスを崩したり、素直に従ったりするので大体どうすればいいのかだんだんわかってきた。
日がかたむいて夕方に差し掛かる位になるとライノスさんの号令で開けた場所で野営の準備が始まる。
『自分のことは自分でやる』が信条の冒険者達はパーティに分かれ流石に手慣れた様子でテントを張ったり焚火を行う。
僕等も手慣れた様子で、トアが焚火をファスが水の用意をし僕がテントを設置する。
といっても、このテント中々に優れモノで支柱さえ固定できれば勝手に開くのだ、うーん異世界って便利だなぁ。
「おい! 飯炊きできる奴は手伝えっ!!」
「おっと、こっからはオラの仕事だべな」
一際大きな焚火が炊かれた場所から声が聞こえた。どうやらご飯はギルドから支給されたものを調理するらしい。まぁ別々に作るよりも一斉に作った方が手っ取り早いのは道理だ。
この辺は協力していくのだろう。
トアが調理器具を持って「行ってくるだ」と言って、元気よく向かった。
「飯炊き以外はこっちで、スタンピードでのことを説明する! さっさと寄ってこい」
ライノスさんのよく通る声が聞こえる。
「僕等はあっちか」
「そのようですね」
(アラクネノコト、キキタイ)
飯炊きを十人ほどに任せて残りの三十人はライノスさんの下へと向かう。
あたりは夕暮れで少し薄暗いが焚火の明かりのおかげで、お互いの顔はわかる。
気の早いものはすでに干し肉をかじっていた。良いなおいしそうだ。
「おっし、集まったな。じゃあ俺達が向かうスタンピードに関しての情報を説明するぞ、大まかなことは知っている者も多いだろうが、知らない者のことも考えて一から説明していく。
今回の場所は、カラヤツ荒原だ。いくつかの森に繋がる場所で、起伏があり高低差が激しい場所だ。高台はすでに軍隊が押さえていて、戦線を作っている。
その後ろでは集まった商人による市場もできてるぞ、スタンピードらしく補給には困らん。
一番魔物が来るであろう場所は軍隊と勇者を筆頭とする転移者達の狩り場となっている。俺達冒険者ギルドはそのうち漏らしや戦線の横っ面を守ることだ、裏を取られることはないと思うが、群れから離れるハグレの魔物はやっかいな場合がある、気をつけろ。
すでに配置は冒険者ギルド本部が決めている、運が良ければ貴重な素材を持つ魔物を狩ることもできるだろう。魔物の種類は向こうに着き次第資料を渡されるから確認しておけ、基本的にはいつも通りのパーティで動いてもらうが、魔物の動きしだいではこの部隊全員で対処してもらうこともある。
特に壁となる【威圧】系統のスキル持ちは俺の指示に従って集まってもらうことがある。連絡用の笛の音は聞き逃すなよ。後はいつも通りやりゃいい、冒険者は自分たちの為に動いてなんぼだ。稼いでこい!」
ライノスさんの言葉に呼応して周囲から歓声が上がる。
歓声が落ち着いてくると、ライノスさんがドッと腰を落とし、落ち着いたトーンで話し始めた。
「さて景気のいい話はこれまでだ……先発隊のことを話す」
笑顔で盛り上がっていた冒険者達の顔が引き締まる。皆そのことについては気になっていたようだ。
もちろん僕も気になっている。
「先発隊の行方は未だ不明だ。療養所の方にも確認したがうちのギルドのメンバーは誰一人として見つからなかった。
……実は行方不明となっている人数は過去のスタンピードに比べてもかなり多いらしい。ギルド本部の連中もようやくおかしいと思い始めたようだ。ボンクラどもめ、遅すぎるんだよ。
俺達が向かう場所だが、戦線の右に位置し魔物が湧いている森から近い場所にある。ギース……先発隊はスタンピードに到着し順調に魔物を狩っていたらしい、行方不明になったのは森の魔物の様子を調査に行ってからだ。
魔物の湧きが少なくなったので軍隊から様子を見てこいと指示があったらしい。ギースがその指示に対してどう思ったかはわからねぇが、奴は危険だと思えば誰の指図だろうが突っぱねる奴だ。
つまり想定外が起きたってことだ。ギルド本部は捜索をしてくれているらしいが、スタンピードの片手間でしかない。それに転移者達を持て余した貴族のせいで現場が乱れているという情報も入っている。
先発隊の調査は俺達が積極的にしなくちゃならん。その分損することがあれば、俺が責任を持って補填する。仲間の為にどうか力を貸してほしい」
ライノスさんはそう言って膝に手を置いて深々と頭を下げた。
焚火の明かりに照らされる。その姿を周囲の冒険者達は静かに見ていた。
そして堰を切ったかのように声が投げかけられる。
「頭を上げてくれ、ライノスの旦那。俺達も思いは一緒だぜ!!」
「おう、先発隊の奴らと一緒に飲む酒をおごってもらいましょうか」
「私達だって仲間を助けたいと思っているですよ」
「ケッ、消えた奴の中には金を貸してた奴もいたんだ、かってに死なれてたまるかよ」
「すでに、他のギルドに情報を貰う手回しです。その辺の話も詰めましょう」
皆、声を上げ仲間を助けようと言っている。
黙っている人もいたが、そういう人に限ってやる気を漲らせた顔をしている。
僕も気持ちが抑えられず「絶対助けましょう」と叫んでいた。
ファスはそんな僕を笑顔で見ていてくれている。
「助かる! よし、捜索に関してのことも話し合っていこう」
頭を上げたライノスさんに冒険者達が考えを話し、どうするかをライノスさんのパーティメンバーが羊皮紙に書き留めていく。
話し合いが白熱していく中、良い匂いと一緒にトアや他の料理をしている者の声が聞こえた。
「飯ができたべ、話すのは一旦止めて、お椀もって並ぶべ!」
「みんなー、ちゃんと並びなさいよー、横入りしたらぶっ飛ばすからねー」
その声を聞いた、冒険者達は我先にと飯の下へ向かう。もちろん僕等もだ。
列に並ぶと、カレーのような香辛料の匂いがして眩暈がするほど腹が減ってきた。
今か今かと待っているとエプロンをしたトアがでかい鍋の前にお椀を持って立っている。
「お、旦那様、いいとこよそうだ」
「旨そうだな」
「お腹減りましたねー」
(ハヤクハヤク)
「はいはい、ちょっと待つだべ。隣にいってパンと肉も持っていくだよ」
とういわけで、スープとパンと炙った干し肉を貰う。
「あんたが、トアさんのご主人様?」
ホクホクとご飯を持って行こうとすると、配膳をしていたやや年配の女性に少し歩いた場所で話しかけられる。
確かトアと一緒に料理をしていたメンバーの一人だ。
「そうですけど?」
「あの子、本っ当に凄いわ、目分量なのにピタッと味を決めるのよね。それに調理の時間が圧倒的に早いのよ、スキルのおかげなのよね? あぁ教えてもらわなくてもいいわ、その辺は秘密だものね。とにかくすごい子ってことを知って欲しいの、大事にしなきゃだめよ!」
「えっと、はい、トアは大事なメンバーです。料理の腕も確かだと思っていますし」
「本当に理解してるのかしら? このことはライノスさんにも伝えておくわ、あの子自身なぜか自覚がなくて不安になるのよ、後で褒めたげなさいよ!」
そんなことを言うだけ言って嵐のように過ぎ去って行った。
やっぱりこの世界基準でもトアはすごいらしい。というかあのおばさんもいい人だな。
「むぅ、負けてられませんね」
(ガンバルッ)
その評価を聞いてファスとフクちゃんもやる気を上げたようだ。
いや、君らが頑張る前に僕が頑張んないとね。
心の中でそんなことを思っていると、ご飯を持ったトアがこっちにきた。
「配膳代わってもらっただ。一緒に食べるだよ」
「そうですね、暖かいうちに食べましょう」
(タベルノー)
なんともないような顔をしているが、ほんのりと頬が赤い、この距離で耳が良いトアがおばさんの声を聞き逃してるとは考えにくいから照れてるんだろうな。
焚火の前に座り、夕飯をいただく。スープはかなり味が濃くいわゆるスープカレーのようだ。
野菜のうまみがぎゅっと詰まっていて、爽快な香辛料の辛さが癖になる。
これがパンと合うんだなぁ。短い調理時間なのにしっかりと味が染み込んでいる辺り、多分スキルの影響なのだろう。
「モグモグ……おいひいれす」
(オカワリー)
「はいはい、もらってくるべ」
「じゃあ僕のもよろしく」
「味わって食べてるだか、まったく旦那様は」
「私もお代わりです、皆で行きましょう」
「……鍋を持って来た方が早い気がしてきたべ」
普通にお代わりを要求した僕等だったが、すでに鍋の前には人だかりができていた。
「お代わりだ、このスープうまいぜ」
「酒に合うな、もっとないのか」
「お代わりは一人一回までだって言ってるでしょ、あんたもう三回は顔見たわよ!!」
なんて声が響いている。
「余分に作ったんだけどなぁ」
ぼやいているトアを横目に僕等もイソイソと列に並ぶのであった。
そんなことがあった夕食後、今度は全員で集まりスタンピードに向けての話し合いは夜を徹して行われた。
というわけで、スタンピードに向けた回です。転移者達もスタンピードに到着しているようですね。
次回予告:スタンピードに到着、他の転移者もでるかもしれません
ブックマーク&評価ありがとうございます。励みになります。
感想&ご指摘助かります。モチベーションが上がります。






