第七十五話:労働って尊いと思う。
スタンピードに必要なものを買い揃え、ギルドの食堂へ行くと既にファスがいた。
カウンターから少し離れた隅の机をキープしてくれているようだ。
問題は、そのファスの周りの机に男達が座っていることだ、露骨に人が偏っている。
「なんだろうな、あれ」
「あんなに固まると、注文とるのが楽だべな」
宿で働いていたトアがそんなことを言っている。
とりあえず、ファスがいる机まで行くと笑顔で迎えてくれた。
「お疲れ様です、ご主人様、トア、買い物は済みましたか?」
何事もないようにファスが話してくるが、周囲の雰囲気が普通じゃない。
露骨にメンチを切られてるんですけど。
「買い物は済んでるけど、どうしてこんな状況に?」
「別に何もありませんよ、ご主人様を待っている時に、しつこく話しかけられたので相手をしてあげただけです」
そう言って、食堂の窓の外を指さす。見ると何人かの男が積み重なっていた。
よく見ると、糸で動けないようだ。多分フクちゃんの糸で縛られた後に『重力域』で潰されて、そのまま外へ放り出されたな。
ファスに興味を持った(何度か顔を晒してるし、エルフだってことも知っている者もいるだろう)冒険者が話しかけたが、無残にもああなってしまった為に他の男たちも話しかけづらくなり、この膠着状態ができてしまったのか。
「そ、そうか。大丈夫だったか?」
(ヨワスギ、チンピラダッタ)
「しつこい男は嫌われるべな、とりあえず、何か頼むべ」
何でもないようにトアが座ると、ファスが給仕を呼んで適当に注文した。
運ばれた食事を食べつつ、お互いの買ったものを確認し漏れがないか調べた。
「フクちゃんは服を見れたのか?」
(ミター、アレナラ、ツクレル)
「フクちゃんは最近裁縫の練習もしているのですよ? 今度下着やタオルを作ってくれるそうです」
「そりゃ助かるべな、サラシよりも体にあった下着の方が動きやすいだ」
そりゃ、あれだけ大きければ大変だろうな。
なんて思っていると、ファスの視線がきつくなった気がするので、話題を逸らそう。
「ところで、買い物も終わったのなら、これからどうする? 防具の整備はまだ時間がかかるだろうしな」
後発隊の出発は四日後だ、それまで何もしないのももったいない。
「それなら、アマウさんに何か簡単な仕事が無いか聞くのはどうでしょう? 確か昨日細々した依頼があると言っていましたし」
「そういやそうだったな。よしじゃあどんな依頼があるか聞きに行こうか」
というわけで、周囲の注目を浴びながら昼食を食べ終え受付へ向かう。
途中で女性冒険者に「よくやった。スッとした」とか「私も吹っ飛ばしてやりたかったよ」とかファスに称賛が送られていた。
どうやらファスに絡んだ男達はギルドでも質の悪い奴らで、いたるところで恨みを買っていたらしい。
ファスは少し居心地悪そうに、僕の背中に隠れながら会釈をしていた。褒められるのは苦手の様だ。
受付に並ぶと、アマウさんが僕等のところまで回ってきてくれた。
「こんにちわですー。今日はどんな御用ですかー?」
でかいファイルを持って、ヨチヨチと歩く姿はなんていうか、かなり和むな。
とりあえず、後発隊の出発までできるような簡単な依頼はないかと尋ねてみた。
「それでしたら色々ありますよー。エヘヘー、実はこうなると思って、あらかじめ適当な依頼を選んでおきましたー」
そう言って、ファイルから何枚か紙を取り出す。読むだけなら僕にもできるので読んでみると。
・石材運び、牛車まで石材を運ぶ作業、力自慢の冒険者求む!
・冒険者の心得の口述筆記、字の綺麗な方を募集してます。
・魔物の解体だ、手先の器用な奴を寄越してくれ。『解体』のスキル上げになるぞ。
とのこと、これ最後の依頼はマジロさんじゃないか。
「どうですか? どれも日雇いでそこそこお金もでます。ちゃんと冒険者としての評価ポイントも出ますよー、午後からでも受けられるのですぐにでも始められます」
「私は口述筆記の依頼ですね。字が綺麗かどうかわかりませんが」
「オラは解体だべな、マジロ爺さんの技術を近くで見れるのは良い経験になるべな」
「僕は石材運びか、いい筋トレになりそうだな」
(ボクハ?)
「フクちゃんは、ファスといてくれ。さっきみたいな奴らが来たら、頼むぞ」
(マカセテー)
というわけで、一旦別々にわかれ僕は指定された場所へ、市場から外れた場所に一メートル四方の石のブロックが積まれている所を見つけた。
なるほど、どこかから持ってこられたこのブロックがここで仕分けされるわけだ。
棟梁っぽい人に依頼書を見せると、肩をバンバン叩かれた。
「助かるぜ、人手はいくらあっても足りねぇんだ。ここで仕分けした石材を指定の牛車まで運んでくれい」
見れば、石材には〇×◇とそれぞれ印が書かれている。なるほどこの印に従って石材を運べばいいのか。
フフフ、腕がなるな。ギースさんの下で鍛えられていた時は重りを積んだ荷台を運ばされたっけなぁ。
「下に丸太を敷いて、転がすんだ……おい聞いてんのか!」
とりあえず、印の書かれた石材をしっかりと『掴む』で固定し持ち上げる。
なかなかいい重さだな。
「うぉお、さ、流石冒険者ってところか、やるじゃねぇか、獣人交りか?」
「いえ、人間ですよ。これを運べばいいんですね」
「そ、そうだ、運んだ数で報酬が変わるからな、頑張ってくれ」
なんかちょっと引かれている気がするが、気のせいだろう。
さぁ労働しようか。
――というわけで、暗くなるまで延々と石材を運び続けた。
石材はどんどん運び込まれてくるので、間が空くことはなく割といいペースで運べたんじゃないだろうか。
途中棟梁が「おい、大丈夫か? 休憩すりゃいいんだぞ?」とか心配してくれたけど、この世界で鍛えて来たのでこれくらいなら問題ない。というかギースさんのしごきに比べりゃ楽もいいとこだ。
「いや、よくやってくれた。十人分は働いてくれたぞ、ほれ報酬だ」
白銀貨五枚を渡してくれた。ギルドで清算じゃないのだろうか。
「そりゃおめぇ、ここで渡したほうが、すぐに飯にいけるし何かと都合がいいだろう」
棟梁の心遣いのようだった。明日も午後から来てほしいと言われた。
宿へ戻ると、どうやら僕が一番乗りのようで次にトア、最後にファスとフクちゃんが帰ってくる。
それぞれ、しっかりと働いたようだ。
ちなみに僕の白銀貨五枚が一番多かったのでちょっと誇らしい。
「明日は午前中は、鍛錬して午後からは今日と同じ依頼をこなそうかな」
「オラも今日と同じ依頼を明日もするべ、マジロ爺さんから色々教えてもらったべ」
「うーん、困りました。私の仕事は今日だけのようで、明日から新しい依頼をアマウさんに探してもらわなくてはなりませんね」
ファスの仕事は明日からないそうだ。まぁファスならなんでもできるだろうし……待てよ。
「なぁファス思うんだけど……」
翌日。
「うぉおおおおおお、何だこりゃあ」
はい、『重力域』で石材を軽くして、フクちゃんの糸でつないで一気に運ぶファスさんの無双によって、僕の仕事はなくなり、アマウさんに仕事を求めに行きましたとさ。
そうして依頼をこなしていくうちに、防具の整備や準備が整い、ついにスタンピード後発隊が出発する朝が来たのだった。
哀れ主人公……ということでやっと出発です。
次回予告:スタンピードに到着と勇者の力?です
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