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【コミック&書籍発売中!!】奴隷に鍛えられる異世界生活【2800万pv突破!】  作者: 路地裏の茶屋
第五章:スタンピード編【蜘蛛の女王と恩師から託されたもの】

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第七十二話:消えた部隊

「……あの、ファスさん?」

「…………」


 ゴトゴトと揺れる幌馬車で冷や汗をかきながらファスの顔色を窺うが、フードに隠れて顔はわからない。

 だが一つわかることがある。怒っている。間違いなくファスさんは怒ってらっしゃる。

 こういう時空気を和らげてくれるのはトアなのだが、トアはフクちゃんと一緒に幌の上に登っていていない。


 昨晩、あの月の下で叶さんを抱きとめた後。宿へ戻った叶さんは、


「私の気持ちは伝えたよ。というわけで、ファスさん、トアさん、フクちゃん、これからよろしくね」


 頬を赤らめ、とても嬉しそうにそう言い放った。

 叶さんはその後ファス達と少し話をして、すぐにバル神官と一緒に教会の騎士達の下に帰って行った。

 今回の一件で教会に対して不信を抱いたために、教会の庇護下にある転移者の女子達をどうにかするために戻るのだという。

 バルさんが全面的に協力し、転移者が教会に利用されないように手を打つらしい。

 全身からみなぎっているやる気の一端が僕なのだとしたら本当に光栄なことだと思う。


「教会で保護されてる子達のことを、なんとかしたらまたすぐに戻ってくるから。じゃあね! 次会ったときは私と奴隷契約を結んでもらうから、よろしくね!」

「えっ!? どういうこと!?」


 なんか恐ろしい言葉が聞こえたが、叶さんは問いかけには答えず、僕を軽く抱きしめ何度も振り返りながら手を振り、彼女は朝日に向かって馬を走らせて行った。

 うんうんと頷いているファス達に何があったのか問いただそうとしたがラッチモ戦の疲労が酷く眠気に勝てず、そのまま皆倒れるように眠ってしまったためにうやむやになってしまった。

 

 結局そのままもう一泊した。というのもラッチモとマリーさんの指輪を返そうと思ったからだ。

 村の地下墓地へと行き、ラッチモの肉体の方へ行くとその前に骨だけになった恐らくはラッチモの思い人であるマリーさんの死体があった。ワイトを倒したことでここに戻ってこれたのだろうか、二人の指に指輪をはめて、地下墓地をでる。二度と彼等の眠りが妨げられないように入り口を塞ぎ、花を手向けた。

 女将が後日聖職者を呼んできちんと弔ってくれると言ってくれた。

 

 そして、いよいよ出立するという時には女将から大量の食糧とギルドマスターへの手紙に熱烈なハグを受けた。


「ありがとぉねぇん。その手紙をギルマスに渡せばきっと役に立つわ。ファスちゃんもトアちゃんもフクちゃんも是非また来てねぇん」


 最後まで暑苦しい人だったが、色々とお世話になったなぁ。特にトアは女将との訓練で得るものが多かったのではないかと思う。

 宿はすぐにでも従業員を呼び戻し通常営業に戻るらしい、是非また来たいもんだ。

 

 何はともあれ、途中に通りがかった商隊に乗っけてもらいギルドがある町へ戻る最中というわけなのだが、雰囲気が重たい。

 宿を出てからファスがずっとだんまりなのだ。視線でトアとフクちゃんに助けを求めたのだが、二人とも知らんぷりというか、トアにいたっては微笑ましいものを見るような目で見られてしまった。


 というわけで、二人切りの馬車の中でファスに、話を振ってみるのだが……空気が重たい。

 叶さんのことを言わなきゃならんのだが、踏み出せない。


「……ご主人様」

「えっ、はい」


 不意にファスから話しかけられ、ビクっと体が跳ねる。

 ファスは杖を支えに揺れる幌の中で立ち上がり、僕の横にストンと座った。

 

「ご主人様は……」


 ファスは言いづらそうに、言葉を区切る。フードの奥で深い緑の瞳が揺れている。

 もしかして、僕が元の世界に戻ることを心配しているのだろうか? それとも他に別の悩みがあるのだろうか? どちらにせよ、僕にとって大事なことはファスのそばにいることだということをしっかり伝えよう。

 覚悟を決めて、ファスの言葉を待つ。その思いが伝わったのかファスの口が開く。


「ご主人様はやっぱり、胸の大きな女性が良いのですか?」

「へっ!?」


 ……何言ってんの?


「トアほどではありませんが、カナエも実は結構大きいということは知っています。だとすれば、わ、私は一番奴隷なのにご主人様を満足させられないのではないかと……」

「……頭が痛くなってきた。どうしてそんな話に?」


 というか叶さん大きいの? 制服の時とか聖女の格好の時を思い出してみるが、それほど胸が大きいという印象はない、むしろ細めという印象が強い。


「昨日、カナエはご主人様に思いを伝えたと言っていました。彼女の顔を見ればその結果がどうであったかは明白です。実はフクちゃんの糸を通じてカナエと話をしたのですが、カナエはご主人様がこの世界にいるならこの世界に残るそうです。それならば必然的にカナエもご主人様のモノになるというわけですから、夜のことも一緒にすることになるのかもしれません。ただでさえトアに負けているのに、カナエまで私よりあるとなれば、私はどうしたら!?」


 ……ファスさんが完全に混乱してらっしゃる。なんでこの子は胸のことになるとこんなに弱気になってしまうのだろう?


「落ち着けファス、前にも言ったけど、胸の大きさに貴賤はないぞ。僕はてっきり叶さんの告白を受けたことで怒っているのかと思ってたんだけど?」


 最大の懸念を伝えてみる。もし叶さんの気持ちが変わらないのであれば僕は彼女を受け入れるつもりだった。ファスもトアもいるこの状況でだ。

 それはもといた世界の倫理観に照らし合わせるならば許されないことだ。

 わりと深刻な話だと思うのに、ファスはなんてことなさそうに首をかしげる。


「そのことに思うことがまったくないわけではありませんが、カナエは私達の間に上下関係ができないように私達と同じようにご主人様と奴隷契約をするとまで言ってくれましたし、正直彼女の能力は私達のパーティーに噛み合います。トアもフクちゃんもカナエが仲間に加わることには賛成ですし、その点に関してはすでにカナエと私達の間で話はついてます」

「僕一切聞いてないんだけど!!」


 いつの間にか、叶さんがパーティに(しかも奴隷として)加わる話はついていたようだ。

 さすがに同級生を奴隷にするのは抵抗がある。

 やっぱり、皆を奴隷から解放したほうがいいような気がするなぁ、叶さんが合流したらそう提案しよう。

 

「話は終わったべか?」

(マスター、オナカ、ヘッター)


 幌の後ろが開いて、トアとフクちゃんが入ってくる。


「はい、ご主人様に直接言うことで少し落ち着きました」

「オラが言うのもあれだけど、ファスは余計なことを気にしすぎだべなぁ、旦那様、ファスはカナエが合流した後のことを考えて夜伽のことで不安になったんだと、ファスを抱いている時の旦那様を見ればそんなこと関係ねぇって誰でもわかるのになぁ」

(ダイジョブ、ダイジョブ)

「むぅ、わかっているのですが、不安なものは不安なんです」

「とりあえず、腹減ったから弁当でも食べようか」

(オベントー)


 ファスの雰囲気が和らいだので(僕の緊張感は高まったけど)荷物から女将が作ってくれた弁当を取り出し皆で食べる。

 ちまきのように包まれた弁当を開くと、おこわの様な出汁で炊かれたご飯が入っていた。

 スプーンですくってフクちゃんに食べさせながら、他愛のない話をしつつ馬車に揺られる。

 そのまま何事もなく翌日の昼には町へ帰ってきた。


 すぐにギルドへ行っても良かったのだが、まず荷物をおろしたかったのと今晩の宿を確保したかったので宿探しへ、幸いにもすぐに宿は見つかった。

 数日分の料金と、晩飯代を先に払って今度こそギルドへ向かう。

 ギルドの中は相も変わらず騒がしい。


「なんか久しぶりな気がするな」

「そうですね、ただ様子が少し違うような気がします」


 そうなの? 全然気づかなかった。言われてみれば確かに少し張り詰めているような、そんな雰囲気があるような気がしないでもない。

 受付に行くとすぐにアマウさんが来てくれた。台に登って書類をヨチヨチと運び置く微笑ましい様子も久しぶりに感じる。


「お疲れ様でーす。思ったよりも時間がかかってましたねー」

「大変だったんですよ。これ宿の女将からの手紙です。達成証明も入っているはずです」

「了解です、ちょっと確認しますねー」


 ジッと手紙と証明書を読んでいくアマウさんの表情が徐々に青ざめていく。


「ワイト討伐のはずが、デュラハンにゴーストとゾンビの大群ですかー……しかもダンジョン化まであったとか、これ確実にC級の難易度を超えてますねー。とりあえず達成は認めます。報酬は今日中にお支払いできますよー」

「これで、スタンピードに参加できるんですよね?」

「……その件でお話がありますー、お婆……ギルマスが丁度二階にいますからお話を聞いてください」


 そう言うアマウさんの声色はいつもの調子だが、表情は固い。

 いやな予感がするなぁ。ファスも同じ気持ちのようで、目線で訴えてきた。

 言われるがままに皆で二階のギルマスの部屋へ入る。

 ノックをして扉を開けると、机には大きな地図が置かれナノウさんとライノスさんがジッと視線を落とし見つめている。

 ナノウさんが顔をあげる。その顔は少し疲れているように見えた。


「おや、おかえり。ワイト討伐ご苦労だったね。女将がシン坊のことを褒めてたよ。大したもんだ」

「ありがとうございます。ところで、何かあったんですか?」


 ナノウさんがため息をつき、ライノスさんが鼻を鳴らす。

 空気が重くなり、嫌な予感が増していく。


「まだ、細かなことはわらないんだけどねぇ。先にスタンピードの討伐隊に参加したギー坊の部隊が行方不明になったと報告が来たんだよ」


 その言葉の意味がよくわからずに困惑する僕を見てナノウさんは言葉続けた。


「……つまりだね、ギー坊の部隊は全滅したってことだよ」 

 

お待たせして申し訳ありません。

トアの閑話はもう少し本編を進めてからかきます。

というわけでスタンピード編となります。他の転移者やフクちゃんの新たなる変化、ファスやトアの活躍、主人公の奮闘を書いていくつもりです。よろしくお願います。


次回予告(当てにしないでください):スタンピードに向けて出発。

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