第六十八話:混浴は男のロマン、ラウンド2
魔力を使いすぎ(使わせすぎ)た為に動けなくなった二人だったが、トアと女将が用意した昼食を食べると少し元気になったようだ。フクちゃんもどこからともなく現れたし。
ちなみに昼食の献立は川魚と漬物に鶏肉のつみれを入れた吸い物と日本人にとってはドストライクのものだった。トアがギルドマスターに習った料理を再現してみたとかなんとか。
「マジで旨い。涙が出てくる味だ……」
「異世界で白米がでるのは、世界観的にどうなんだろうとか、そんなことはどうでもよくなるね」
「ナノウさんに聞いた、転移者が好きそうなメニューだべ。気に入ったようで何よりだべな」
「モグモグ、なるほどこれがご主人様の好きな味ですか……それにしてもよく材料がありましたね、漬物はともかくこの魚はいったいどこで仕入れたのでしょうか?」
確かに、騎士団の分も考えるとこれだけの食料をどうやってまかなっているのだろうか?
「オラ達が特訓している合間に教会の方から鳥型の魔獣が運んできたらしいべ。食料の補充をバル爺さん経由で女将がお願いしていたらしいだ」
「魚なんて送れるのか、あっ、ご飯おかわりで」
「防腐の魔術をかけた容器に入れれば容易でしょう、私もおかわりです」
(ボクモー)
便利なもんだな、この世界の配送技術はもしかしたら僕等の世界に匹敵するレベルなんじゃなかろうか?
「はいはい、ところで旦那様の方は何があったんだべか? ファスが魔力を切らしているところなんて初めて見たべ」
手際よくご飯をおひつからよそいながらトアが聴いてきたので、簡単に午前にあった出来事を説明する。
まぁいまだによくわからない現象なんだけどな。
「――という感じだ」
「……説明されてもよくわかんねぇべ」
「実際に見たほうがよいでしょう。トアの方は順調ですか?」
「女将さんとの特訓は一区切りついたから午後からは旦那様達に合流しようと思っているべ」
トアの表情からはどこか自信のようなものを感じる、女将との特訓で何か掴んだのかもな。
(ボクモ、イッショニ、トックン、スルノー)
ピョンとフクちゃんが頭に乗ってくる。昨日今日と一体何していたのか知らないが、合流するってことは何か見せたいものがあるのだろう。
「では、午後は全員でそれぞれの成果を確認しましょうか、ラッチモとの戦いは明日の夜です。明日はあまり体力を特訓で使えないでしょうから今のうちにこちらの戦力を各々が把握しておきましょう」
「ちょ、ちょっと待ってよ。私まだ魔力が無さ過ぎて身体が動かないというか、ファスさんは大丈夫なの?」
ご飯を食べ終わり、ぐて~と横になっていた(牛になるぞ)叶さんが起き上がってファスに質問する。確かに先ほどまで魔力が切れて動けなかったはずだし、僕の新技の性質上ファスの方が魔力を消費しているはずなんだけど。
ファスの方はキョトンとした顔をしている。
「流石に全快というわけではありませんが、ご飯を食べたのである程度は回復しました」
「いやいや、そんなわけないよ!」
「ご主人様もご飯を食べれば大概の怪我は治りますよ?」
(ボクモ、ナオル)
「そんな無茶苦茶な!」
「諦めるべな、カナエ。旦那様達は大体こんな感じだべ」
ポンっとトアが叶さんの背中を優しく叩く。いや、別に僕はご飯で回復するわけじゃないけど……というか叶さんもこの世界ではチートキャラのはずなんだけどなぁ。ファスが規格外なのだろうか?
というわけで、明日のことも考えて叶さんは宿で休憩することになりパーティのメンバーで特訓することになった。
早速山中の開けた場所に移動した。昨日今日の特訓のせいでもはや周囲の木々はなぎ倒されたり地面は抉られていたり大変なことになっている。ファスは杖を持ったまま背筋を伸ばしストレッチをしている。
「カナエには悪いですが【息吹】を使った例の技の練習もできるので助かりました」
そういや、カナエさんの前では黒龍のブレスは使ってなかったな。
「隠す必要はないんじゃないか?」
「カナエは信用できますが、手の内はできるだけ晒さない方が賢明でしょう、特に私のスキルは少々特殊なので」
そんなもんなのか、まぁ、ファスがそういうなら別に僕から言うことはない。
(マスター、ミテホシイ、ワザ、アル)
フクちゃんが頭の上から話しかけてきた、心なしかいつもより甘えん坊のような気がする。少しの時間だが離れていたのが寂しかったのだろうか? うん、いっぱいナデナデしてやろう。
「そうか、楽しみだぞフクちゃん」
頭から腕に抱きなおしてなでると、フクちゃんは目を細めて猫のように気持ちよさそうにされるがままになっている。
「オラは別に新しい技があるとかじゃねぇけんどな。そんで何をするべか?」
トアもストレッチをしながらそう言ってきた。台詞ではそう言ってはいるがやっぱりどこか雰囲気が違う気がする。武道を嗜んでいる身としてはトアの成長が楽しみだったりする。どう変わったのか見せてもらおう。
「そりゃあ、決まってる。ファス、トア、フクちゃんで連携し僕を攻撃してくれ、遠慮はいらないぞ」
その言葉を受け、ファスの魔力は高まり、トアは斧を取りだしてゆったりと構える、フクちゃんはメキメキと戦闘体勢を取る。僕を含め皆笑みを浮かべていた。
うん、なんかいい感じだ。さて、始めますか。
結局、その日の訓練はラッチモとの戦闘を想定し陽が沈んでも続けられ、全員が疲労で動けなくなるまで続けられた(フクちゃんだけは多分まだ余裕あったと思う……フクちゃん恐ろしい子)
休憩を挟みながら、何とか宿まで帰ると女将が迎えてくれた。叶さんは先に寝ているようだ。
「んもう、明日が本番だってのに、そんなボロボロになってどうするの、ご飯の用意するからお風呂にはいってらっしゃい」
女将というよりおかんと言った方がしっくりくるようなことを言われてしまった。まぁ筋肉ムキムキのおっさんなんだけどな。
「なんだと、オラァァン」
「心が読まれただと!?」
得体の知れぬ女将のスペックに驚愕しつつ逃げるように露天風呂へ、フクちゃんと共に湯が汚れないようにしっかりと体を洗ってから浸かる。
「ふぁあああ~」
(フイー)
いやぁ、温泉っていいもんですね。
「それにしても、皆頑張ってたな。フクちゃんもお疲れ様」
(マダマダー)
齢0才にしてこの向上心である。フクちゃん……恐ろしい子。
プカプカ浮かぶフクちゃんをツンと指先で押すとクルクルと回転しておもしろい。
(イツモヨリマワッテオリマス)
「懐かしいネタだな……」
この二日間、アンデッド達はまったく活動しなかった。恐らくは先の戦闘のダメージを回復するためだろう。明日の満月が本番というわけだ。宿には騎士達や女将もいるし、あのデュラハンさえ僕らが相手すれば間違いはないだろう。
叶さんが騎士達の目をかいくぐり一緒に行けるかはわからないがフクちゃんとファスがなんかやってたので多分大丈夫だと思う。心の中で何度も見落としが無いか確認している自分に苦笑してしまう。ガラにもなく緊張しているのだ。
「あー、ダメだダメだ」
湯で顔を洗い、気分を切り替えようとするが上手くいかない。
「大丈夫ですよ」
透き通った中に強い芯を感じる声。湯あみ着を着たファスがいた。
「……ぜ、全然気づかなかったぞ、ファス」
「スキルで隠れてきましたから、トアもいますよ」
「まーた、なんか悩んでるんだか旦那様」
ひょいっとトアも出てくる。多分暗闇を操る【闇衣】を使ったのだろう、油断していたとはいえしてやられた気分だ。
さて諸君(誰だよ)まぁなんとか平静を装って対応したが(装えてない)、実は口から心臓が飛び出るほどドキドキしているわけですよ。
いやね、湯あみ着ってね透けるんですよ! ピンクの見えてはいけないものが見えてるわけで、ある意味では裸よりも扇情的に感じるわけで、気分の切り替えできたけどね! 次は別の意味で危険な状態です。
「騎士団もいるのに露天に来て大丈夫なのか?」
(イトハッテル)
「女将にお願いして、誰も入ってこないようにしてもらってるだよ。貸し切りだべな」
「カナエは、午前の疲労でグッスリと寝ています。抜かりはありません」
何に対しての抜かりなんですかね!?
ファスが湯に入り、コテンと肩に頭をのせてくる。トアは逆側の縁に座り湯あみ着から太ももを覗かせながら、いそいそと酌の準備をしている。
「最初は私ですよ」
「わかってるべ、ほいファス」
桶に徳利とぐい吞みが入れられトアからファスに手渡される。トアはそのまま苦笑しながら湯に入り距離をつめてきた。湯のしたで体(というかその暴力的な膨らみを)を少しだけ押し付けてくる。素知らぬ顔をしてはいるがどこか悪戯っ子のような笑みを浮かべこっちを見ている。
思考が完全に沈黙して何も喋れないというか何を喋ればいいのかわからない。
助けてくれ爺ちゃん!! 心の中で祖父に助けを求めるが夜空に浮かぶ祖父はサムズアップするばかりだった。役に立たん!!
「はいどうぞご主人様。この前は邪魔が入りましたから。今日はゆっくりと過ごしましょう」
「ちなみにその酒にもラクトワームの粉末を入れてるべ」
「……明日は決戦なわけなんだけど」
「ならば、なおさらご主人様には英気を養ってもらわなければなりません」
「旦那様は考えすぎるからな、今日はなんも考えず過ごしたほうがいいだ」
「フ、フクちゃんもいるし」
(マスター、ガンバレー)
ブルー〇スお前もか!
「むぅ、ご主人様は最近私達をないがしろにしていると思います。カナエとしかわからない話題で話をしてずるいと思います」
「そうだべーそうだべー」
(ズルイゾー)
そりゃTRPGや都市伝説の話なんてファス達にはわからんよな……薄々気づいていたけど寂しい思いをさせてしまったな。
……こうなりゃ僕も男だ、ここまで女性にさせといて引き下がるわけにはいかん!
「わかったよ。ありがとう皆」
濁り酒の注がれたぐい吞みを一気にあおる。甘く飲みやすいが喉を過ぎるとカッと熱くなる。
「ほら、皆も付き合えよ」
「はい、いただきます」
「いただくだ」
(ワーイ)
空になったぐい吞みをファスに渡すと両手でちょこんと指先で持ち興味深そうに僕が注ぐ酒を見ている。
そして、一気に杯をあおった。綺麗な喉がコクンと動きそれだけでドキドキする。
「……美味しいです」
「一気飲みした僕がいうのもなんだけど、そんな飲み方する酒じゃないと思うぞ」
「次はフクちゃんだな」
(アトデ、イイヨー)
「そうだべか、じゃあオラだな、注いでくれるだべか旦那様」
ファスから杯を受けたトアが慣れた手つきで両手で持ったぐい呑みを差し出してくる。酒を注ぐとこれまた一気に飲み干した。その際にタユンと揺れる(何がとは言わないが)ものに目線が吸いよせられる。
「次はフクちゃんだべな」
湯から上がり、石でできた縁に上がったフクちゃんの前へぐい吞みを置く。トアはそのまま自然に僕の耳元に顔を寄せ。
「フクちゃんとの約束があるから最後まではできねぇけど、これなら後で好きにさせてあげるべ」
と囁き、再び湯につかった。もうなんていうか、ごっつぁんです。
「ほら、フクちゃんも」
ぐい吞みへ酒を注いだがフクちゃんは動かない。どうしたんだろうか? と思っていると、こっちを見上げてきた。
(マスター、モウチョットダケ、マッテテネ)
そう言って、ぐい吞みから酒を器用に飲んだ(牙を入れて吸い取った)後ピョンと肩に飛び乗りおそらくだが僕の頬にキスをしてくれた。
「よくわからないけど、楽しみにしとくな」
フクちゃんを撫でてそう返す。フクちゃんならなんだってできるだろう。
残った酒をファスとトアにお酌をされ飲み干し、準備があるからと、先に部屋に帰されると女将が準備をしたのかすでに布団がしかれていた。無論一組だけだ。
山から吹いてくる風を受けながら水差しの水を飲んでいると、背後で戸が開かれた。
「お待たせしました」
「待たせたべな」
振り返ると、浴衣を来た二人が立っていた。いつもと違うのはトアは少し伸びた髪を綺麗に結ってもらっていることと二人とも薄く紅を塗っていたことだった。
そのまま僕等は布団に倒れこみお互いの身体を貪る……はずだった。
「ちょ、ファス、トア、休憩を……」
「まだまだいけますよね、ご主人様っ」
「情けない声上げるでねぇだ、夜はまだまだ長いだよ」
なんていうか、酒(とラクトワームの粉末)の入った二人に完全にやり込められ、むしろ一方的に貪られてしまったのだった。
はい、ラッチモ戦まで行けませんでした。私は悪くありません。温泉が悪いのです(すみませんでした)。
次回予告:今度こそラッチモ戦!!
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