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第六話:強情なファス

 名前を聞こうと彼女を見ると、そもそも彼女がボロ布一枚だったということに気が付いた。これはまずい。とりあえず学生服を着るように言って差し出すと。


「ごのような˝、高価な生地の服を着るわけにはいきませ˝ん。穢れて˝しまいます˝」


 独特のダミ声でそう言ってひざまずこうとする。


「いいから、着てください。えと、そうだ昨日ひどいことを言ったお詫びです。あと名前をおしえてください。あぁ僕の名前は吉井 真也と申します。ヨシイがファミリーネームでシンヤがファーストネームね。伝わるかな?」

「あの˝、敬語はおかしい˝です。私はあな˝たの奴隷です。私なんかが奴隷です˝いません˝」

「いやいや、僕の方こそ主人ということになってしまってごめんなさい。初対面の女性の方ですから敬語で喋らせてください」

「そ˝ういうわけにはいき˝ません」


 というか昨晩のことを加味すると僕の中では大恩人と言っても過言でないわけで、いっそ僕が奴隷でいいですという心境ですらある。結局そのあと言葉遣いについて言いあいになり。結局僕が折れる形で(かなり強情な性格だというのがわかった)彼女が敬語、僕が普通に話すことになった。ちなみに学生服はきっちり着せました。


「それで、話を戻しますが……戻すけど、名前を教えてもらえる?」

「はい˝ご主人様、ファスと申しま˝す。」

「ファスさんですね。よろしくお願いします……わかったよ、睨まないでくれ。んん、よろしくファスさん」

「さんは不要です。よろ˝しくお願いい˝たします、ご主人様」

「ご主人様ってのはくすぐったいんで、ヨシイとかシンヤでいいよ」

「いえ、ご主人様はご主人様なの˝で」


 この子本当に強情だな! 昨晩醜態を見られたせいなのか、昨日牢屋に入ってきたときのような怯えた様子はなく、毅然とした態度で意見を言ってくる。まぁ正直そのほうがずっと心地よいのだけれど。


「よし、ファス。とりあえず、僕の置かれている現状を説明するぞ。薄々気づいているけどかなりヤバイ状況だと思う」


 ファスがアグー側である可能性もないわけではないが、昨晩の様子をみるとその確率は低いと思う。なんせこっちの世界がどういったものなのか、いまだにわからないことだらけなのだ。聞きたいことは山ほどある。今はファスを信じて情報を集めるしかないだろう。なんせ僕は死にたくはなく、生きたいと言った奴隷を抱えているのだから責任重大だ。


 とりあえず、転移されてからの事柄を思い出せる限り細かに伝えた。ファスは僕が転移者だと知った時はかなり驚いていたが、その後は落ち着いて話を聞いてくれた。彼女はかなり聞き上手で視線であったり相槌が絶妙でスムーズに話すことができた。


「ご主人様のお゛っしゃるとおり゛、かなり゛不味い状況であると思い゛ます。アグー子爵はおそらぐご主人様を殺そうど、コホッ、コホッ」

「おいおい、大丈夫かファス?」

「コホッ、大丈夫でず。呪いのせいでよく、ゴホッ、息が苦しく、コホッ」

 苦しそうにせき込む彼女の背中をさすろうと手を背中に当てると、そこからドロリとしたなにかコールタールのようなものが手の中を伝ってきた。それが何なのか確かめる暇もなく体を鈍痛と倦怠感が襲う。


「体が軽く? ッご主人様!! 大丈夫ですか、えっ? 喉が痛くない!?」


(ファス、ダミ声じゃなくなってるぞ)


 それは鈴を転がしたような軽やかな女性の声だった。感想を言いたかったけど体を襲う痛みに耐えるのが精いっぱいで喋ることができない。女性の良いと思った部分はすぐに伝えて褒めるべしという祖父の教訓が頭に浮かんだが、それどころではない。


(息ができない。ゆっくりだ、少しずつ細く長くなら呼吸できる)


 痛みの中でなんとか呼吸する方法を見つけてあとはじっと耐えることしかできなかった。幸い痛みは十分(もっと長く感じたがファスに聞いたところそのくらいだった)ほどで収まった。ファスはその間ずっと僕を励ましていてくれた。

 もう大丈夫とジェスチャーで伝え起き上がると、ファスが興奮した様子で迫ってきた。


「ご、ご主人様。私声が出ます。普通に喋れます!」


 うんやっぱりいい声だ。小柄だし、もしかしたらファスはかなり幼いのかもな。そういえば歳を聞いていなかった。


「私、声が……ずっと喉が痛くてまともに喋れなくて……」

「ぞうか、よがっだな゛」僕の喉からでたのはファスと同じようなダミ声だった。


 ……部屋を沈黙が支配する。あーこれはもしかしなくても……


「私の呪いが……移った。そんな」


 ファスの顔が真っ青になる(実際は鱗に覆われて見えないが)。


「申し訳ありませんご主人様。影響があると奴隷商が言っていましたがまさかこんなことが起きるなんて、どうにかして私に呪いを戻さないと」


 オロオロと部屋を右往左往するファスを見ていると喉の痛みが和らぐようだ(他人事)。いや実際に痛みが治まってきてるように感じるぞ。


「あー、あー。ファス、大丈夫だ。ホラ、もう問題ないぞ」


 少し痛むがこれなら問題ない。


「本当に、大丈夫なのですか?」

「うん、もしかしたら。耐性スキルのせいかもな。鑑定紙だっけ? あれがあれば状態がわかるのだけどなぁ」


 あれ? あの紙ってどこやったっけ? 確かアグーに紙を見せた後、アグーが怒鳴って、それを聞きながら紙を内ポケットへ……。


「まてよ、ファスちょっと失礼」

「はい? あっあのご主人様!?」


 ファスが着ている学生服の内ポケットに刺すように突っ込まれた鑑定紙を引き抜いた。


「あったあった。これがあれば」

「…………(じー)」

 ファスがジトーとした目でねめつけてくる。そして気づく。


Q:今僕なにをした?

A:女子の服の内ポケットを(しかも服の下はほぼ裸の)まさぐって紙を取り出した。


 完全に変態である。


「ご、ごめんファス。違うんだ鑑定紙のことで頭がいっぱいになって、決してやましい気持ちなんて……」

「なにをしているんですか!!」

「わかってる。僕が悪かった。この通りだ許してくれ」

「また呪いが移ったらどうするんですか!!」


 えっ? そっち? そういえば触れたら呪いが移ったからそうなる可能性はあるわけか。


「大丈夫だ。問題ない」このセリフを言ったゲームのキャラは問題あったわけだが。

「気を付けてください。次は死んでしまうかもしれません」


 ファスは真剣な瞳でこっちを見て言っていた。そんな様子をみて罪悪感に押しつぶされそうになる。


「わかった気を付ける……とりあえず、鑑定してみるぞ」


(魔力魔力、対象僕で鑑定っと)じんわりと文字が浮かび上がってくる。


―――――――――――――――――――――――――――

名前:吉井 真也 (よしい しんや)

性別:男性 年齢:16  

クラス▼

【拳士LV.2】

【愚道者LV.3】

スキル▼

【拳士】▼

【拳骨LV.2】【掴むLV.1】【ふんばりLV.2】


【愚道者】▼

【全武器装備不可LV.100】【耐性経験値増加LV.2】【クラス経験値増加LV.2】

【吸呪LV.5】【自己解呪LV.3】

―――――――――――――――――――――――――――――――


 おもわず笑みがこぼれる。


「ファス、喜べ。お前の呪いの解き方がわかったぞ」


ファスの名前は語感できめました。

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