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【コミック&書籍発売中!!】奴隷に鍛えられる異世界生活【2800万pv突破!】  作者: 路地裏の茶屋
第四章:異世界温泉編【首無し騎士と聖女の想い】

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第六十六話:ご主人様が困るのです

「ホイ、おかわりだべ」

「ありがとう。……生きてるって素晴らしいなぁ」


 しみじみと呟く、あぁご飯が美味しい。トアと女将が作ってくれた焼き鳥(醤油のようなものがベースのタレ)と山菜の吸い物を泣きながら頬張る。吸い物の優しい塩分が身体と心に染みる。

 特訓と言う名の地獄を乗り越えた僕は宿の玄関で女将とトアに合流し、風呂に入り(叶さんの回復魔術が無ければ一人で風呂に入れなかったかもしれない)さっぱりした後でご飯を食べているわけだ。ちなみに女将は広間にいる騎士団達に晩御飯を持っていっているのでこの場にはいない。


「むしろ真也君良く生きてたよね、砕けた氷塊がめちゃくちゃな軌道で飛んで行ったときは死んじゃったかと思ったよ」

「いやまぁ、氷だけならいいんだけど常時【恐怖】で怯ませてくるからなぁ……叶さんの回復とバフがなかったら無理だったかなぁ」

「デュラハンやワイトの精神攻撃も想定した訓練ですし、ご主人様なら大丈夫だと信じていましたから。あっ私もお汁おかわりです」

(ボクモー)

「ハイハイだべ」

 

 いつの間にか戻ってきたフクちゃんと一緒におかわりを貰いながら、ムフーとなぜか自慢気にファスが胸を張る。いやいやファスさんやマジであの時は死ぬかと思ったぞい。

 叶さんのバフで集中力だの体力だの強化され、徹底的に回復してもらいながら立ちまわり、それでもなお何回か意識が飛んだ気がする。

 ちなみにだがファスとの普段の模擬戦、実は僕の勝率はそれほど悪くない。

 それは僕が距離を潰して接近戦に持っていくからだ、今日の訓練のようにファスの得意な距離からひたすらに魔術を受け続けるというのは、空間そのものが殺しにきているような感覚だった。

 もし将来魔術師と本気で戦うことがあれば、距離感は大事にしよう。


「闘技場の時も思ったんだけど、真也君って回復魔術の効きが普通より何倍も強いんだよね。冗談みたいにケガが治るからびっくりしちゃった」

「そうなの? てっきり転移者の恩恵かと思ってたよ、ファスそこの串とってくれ」

「はいどうぞご主人様。ご主人様のスキルに重複することで効果が特別に増えているのでしょうか? 転移者のスキルは謎が多いとされているのでなんともいえませんが……モグモグ」

「少なくとも、私が過去に回復魔法をかけた他の転移者と比べても圧倒的に早いと思う。というかファスさんそんなに細そうなのにすごい食べるのね。魔術も転移者みたいにすごいし、ずっとフード被ってるし、一体何者なの?」

「私はただの一番奴隷です。昔は食が細かったのですが、ご主人様とトアのおかげでたくさん食べれるようになりました」

「嬉しい言葉だべな。ほれもう一本串食べるだ」

(ムグムグ、オイシイ)


 ワイワイと喋りながら、お腹一杯晩御飯を食べると眠気がやってくる。明日も特訓だろうし今日はさっさと休もうという話になったところで、ファスとフクちゃんが廊下の方を見る。


「先ほどの司祭が来ます」


 その言葉のすぐ後に部屋の襖( のようなドア )が開かれる。


「聖女様! 探しました。馬車にいないと思ったらこんなところにおられたとは」


 そこに立っていたのは、ラッチモのノートを持っていたお爺さん。えーと……そうだバルさんだ。ラッチモのノートは僕らが持っているし、もしかしたら探していたのかも。


「チッ、しぶといですね」

(ムー、ドク、スクナカッタカナ?)


 ……しれっと横で不穏な言葉が聞こえて来たな。またなんかしてたのか、この二人、まさか騎士団達の回復が遅いのって……ま、まぁ考えすぎだよな。


「えーと、何でしょう、バルさん」


 やや、引きつった表情で叶さんが質問する。まぁ教会に関して思うことはあるんだろうな。


「あぁ……いえ、ワイトやデュラハンについて冒険者様と調べるのはよいのですが。騎士達はどうやらワイトの呪いのせいか一向に良くならないどころか心が弱っているようです。今は、教会より応援がくるまでは結界が張ってある馬車で過ごしてもらわなければ、安心ができませんので」

「そのことなんだけど、私は真也君……えーと、この冒険者さん達と協力して、あのデュラハンとワイトを止めようと思うの、騎士さん達はまだ調子が悪そうだし」

「何を仰っているのですか、冒険者様には失礼かもしれませんが、彼らに頼らずとも教会から応援が来ます。そうすればあんな背教者共なんら問題ではありません」


 先ほどまでとは打って変わって強い語気、視線が左右に振れている。明らかに焦っている。


「えっ?」 叶さんが目を見開く。

「『背教者』ですか、随分と慌てられている様子ですが、何かあったのですか」


 ファスが間髪容れずに質問する。トアは心得たものでさっさと食事を片付けながら、我関せずという態度を装い無言でバルさんを観察しているようだ。フクちゃんはそんなトアの服に潜りこんでいる。


「……申し訳ありません。どうやら気が動転しているようです」


 ファスがさらに何かを言おうとするが、叶さんが立ち上がり先に言葉を発した。


「バルさん。私、ラッチモさんのノートを見ました。廃村の地下墓地も調べています。教会がしたことは、大まかですがわかっているつもりです。でもちゃんとしたことを貴方から聞きたいです」


 爆弾発言。マジか、ここで言っちゃうのか叶さん。ファスは静かに叶さんを見ている。

 ここは彼女に任せるか。


「……あの墓へも行かれたのですか、手記を盗ったのは冒険者様ですね、思っていた以上に凄腕のようですな。こうなっては観念しましょう」


 バルさんは一気に年を取ったような、生気の抜けた表情で頭を差し出すように俯いた。そしてポツポツと語り始める。その内容は僕等の推測をほぼ辿っていた。

 当時立場が危うかった教会の一人の神官が、自分の直属でありいずれ聖騎士になることを嘱望されていたラッチモが故郷に帰ることを許さなかった。しかしラッチモの意志は固く説得は難しい。そしてそんな折、事件が起きてしまった。


「あの村の近くに地脈の魔力溜まりが偶然できました。そしてその魔力に釣られ魔物も現れました。極小規模のスタンピードとでもいいましょうか、教会はそれを察しながら……助けを送るどころか、冒険者ギルドに感づかれないように、情報工作まで行いました……上から指示を受け他ならぬ私が行いました。そのまま魔物に蹂躙された村で、死体がアンデッドになる為の儀式を行った司祭の内の一人も私です。そして、嘆くラッチモに『死人となった彼らを救うのは君しかいないと』と……言ったのも私なのです。そして彼はアンデッドとなった村人を切り伏せ、そしてその後も戦い続け、聖騎士となりました。フフ……彼は自分の首を落とす前に私の胸を貫くべきでしたね」


 パンッ、と乾いた音。叶さんがバルさんの頬を叩いた。


「自責の念は無かったんですか!?」

「ッ……私は孤児でした。気づいた時には教会が私の全てでした。そして上からの命令は絶対です。それにラッチモは結果的に村人以上に人々を救いました。それは村へ戻ってしまえば叶わなかったことです」

「でも、じゃあ、ラッチモさんが可哀想です! 一番守りたかったものを守れなかったなんて……」


 バルさんは、この老人は澄んだ目で慈しむように、泣き崩れた聖女を見ていた。この人は自分が間違っていることをわかった上で、そのまま進むことを選んだのだろうか。なんて歪な信仰。

 泣き崩れた叶さんの背をファスが撫でる。トアは布を取り出して涙を拭ってあげている。


「他の騎士達はこのことを知っているんですか?」

「全容は知りません。ですが大まかなことはわかっているでしょう。彼らは選ばれたものですから」

「選ばれたもの?」


 あの若い騎士団達はラッチモの無念を知っているのか気になって質問したのだが、また不穏な単語が出てきた。


「彼らは、特別に高い素養を持ち、競争を勝ち上がり、そして何より教会への忠誠が特別に強い者たちです。私以上に教会しか知らない人間なのです。彼等にとってラッチモが上の意向を無視し故郷へ帰ろうとしたことは、背信なのです。背信者が女神の罰を受けアンデッドになった。彼らは、いえ、私達はそう考えております。そして今回地脈の暴走を利用し村人を再び起こしたこともまた必要なことだと思っています」


 バルさんは穏やかに笑みを浮かべる。恐らくは、この老人は幾千もそう自分に言い聞かせたのではないだろうか。そうして自分を納得させないと耐えられなかったのではなかろうか。でなければ、そんな悲しそうに微笑みを浮かべやしないだろう。


「僕は、貴方が自分で言うほど教会を妄信しているようには見えません。地下墓地には教会が信じる女神の祈りではなく、ただ『彼らが救われることを願う』とありました。あの文章を書いたのは貴方なのではないのですか? それは女神とか教会とかではない貴方自身の――」

「これ以上の問答は無用です。冒険者様、これを……」


 渡されたのは、複雑な文様が描かれた金属製の護符だった。


「それは、アンデッド化の儀式の核にあたる部分です。ラッチモ達を討伐した後に聖女様の浄化をその護符に対して行えば、この地にかけられた魔術は完全に消えるでしょう。私は少し疲れました……」


 そう言って、バルさんは背を向ける。その背中が一瞬自分の姿と重なる。彼はこのまま死ぬつもりなのだと、すぐにわかった。

 でもどうしてそれを止めることができようか? そもそも僕はなんで彼を止めたいのか?


「待ちなさい」


 凛とした声が響く。ファスが立ち上がりフードを脱いで耳を露出する。その翠眼は強い意志を宿す。


「……驚きましたな、エルフの方でしたか。只者ではないと思っておりましたが」

「貴方が、これから何をするつもりなのか、その顔をみればわかります」

「でしたら、この老骨を休ませてくれませんか、私の本当にしたかったことは貴方達がやり遂げてくれるでしょう」

「やり遂げるということに関しては勿論です。ですが貴方に死なれては困るのです」


 言い切った。なぜそんなことが言える? 泣き崩れていた叶さんもキョトンとした顔をしている。

 バルさんに至っては見当もついていない様子だ。まぁ僕もわかんないけど。

 トア(とフクちゃん)だけがうんうんと頷いていた。

 そしてファスが宣言する。


「貴方に死なれると、ご主人様が悲しむのです。ご主人様は自分の命を粗末にすることに自身の姿を重ねることが多々ありますから。死ぬならご主人様の知らない所で分からないように死になさい」


 バルさんの口が開いていた。叶さんもポカーンとしている。

 いや、ファスさんそれはいくら何でも無茶苦茶な。確かに自分の姿にバルさんの背中を重ねたけどさ!


「一体何を……」


 困惑するバルさんにファスは続けて言い放つ。


「それができないなら、それほどに自分を許せないのなら、貴方が今回の件にケリをつけなさい。その後で好きにすればよいでしょう。勝手に押し付けられて、勝手に死なれたら迷惑なのです」


 そのあまりにも斜め上を行くファスの発言に皆沈黙する。そしてすぐにトアが腹を抱えて笑い出す。  

「アッハッハッハ、そうだべ、沈んだ旦那様慰めるのはオラ達だからな、まぁそれはそれで楽しんだけれども」

「ちょ、酷いな」


 そのトアの笑い声につられて叶さんも苦笑し、指の背で涙をぬぐう。


「ファスさん無茶苦茶だよ」

「ご主人様譲りです」

「いや、僕そんなんだっけ?」

(ダイタイコンナカンジ)


 フクちゃんまで……なんだか真面目に考えるのが馬鹿らしくなってきた。

 バルさんからは憑き物が落ちたように、悲壮な気配は消え去っていた。


「これは、参りましたな。迷惑とまで言われてしまっては……そうですな、どうせなら最後まで見届けてから身の振り方を考えることにしましょう」


 バルさんのしたことも教会のことも何も許されないし、多分彼自身が自分を許すこともないだろう。

 そもそも根本的に何も解決していない、それでもこの弛緩した空気の中でどうしてか前に進んだ気だけして。


 まったくしみじみ思う、ファスには敵わないなと。

修業パートの予定でしたが、教会側の動きがわかりづらくなったのと物語をまとめるために一話丸々説明についやしました。申し訳ありません。


次回予告:修行パート&決戦( までいけたらいいな )

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― 新着の感想 ―
[一言] マッチポンプ上等でコンプライアンスのコの字も無さそうな教会とその体質に染まりきったであろう若手騎士団で板挟みなバルさんカワイソス。 まるでブラック企業の中間管理職やな(´・ω・`)
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