第六十五話:山で特訓は王道
美しい庭園が見える旅館の一室で、黒髪の美少女に土下座している怪しい男がいるらしいですよ。
僕です。
「……見なかったことにしてください」
「頭上げてよ! 真也君! どうしたの!?」
なんかまた勝手に感情移入して、皆に慰められてしまった。しかもそれを元の世界からの知り合いである叶さんの前でだ。
皆に慰められた後一息ついて猛烈に恥ずかしくなり、とりあえず土下座して照れ隠しした次第です。
自殺とか命とかそういった話題になるとどうしても思うことがあって心が揺れてしまう。克服しなきゃなぁ。
とりあえず、叶さんをからかっておこう。
「お金なら払いますから」
「いらないよ!! 誰にも言わないから!! 顔上げてよ!!」
「仲良いべなぁ」
「……強敵ですね」
(マスター、タノシソウ)
閑話休題
そんなやり取りをした後に皆で話し合い、とりあえずラッチモの古い知り合いみたいだった女将に僕らの考えを話してみることにした。
正直教会は信用できないからな。叶さんはいろいろとショックだったみたいだけど、今はワイトとデュラハンの討伐に気持ちを切り替えているようだ。本当に強いな。
僕等の話を全て聞いた女将は、用意されたお茶を飲み長い溜息をついた。
「……そう、辛かったわねラッチモ……それで貴方達はどうする気なの?」
「やることは変わりません。周囲のアンデッドも含めて『完全』に討伐します。二度と彼らが目を覚ますことがないように」
ラッチモの手記にあった『再び辱められようとしています』の一文を見るに地脈の魔力を使ってもう一度あの悲しいアンデッド達を蘇らせたのだろう。叶さんと協力して、もう二度とそんな真似はさせないようにしないとな。
「ありがとうね。私もできる限り協力するわ、一線を退いたとは言え元A級の冒険者ですもの、色々と教えられることはあると思うわ、特にトアちゃんにはね」
「ん? オラだべか?」
「私も現役時代は斧使いだったの、基本くらいは教えられると思うわ」
「それは助かるべ、力まかせに振ることしか知らなかったからな」
うん、正直僕も斧を使った戦い方は全くしらないので、体捌きくらいしかトアに教えてないんだよな。
そもそも斧の強みが良くわからん。
「しかし、次ワイトが出てくる時間がわからない以上、あまり修業で体力を使うわけにもいかないと思いますが」
ファスがもっともなことをいう。確かに、練習で疲れて動けませんでしたじゃ話にならないな。
「それなら大丈夫かな? アンデッドが出るのは深夜だしそれに最も活発になる日は決まっているから」
「そうねぇん。その日に狙いを定めればいいと思うわぁん」
「あぁ、なるほどそうでしたね。それなら合点がいきます」
「待って、待って、話がドンドン進んでいくけどアンデッドが活発になる日っていつだ? 叶さんも何で知ってるの?」
「まだまだねぇ、真也君。古来より魔物が動き出す日と言えば……満月に決まってるじゃない」
聖女はドヤ顔でそう言い切ったのだった。
言われてみれば納得だ。いかにもだが異世界でも満月に魔物が暴れる理屈は通用するらしい。
女将によれば満月は三日後とのこと、騎士団の連中は身体の傷は癒えたが、ワイトの精神攻撃からまだ回復しておらず(というより敗戦で心折れてるっぽい)、応援を要請しているらしいので三日ほどなら動き出さないらしい。
教会の連中が動く前に次の満月に僕等でラッチモを止めることになった。
それならそれまでやることは単純。
「特訓だあああああああああ」
「やる気だね、真也君」
「頑張りましょうご主人様」
遅めのお昼ご飯を食べて、旅館の裏の山中の開けたとこで対ラッチモ&ワイト戦の修行を行うことにした。午前中は探索だったから、今日の午後から三日後の夜までを有意義に使おう。
僕とファスと叶さん、女将とトアのグループで特訓することにした。ちなみにフクちゃんは一人でやりたいことがあるらしい。
「それで私達はどうすればいいの?」
チョコンと首を傾げ、叶さんが質問してくる。ファスはすでに何をするか察しているのかフツフツと魔力が高まっていくのを感じる。……ファスさん手加減してね?
「私とカナエで、ご主人様を攻撃し続ければよろしいのですね」
「流石ファス、頼むよ」
「えぇ、ちょ、ちょっと待ってよ。そんなの危ないよ」
「前に戦った時、ラッチモ以外のワイトやゴースト? を捌き損ねたのが反省点だと思うんだよな。僕はパーティのタンクなわけだから、集団に襲われることがこれから増えていくと思う。それに対応するにはとにかく攻撃を受け続けるしかないと思うんだよね。危険なことはこの世界に来てからずっと経験しているから大丈夫大丈夫」
【威圧】を使った戦闘を行い思ったことは、僕は決して倒れてはいけないということ、一つでも多く攻撃を引き寄せて後衛が攻撃できるチャンスを作る。それは自分の身も守らなければならないということに他ならない。
「いや。でもぉ」
叶さんは乗り気ではないらしい、まぁ人間に向かって攻撃するのは気が引けるよな。
「ならカナエは逆に補助に徹してください。聖魔法は補助に長けていると聞きます。回復やバフをご主人様にかける練習をすればよいのではないでしょうか?」
「そ、それなら得意だよ。バッチコイだよ」
ファスの提案で叶さんは補助に回ることに、うーん二人掛かり来てもらったほうがより負荷がかかってよい修行になると思ったんだけどなぁ。
「心配は不要ですご主人様、カナエは危険ですので私の後ろからご主人様の補助をしてあげてください」
周囲をファスの魔力が満たしていく、アレ? ファスさん? これガチじゃない。というかもしかして怒ってる?
「別に、怒っているわけではありませんよ、ただ温泉の後の時間を邪魔されたことと、ご主人様とカナエが仲が良さそうなことにちょっと、少し、思うことがあるだけで……」
パキパキと周囲の草木が凍っていく。僕に魔力を読ませないためのフェイントまで仕込んでいるようだ。
「……叶さん、全力で補助と回復頼むわ」
「ごめん、無理かも……」
次の瞬間、足元から無数の氷の杭が飛び出し、重力が滅茶苦茶な方向に暴れまわった。
一方そのころ
トアは吉井達とは別の場所で、女将から教えを受けていた。
女将はいつものパツパツのタンクトップの恰好はそのままに、片手斧を両手に携えており、形容するなら山賊の頭領という表現がしっくりくる出で立ちだった。
「トアちゃんの斧、本当に綺麗ねぇ、風の文様かしらん? 美しいわぁ」
「旦那様がくれたんだべ、オラには勿体ねぇ武器だべな」
「それだけ大事にされてるってことよ、それでトアちゃんの斧のスキルは【飛斧】ねぇ、珍しいスキルだけに使いこなすのは大変そうね、まず基本の型からしっかりと教えるわよぉん」
「頼むべ」
女将が緩やかに両手を振りかぶり踏み出し、斧を振り切ると周囲の砂利が吹き飛ぶほどの風が起きた。
「まずは縦切りよぉん、次は……」
振りかぶる構えから腕をたたみ、腰を切りながら横に斧を振りぬく。静かになめらかな一閃。
縦切り、横切りともに身体全体を使い重さを相手にぶつけるような攻撃的な型だった。
「横切りねぇん」
「なんていうか、無駄がないべ」
「うふふ、ありがと。今見せたのが片手斧の基本の形よぉん。さぁトアちゃんもやってみて」
言われたままに、トアは女将の型を真似、斧を振る。体全体を使った振りを行う。
振られた斧には勢いがあり、身体も使えている。しかし女将の動きと比べればそれはどこかぎこちない。
トアは頭で見た女将の動きを思い出しながら、何回も斧を振る。
空を切るという動作は止める動作もあるため、全力で振った場合思っている以上に負荷がかかる。
トアは静かな山中でひたすら無心に斧を振る。時折どこかで雪崩のような音や「ひぎゃああああ」といった吉井の悲鳴が遠くから聞こえてきたが、その音も彼女の集中を乱すことは決してなかった。時折女将から指導が入りその都度調整を繰り返し、ただ無心に斧を振り続ける。
「そこまでよぉん」
女将の野太い声で、トアは斧を止める。全身びっしりと汗をかき斧を持つ手には血豆ができ腕の筋肉は痙攣しつる一歩手前だった。それでもトアは斧を振りかぶろうとする。
「もう少しやるべ」
「だめよぉん。今日はここまで、聖女ちゃんに回復してもらいましょ、私達には晩御飯の準備もあるしね」
「……オラは旦那様やファスやフクちゃんみたいに特別な力はねぇべ。【料理人】のクラスで戦闘にもやくにたたねぇしな、その分頑張んねぇと、恐ぇんだ。いつか置いていかれて、また一人になるんじゃねぇかって、どんなに努力しても無駄なんじゃねぇかって……」
「……トアちゃん、ねぇ、トアちゃん聞きたいのだけど、私のお料理どうだった?」
女将は、彫りの深い顔で笑みを浮かべながらトアに問いかけた。
「料理だべか? 美味しかったべ」
「【料理人】のクラスを持ってるあなたが食べてもそう思う?」
「ん、美味しかったべ、臭味を取るように工夫されてたし、きっと出汁も何種類も試したんじゃねぇか」
「ふふふ、ありがとねぇん。私ね本当は【料理人】になりたかったの、でもどんなに料理の修行を積んでも神殿で出てくるクラスは戦闘職のものばっかりだったわ。私もどんなにお料理の勉強しても無駄なんじゃないかって考えてた。でもねそんなの関係ないって思えるようになったの」
「なんでだべ?」
「私のお料理を食べて美味しいって言ってくれる人がいるからよ、だから私はクラスが無くてもお料理の勉強を続けられるの。トアちゃん、貴方は強くなるということが難しいと感じることがこれから先もあるでしょう。でも貴方は必要とされる喜びを知ってるわ。だって貴方、お料理をしている時も今斧を振っている時も自分以外のものの為にしているもの。安心しなさい、自分の為よりも誰かの為に努力できる貴方に結果は必ずついてくるわ。私の勘は当たるのよ」
バチコンとウィンクする女将にトアは笑顔を返す。
「さぁ帰るわよ、今日は何を作ろうかしらぁん」
「山鳥があったから、焼き物がいいでねぇべか」
「あらあら、いいわねぇ」
そうして帰った二人は、先に帰って来ていた吉井達を玄関で発見する。
陸に上がった魚のように、時折ビクンビクンと痙攣する吉井に涙目で叶が回復魔法をかけ、ファスはどこかバツが悪そうにその様子をみていた。
なにが有ったのか大体想像はつく、トアが吉井に駆け寄ると、意識を取り戻した吉井がトアに気付いた。
「……あぁ、トア、お腹減った。なんかある?」
「まったく、旦那様は仕方ねぇべな。任せるだ! オラがたっくさん旨ぇ飯作るからな!」
それは女将に返した笑みよりもずっと大きな大輪の花のような、彼女の会心の笑顔だった。
女将は筋肉モリモリマッチョマンです(真顔)ファスは意外と温泉の後に邪魔が入ったことを根に持ってます。
次回予告:修行パート其ノ二
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